表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第九章:魔王とは何か、王が王になる前の話――千年前の地獄と九つの罪
192/200

第百八十二話:八千百年の切り札ーー白色矮星

地獄は、燃えなかった。

白く、静かに、圧縮された。

音は消え、

色は奪われ、

九つの層は一つの点へと潰れていく。

それは爆発ではない。

終焉ですらない。

ただ、圧倒的な“重力”。

世界最強が、本気になった証。

けれど――

その中心にいた悪魔は、

未来を知りながら、

逃げなかった。

全知でも、止められないものがある。

それは、

引力よりも強い感情。

白は、すべてを飲み込む。









セリナたちが来ていない正史では、毛玉とモリアはどんな勝負をしたのか。

答えは――千年にわたる泥仕合。

全知のモリアは、毛玉の手の内のすべてを読んでいた。そして、どう対策するかも。

「フェイクの作戦すら読んで、本命の作戦だけ正確に対策するなんて……私と相性が悪すぎる」

「あら酷い。私とあなたの相性占いの結果は、どれも『抜群』でしたよ。ふふふ」

「絶対、いい結果が出るやつしかやってないだろ……それに全知のくせに占いなんていらないだろ……」

恋の相性はともかく――

策略と細工で今まで勝ち続けてきた毛玉にとって、彼女との戦いの相性は最悪だったかもしれない。

そして「千年」といっても、それはあくまで体感時間。

現実の時間はほとんど動いていない。

モリアによって、時は止まっている。

これによって、すべての遠距離攻撃は封じられた。当然、それも含めての対策だ。

近接戦が苦手な毛玉は、モリアと距離を取ることを許されなかった。

「捕まえた!」

時間停止の効果を受けない二人の直接攻撃だけが、この静止した世界で通じる。

毛玉はモリアの手を掴み、高圧電流をその身に流し込む――

しかし、それもモリアは知っている。

その手は幻影のように毛玉をすり抜け、事前に用意された蹴りが毛玉を襲う。

筋力はさほどないモリア――それはあくまで他の悪魔と比べた場合の話だ。

人間と比べれば英雄に匹敵するほどの豪力を持っている。

軽く宙に浮いた毛玉だったが、攻撃の手は止めない。鎖を放ち、モリアを縛ろうとする。

もちろん、不意打ちも、やられるふりも、全知の力の前では無意味。

優雅にそれを避け、さらに鎖の一端を掴んで引き寄せ、空いた手でその顔面に重いパンチを見舞う。

一瞬、毛玉の魔法のカウンターが発動し、氷柱がモリアを貫こうとした――

でも、それも読み取られていた。

先ほどまで毛玉の正面にいたモリアは、空間転移で背後に回る。もちろん、鎖は離さずに。

一瞬の移動で鎖に大きな力がかかる。モリアが軽く引くだけで、毛玉は地面に叩きつけられた。

物理攻撃に特に弱い毛玉にとって、これは相当なダメージだ。

――一方、遠くで観戦している地獄の女子組は、一部始終を見守っていた。

「うわ~痛そう♪ モリリン容赦ないね。それとも、そういうプレイ♡」

「あの奴の首の骨を折れば試合終了なのに、姉さんは何で遊んでるデースか……もうどれだけ時間かけてるデースか」

「いやいや、時間はほとんど動いてないよ♪ だって止まってるし。そ・れ・に、そんなアルルも毛玉君に負けたクセに♡」

「うるさいデース。あれはベルが油断しただけデース。本気を出せば、あんな毛玉なんて……って、こんなとこで寝ないでくれデース、ヴェネ。もう、世話のかかる奴だから」

「Zzz」

――こういう具合で、ずっとここまで来た。

戦場に戻る。

毛玉は無理に体を起こそうとしている。

今まで、彼はモリアにまともな一撃すら入れられていない。

一方、モリアからのダメージは一方的に蓄積されていた。

体表の打撲傷や擦り傷はもちろん、内臓へのダメージも結構深いところまで来ている。

実際、毛玉は口から血を吐くほどの深手を負っていた。

「とどめを刺さないのか。君なら今までに何度でもできたはずだ。……情けか?」

「いいえ。罠には踏みたくないだけですよ。

わざと隙を見せて懐に入らせれば、魔法で仕留めるつもりでしょ? 汚いやり口ですね。

私じゃなければ、やられてましたよ」

「チッ……これじゃ騙せないか」

モリアがとどめを刺さないのは、彼女が彼を愛しているから――それもある。

