表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵サフィーアの奮闘記  作者: 黒井福
100/100

第99話:残酷な差

ブックマーク登録ありがとうございます!励みになります。

 サフィーアがBランクに昇格してから、早くも二週間が経っていた。帝国軍と結果的にやりあってしまった三人だが、意外なことに帝国はあれから驚くほど静寂を保っており、何のアクションも起こしてはいなかった。


 その事に不気味なものを感じつつ、彼女たちは今日も今日とて依頼を熟している。


 と言っても、この日受けた依頼はここ最近受けたものの中ではかなり平穏なものであった。


「サフィ、あった?」

「ん~、見つかりません」


 この日受けた依頼は、マンドレイクの採取だ。マンドレイクとはここ最近発見された植物であり、主な用途として上級の魔力回復用のポーションの材料として重宝されている。

 重宝されているのだが、これがなかなかに見付け辛い。現に今もサフィーアとクレア、カインの三人が探し回っているのだが、全く見つけることができずにいた。それは決して生育条件が厳しくて特定の場所や時期・時間帯でないと採取できないと言う訳ではない。と言うか生育条件自体はかなり緩いらしく、本気で見つけようとすれば意外とどこででも見つけることが可能であった。


 では一体何が問題なのか? それは………………。


「居た居た居たッ! 見つけた、そっちに向かってるッ!」


 出し抜けに叫ぶカイン。彼が指さす先には、がさがさと揺れる草むらが――――


――――いや、草そのものが動いていた。膝丈程度の高さに葉が生えた一つの球根が、根を使って地面の上を滑るように走っていたのだ。しかも地味に速い。


 これがマンドレイクがなかなか採取できない理由だった。こいつは植物のくせして近くに動物などが近づくと根を使って器用に逃げるのだ。一体何故こんなことができるのか専門家の間で議論が交わされているが、一説には草食のモンスターなどに食われないように移動する術を身につけたのではないかと言われている。事実、マンドレイクは近くに物が落ちたりした程度では動かないが動物が近づくと素早く反応して動物から距離をとるように動くことが確認されていた。


 この生態の所為で、マンドレイクは非常に見付け辛い植物として有名なのである。見つけようとしてもこちらの存在に気付くと、距離をとるように動いてしまうので見つけるのが困難なのだ。

 だがこんな変な生態をしていても、物は植物なので対処のしようはある。一番簡単なのは早期に発見したら、網を張っておいてそちらに向かって追い立てるように動くことだ。所詮は植物であり刺激に対する反射で動いているだけなので、目の前に網があっても構わず突っ込んでくれる。

 問題は、動いていない状態のマンドレイクは他の植物と殆ど見分けがつかないので早期の発見自体が困難なことであるが。


 今回、このマンドレイク採取のセオリーに従ってサフィーア達は一応網を持ってきてはいるのだが、肝心のマンドレイクがまるで発見できず先程まで森の中を彷徨っていた。そして漸く見つけたのだが、今度は見つけたマンドレイクを見失わないようにすることが大変だった。

 何しろマンドレイクの地上を移動する速度は、根で一体どうやっているのかと言うほど速い。これがモンスターでないことを疑うくらい速いのだ。

 しかもまだ見つけていなかった為に、持ってきた網は畳まれた状態でカインが背負っているバックパックに入っている。これではいくら追いかけても意味がない。


「てか、あれいつまで走り続けるのッ!?」

「マンドレイクの採取は初めて受ける依頼だったけど、こりゃしんどいわね!?」

「攻撃できないのがもどかしいよ」


 物がそんなに大きくない上に品質の事を考えると、迂闊に攻撃して傷付ける訳にもいかない。それがサフィーア達の行動を制限していた。


「あれ? ウォールは?」


 その時、サフィーアはいつの間にか肩からいつもの重さが無くなっていることに気付いた。マンドレイクを追いかけるのに夢中になっていて、いなくなったことに気付かなかった。

