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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第五章:沈みゆく天使と黒真珠の誓い――海賊王の財宝に眠る、最後の願い
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第八十七話:囮作戦開始――海賊王の末裔と、心なき帝国へ

海賊王テンペストの血を引くシーサイレン一家と手を組み、

ついに魔王たちは“帝国海軍基地”への陽動作戦に打って出る――!


目的はただ一つ、“人魚たち”を救うため。

敵の拠点は一つ。味方は数名。作戦は……爆破。


緻密な潜入、頭脳の駆け引き、そして魔王らしい豪快な爆破劇がはじまる!


緊張とユーモアが交差する第87話、開幕です。

シーサイレン一家――かつての海賊王テンペスト・タイラントの末裔。

彼らの体には、人間と人魚の血が混ざっていた。

下半身こそ魚ではないため人間並みしか泳げないが、水中で呼吸ができる。

陸にも上がれるが、長時間海水を離れると脱水症状が出る。

水陸両用のようで、実は両方の欠点を兼ね備えた不便な種族だった。

彼ら一族は代々、海賊のふりをして人魚たちを密かに守ってきた。

だが、最近になって現れた“奇妙な海賊”――

その装備はやたらと高性能で、統率も取れていた。

そんな相手に、三バカが敵うわけがない。

それでも彼らは、必死に人魚たちを救おうとしていた。

その過程で、マリの商船を人魚輸送船と勘違いし――

私と出会うことになったわけだ。

デンジャラスは、ルーの力を見て見込みを立て、

「海賊王の財宝が奪われた」と仕掛けてきた。

つまり、私たちが海賊を倒すことで人魚が助かるようにと、

巧妙に導いたのだ――魔王である私を、利用して。

……度胸だけは、海賊王級かもしれない。

今でこそ三人は元気そうにしているが、足が震えてるのは丸見えだ。

殺されると思っているのだろう。

まあ、くだらない嘘を吐けば、そのつもりだったけどな。

「マスター、どした?」

遊び疲れたルーが甲板に戻ってきた。

今回の宝探しは、どちらかと言えば家族サービスの一環。

この子が楽しく過ごせることが、何より大切だ。

「ルー。財宝って、金じゃなくてもいいのか?」

「うん、僕はマスターと“宝探しの思い出”がほしいだけだから」

まったく、この子は金や権力に執着がない。

私も人魚や真珠に興味はない――が、“あの真珠”は別だ。

「シーサイレン一家。取引しよう。

海賊王の財宝を取り戻す代わりに――

最初に見せたあの黒真珠を私にくれ。

それで、勘弁してやる」

マリから高い金で買うより、

ずっと大きく美しい“あれ”をタダで手に入れる方が賢い。

なにより、ルーの思い出にもなる。一石二鳥だ。

「……何を企んでいる。殺して奪えばいいものを、なぜ取引など持ちかける?」

「それも可能だ。だが、それは私一人だった場合の話。

今はルーと一緒に“思い出”を作っている最中だ。

真珠は“ついで”だ。くれないならそれで構わん。

君たちだって、仲間の人魚が救われるなら、手段なんてどうでもいいだろう?」

「……わかりました。真珠は差し上げます。

どうか、彼女たちを――助けてください」

三人は、深く頭を下げた。

これで、すべてのピースが揃った。

“宝”の在処は、もう特定できる。

人魚は、海水がなければ生きられない。

ハーフである三バカですら、一日離れるだけで脱水症状が起きるのだ。

純血の人魚たちを、海から遠い場所で大量に監禁するなど不可能。

そして“高価な資源”である彼女たちを雑に扱うとも思えない。

ならば――

帝国の海軍基地しかありえない。

直接ルーに明星大砲を撃たせるのも手だが、

あの子に加減は効かない。人魚ごと蒸発させる可能性がある。

私の魔法で攻める方法もあるが、

その間に他の拠点へ移されてしまったら意味がない。

だからこそ、陽動作戦を立てた。

「海賊を捕まえたんだ。賞金、出せよ」

私は、シーサイレン一家の父と姉を連れて海軍基地へ出向いた。

“賞金首を引き渡すふり”だ。

「旦那、こいつらのどこが海賊に見える?

サーカスのピエロを連れてきたのか?」

やはり、相手にされない。

「何を言う。我々は“悪名高き”シーサイレン一家だぞ。

懸賞金が何億かかってもおかしくはない!」

「そうだそうだ! あたいは“この海の女帝”ラブリー・シーサイレン!

その名を知らないとは、坊や、海の怖さを知らないねぇ」

「もう帰ってくれ。今、海軍は忙しいんだ」

「そうだろうな。最近、この辺りに機械船を使う偽装帆船の海賊が現れてるって話だが……」

その瞬間、海兵の顔から笑みが消えた。

「……なんのことかな。そんな海賊の被害など、聞いたことがない」

「だろうな。賞金も出してない。

だから私が片っ端から狩った。死ぬ間際に“帝国万歳”と叫ぶ奴ばかりでな。

君たちにとっても――さぞ迷惑だったろう」

海兵の顔が、じわりと黒に染まっていった。

拳が震えている、血管が浮き出る、汗をにじませながら敬礼のように見えた。

……やはりな。

私たちがこれほど海賊狩りをして、帝国が気づかないはずがない。

味方を何人も殺されたのだ。憎いのは当然だ。

だが――この場で明言すれば、それは罠に変わる。

「もしもし? こちらKG1132。

例の海賊船らしきものを確認。……至急、増援を頼む」

これで“私たち”は、捕縛対象になる。

「そっか。じゃあ金にならないなら、帰るわ。邪魔したな」

「いいえ――帰らせません。

今この瞬間、あなたたちは指名手配されました」

「シーサイレン一家、極悪海賊。賞金:一万ゴールド」

――魚は、釣れた。

「バカ父、走るぞ! 船に戻ったら即出航!

バカ姉は遅れたら置いてくからな!」

「誰に言ってんだ! 俺たちは悪名高い――」

「この海の女帝、ラブリー・シーサイレン!

あたいの銃は火を吹くわよ!」

私は、海軍基地の正門を――爆破した。

さて。

あとはこの騒ぎで、帝国海軍をどれだけ引きつけられるか。

上官が冷静さを取り戻すまでに、どれほどの時間を稼げるか――

ルー。バカ弟。あとは頼んだぞ。

ご覧いただきありがとうございます。


今回は、ここまでの情報と伏線が実を結ぶ“作戦回”でした。


魔王の知略、ルーとの「宝探しの思い出」という感情軸、そしてシーサイレン一家の海賊王としての誇り……。

全員が“自分なりの正義”を背負って行動する回として、大変気に入っています。


この話を通して、読者の中で「帝国=ただの敵ではない」「でも見逃せない相手だ」という印象が強まれば嬉しいです。


次回はルーとナマズの“本命作戦”――人魚救出編がいよいよ本格化します。どうぞお楽しみに!

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