しかし、彼女の言う通り、それは毛玉が彼女を誘う罠でもあった。

時間停止の世界では、体から離れる武器や技による遠距離攻撃は無効。

だから、体を使う近接戦が唯一の戦法になる。

毛玉は、自身を大規模破壊魔法のトリガーとしている。

モリアが致命的な一撃を入れようとすると、カウンターとして発動する仕組みだ。

逃げることはできても、とどめを刺すことは彼女にはできない。

そう、方法はあるにはある。

しかし、彼女にはそれを実行する力がない。

例えるなら――

人間は鰓があれば水中でも呼吸できるが、鰓を持っている人間は存在しない。

潜水装備があれば同じことはできるが、今はそれもない。

それが、今の状況だった。

――だが、これ以上引き延ばせば、先にばてるのは毛玉の方だ。

長期戦は毛玉には続かない。

それに、彼の目標はすでに達せられていた。

「完成した。……その意味は、君なら説明しなくてもわかるよね」

「ええ~空間の封鎖ですね。私をこの地獄から逃がさないために。

この地獄攻略中、ずっとやってましたもんね」

その通りだ。

他の七十一柱の悪魔攻略のための七千百年。

そして、この止まった時間の世界の中での千年。

合計八千百年の間、毛玉は魔力をもって、地獄から外への空間ゲートをすべて塞いだ。

モリアは空間を支配しているが、その空間の通路にある異物を取り除くことはできない。

空間転移を「時間のかからない道を通る」とイメージするなら、毛玉がやったのは――

魔力で路障を作り、地獄から外への道を全部塞いだのだ。

モリアはそれを知っていても、どうにもできない。何せ――

「私が魔法の使用も拒否しましたからね。酷いですよ。ふふふ」

「これは『陰謀』じゃない、『陽謀』だ。」

毛玉は、魔法システムを開発した魔力の精霊として、特定の対象に魔法システムへのアクセスを拒否することができる。

つまり――魔法の使用を禁じることができるのだ。

だから、モリアは時間停止を解きたかった。

解けば、毛玉は遠距離魔法攻撃で消耗戦に持ち込む。

魔法が使えない彼女にとって、自分の権能である時間と空間だけでは不利になるから。

――でも、それも敗北を先延ばしにするだけ。

彼女は最初から、これから何が起きるか知っているのだから。

「感じた……『位置』が来る!!」

毛玉は転移で地獄の世界の外へ出た。

魔力の路障は、魔力の精霊である彼を阻めない。

モリアは追わなかった。

もう終焉を知っている彼女は、ただ来るべき未来を迎えるだけだ。

――その世界の外にあったのは、ダイヤモンドの星だった。

かつて太陽ほどの恒星が燃え尽きた後、残された超高密度の結晶。

大きさは地球と変わらないが、重さは太陽の半分。

その制作者こそ、毛玉だった。

それが、音もなく地獄に侵入してきた。

________________________________________

地獄の空は、もともと赤く濁っていた。

燃え滓のような雲が流れ、硫黄の雨が止むことはない。

その天蓋の一点が、静かに黒く沈んだ。

闇ではない。

光が、そこへ吸い込まれている。

空間が軋んだ。

地獄を構成する立方構造の面が、目に見えない力に引かれ、わずかに歪む。

角と角を繋ぐ重力線が撓み、六つの地獄が同時に震えた。

空の黒点が、脈打つ。

それは拳大だった。

それなのに、世界の中心よりも重かった。

青白い光が内部で折れ曲がり、逃げ場を失った光子が閉じ込められている。

恒星の死骸。

燃え尽き、なお潰れ続ける核。

白色矮星。

圧縮は止まらない。

半径は変わらないのに、重力だけが増していく。

________________________________________

地獄の大地が、音もなく沈下した。

溶岩の湖が中心へと引き寄せられ、炎が細い糸のように伸びる。

断罪の刃山が軋み、血の河が逆流する。

空気そのものが“重力に縫い止められた”。

八つの頂点を支えていた力学均衡が崩れ、立方世界の辺が歪む。

面と面の接合部から、黒い亀裂が走る。

星は、落ちない。

落ちる必要がなかった。

重さが、世界を引き寄せる。

地獄そのものが、青白い核へと滑り落ちていく。

光が曲がる。

悲鳴は音になる前に潰れる。

炎は球体へと巻き取られ、山脈は折れ、王の居城は斜めに沈む。