 すわ、逸れたか!? と周囲を見渡すサフィーアだったが、ウォールは三人が思ってもみないところから現れた。


「くぅん!」


 突然、マンドレイクの真上からウォールが飛び下り抑えつけた。上から押さえつけられたマンドレイクは、根っこを必死に動かして移動しようとしているが然して大きくない植物のパワーで振り払われるほどウォールも非力ではない。結果、マンドレイクは後から追いついてきたカインに捕まり、網の中に放り込まれたのだった。


「ウォール! よくやったわ、あんたは偉い!!」


 サフィーア達三人が派手に動いたおかげで、ウォールの動きをマンドレイクは感知できなかった。そこに気付き、素早くかつ的確に動きマンドレイクを捕まえて見せた。今回は正にウォールの大手柄だった。

 サフィーアは功労者のウォールを抱き上げ、抱き締めながら頬擦りする。主人からの熱い抱擁に、ウォールも嬉しそうに目を細めた。

 そんな一人と一匹を横目で見つつ、クレアはカインが持つ網の中で未だに根を動かしているマンドレイクを眺めた。


「こ~んなゲテモノな植物が薬の材料になるだなんてねぇ?」

「そんなものだよ。良い物ってのは見た目が悪い物からも出来るものさ」

「ねぇ、それでポーション出来るって事はそれ齧れば魔力回復するの?」

「ダメダメ、薬も過ぎれば毒となる。これを直接齧ろうものなら、飽和魔力でこの間のクレア以上にひどい事になるよ」


 これが魔力回復用ポーションの材料になると言う事を思い出し、興味本位で訊ねてみたサフィーアはカインから返ってきた答えに顔を引き攣らせて距離を取った。クレアも、先日遺跡でレッド・サード化したランドレーベとの戦いで全身ズタボロになった時の事を思い出し、顔を顰めている。


 魔力は無ければ無いで生命に関わる事もあるが、あり過ぎても問題があった。それが飽和魔力であり、早い話が制御が及ばなくなるほど体に入った魔力が、好き勝手に暴れて体の組織を壊してしまうのだ。オーバーコートはその一歩手前のギリギリの状態を維持したものであり、それ故に制御が難しい上に上手くいかないと逆に体を傷つける結果になるのである。


「うげぇ、何か危なそう。大丈夫なの?」

「これ自体に害はないよ。さ、目的は果たしたし、早く帰ろう」


 マンドレイクが一つ入った網を担ぎ踵を返すカイン。たった一つでは些か少ないように思えるかもしれないが、前述した通りマンドレイクは生育条件が緩くしかも根を張った状態に移行させられれば、たった一つからでも驚くほど増えるのだ。今回依頼が出されたのは、とある製薬工場で栽培していたマンドレイクが害虫に食い荒らされてしまったからだった。


 サフィーアとクレアが微妙な表情でマンドレイクを眺めているのを肩越しにチラ見したカインは、肩を竦めつつ網でぐるぐる巻きにしたマンドレイクをギルドでレンタルした車のトランクに放り込み、自身は運転席へと着くのだった。



***



 その後、イートに戻った三人はギルドに採取したマンドレイクを納品し、報酬を受け取りこの日はそれで締めと言う事になった。報酬は三人で分配し、ちょうどいい時間でもあったのでそのまま夕食を終わらせ、そして今………………。


「あ゛~~……散々走り回った後のお風呂は気持ちいいわぁ」

「ですねぇ」


 サフィーアとクレアの二人は、宿にある宿泊客用の大浴場でこの日の疲れと汚れを落としていた。今回は特に戦闘があった訳ではないが、その割にはいつも以上に疲れたと感じる。戦闘が無かった分、逆に気分が高揚する事が無かったからだろうか。

 クレアなどは女性らしからぬ声を上げながら大きい湯船に肩まで浸かっており、その様子を見てサフィーアは彼女の隣で苦笑を浮かべている。


 尚余談だが、両名とも抜群のプロポーションを持っているので、湯に浸かると二人の持つ豊かな双丘が湯に浮いている事を記しておく。


「…………はぁ」


 暫く苦笑していたサフィーアだったが、不意に笑みを引っ込めると湯面に視線を落としながら溜め息を吐いた。明らかに気分が落ち込んでいる様子に、クレアが彼女に声を掛ける。


「な~に辛気臭い顔してんのよ?」

「あぁ~、いや…………」

「当ててやろうか? ビーネに推薦受けた事を気にしてるんでしょ?」


 マンドレイクの納品後、サフィーアはまたしてもナタリアから次の昇格に関わる話を聞かされていた。何でもビーネから強い推薦を受けており、次に大きな依頼を成功させた時再び昇格試験を実施する運びとなっているとのことだった。つまり、殆どB+への昇格が約束されたも同然と言う事である。

 普通であれば喜ばしい事だが、あのビーネが関わっているとなると話は別だった。その推薦の裏に隠された、彼女の言外の要求に気付かずにはいられなかったのだ。


「あたし、あれ、あの人が『もっとランクを上げてさらに大変な依頼を受けれるようになってね♪』って言ってるように思えるんですけど……」

「奇遇ね、私もよ。そのつもりで推薦したんでしょ」

「嬉しくないなぁ…………」


 口元まで湯船に浸かり、ブクブクと音を立てるサフィーア。その子供っぽい仕草にクレアは溜め息を一つ吐くと、突然真横からサフィーアの胸を鷲掴みにした。


「わぁぁっ!? く、クレアさんッ!?」

「な~にこんなことでしょげてんのよ? 難しく考えたってしょうがないでしょ。あの女相手に抵抗なんてほとんど無意味なんだから、この際貰えるもんは貰っちゃいなさいな」

「ちょっ!? ま、待って、ひゃんっ!?」


 情け容赦なくサフィーアの豊満な胸を揉みしだくクレア。勿論抵抗するサフィーアだが、Aランクの実力を無駄に発揮するクレアを引き剥がすことは出来なかった。


「く、クレアさん!? 他にも人!? 人居ますから、あ、やん!?」

「女ばっかなんだから気にするんじゃないの! ま~ったく、胸こんだけ大きいくせして変な所で肝っ玉小っちゃいんだから」

「む、胸と肝っ玉は関係無、はひっ!? そ、それに胸だったらクレアさん人の事、んんっ!?」


 胸を揉みしだかれる恥辱とない訳ではない周りからの目に対する羞恥に、サフィーアは湯の熱とは別の意味で顔を赤くする。抵抗する過程で湯船に浸かる時邪魔にならないようにと纏めておいた髪も解け、濡れた頬に張り付き何とも艶やかな姿を晒していた。


 当然ながら二人の、と言うかサフィーアの艶姿は他の浴場を利用している女性客の目にもばっちり入っている。その多くは彼女たちと同じ傭兵であり、女傭兵同士であればあの程度の事はちょっと過激なスキンシップ程度として受け止められるので、そこまで変な目で見られることはなかった。

 まぁ、中にはそっち系の趣味を持っているのか二人の様子を食い入るように眺めている者も居たが。


 その中には、偶々ここを訪れていたシルフの姿もあった。最初二人の存在に気付かなかった彼女は、二人が騒ぎ出したところでその存在に気付き知り合いと言う事で挨拶しようと近付きかけたのだが…………。


「………………」


 絡み合う二人を、正確にはその二人の胸にぶら下がる双丘を見て、自分の胸元を見下ろした。視線を下ろした先にある、無い訳ではないが二人に比べてあまりにも貧相な膨らみ。そして再び豊満な二人の胸元を見やる時には、シルフの目からは光が消えていた。

 同じ女性でありながら、この天と地ほどの差。しかもサフィーアに至っては、自分とほぼ同い年の筈だ。にも拘らず、あまりにも残酷すぎる違いを目の当たりにし、彼女は思わず呪詛を口にする。


「…………もげちまえばいいのに」


 あまりにもストレート且つ禍々しい思念を感じ取り、サフィーアはクレアに胸を揉みしだかれながらびくりと肩を震わせ肌を粟立たせるのだった。

ご覧頂きありがとうございました。


ご感想等受け付けていますので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