衝突は、爆発ではなかった。

圧縮。

一瞬、すべての色が奪われる。

________________________________________

次の瞬間、九層の地獄が同時に沈み込んだ。

中心に触れた瞬間、構造は耐えきれなかった。

立方体の一角が崩落する。

均衡を失った重力が暴走し、面と面が剥がれ落ちる。

天と地の区別が消える。

青白い星が、わずかにひび割れた。

内部の圧力が限界に達し、制御式が軋む。

封じられていた質量が解放される。

光。

だがそれは爆炎ではなく、静かな白。

すべてが、白に呑まれた。

________________________________________

次に色が戻ったとき、

そこにあったはずの地獄の一面は、削り取られていた。

巨大な空洞が、黒く口を開けている。

重力の残滓だけが、なお地面を押し潰し続け、

瓦礫がゆっくりと中心へ落ちていく。

青白い核は、もはや拳よりも小さい。

だがその周囲では、光がまだ歪んでいた。

________________________________________

黒縄地獄が陥没する。

マムブスのショッピングモールが丸ごと地面から引き剥がされ、

建造物は自壊する前に圧縮され、厚さ数センチの板へと潰れる。

魂の群れは悲鳴を上げる間もなく、赤い霧となって吸い込まれた。

焦熱地獄の空が裂ける。

空と地の境界が崩れ、上下の概念が消失する。

山脈が縦に裂け、断面が鏡のように滑らかに押し潰される。

溶岩が重力井戸へと一直線に落下し、白熱した柱となる。

等活地獄で爆縮が始まる。

爆発ではない。内側へ潰れる爆発。

面積を保てなくなった地面が皺のように寄り、

大地が折り紙のように畳まれていく。

圧力は億トン単位で跳ね上がり、空気が固体化する。

叫喚地獄では光が曲がる。

青白い星の周囲で、視界が歪む。

酒の神殿が二重に見え、三重に裂け、最後には一点へ吸い込まれる。

影が実体を持ち、実体が影へ押し潰される。

阿鼻地獄の海が消える。

液体は存在を許されない。

表面張力ごと圧縮され、

水分子は分解され、白い蒸気もなく消滅する。

紅蓮地獄の凍土が静かに軋んだ。

氷原に刻まれた無数の亀裂が、一斉に中心へと走る。

凍結していた海が持ち上がり、巨大な氷塊が空へ引き剥がされる。

三つの灰色の月が軌道を失い、わずかに傾く。

次の瞬間、すべてが内側へ滑落した。

氷山は砕けず、圧縮される。

白い大陸が拳大の塊へと潰れ、凍った魂ごと一点へ吸い込まれる。

月は互いに衝突し、白い塵となって粉砕され、

破片は光の曲がる空へと消えていく。

衆合地獄の無限に立ち並ぶ刃が、わずかに傾いた。

森のように広がっていた剣山が、同時に中心へ向きを変える。

金属音が重なり、火花が散る。

だが衝撃は広がらない。

百万の刃が雪崩となって滑り落ち、

互いに押し潰し合う。

鋼鉄は折れず、砕けず、

そのまま厚みのない銀色の塊へと圧縮される。

切断の世界は、最後に震え、沈んだ。

無間地獄の塔が、わずかに傾く。

中の溶岩の河が持ち上がり、赤い帯となって空へ伸びる。

燃え上がる火柱が、横へと流れ始める。

塔の中の都市全体が内側へ滑り出す。

黒曜石の城壁が裂け、広場が陥没する。

炎は拡散せず、中心へ吸い込まれる。

超高温の光が一瞬だけ膨らみ、

次の瞬間には圧縮される。

塔も河も、燃える魂も、

赤く輝く塊へと押し潰される。

________________________________________

六面すべてが同時に崩壊を始める。

立方世界はもはや立方ではない。

辺が千切れ、角が砕け、

空間の接続式が破断する。

青白い核は、今や城郭ほどの大きさに達していた。

重力は臨界を超え、

地獄そのものが軌道を失う。

孤独地獄を中心に、すべてが滑落する。

「うわ~毛玉君スゲーや~♡ こんな奥の手を隠してたんだ。勝てそう? アルル♡」

「無理デース……規模が桁違いすぎるデース。つーか、私たちもヤバいデース」

「Zzz」

________________________________________

そして今、孤独地獄の地平線が丸く歪み、

遠景が中央へ引き伸ばされる。

視界の端が黒く欠ける。

そして――

星が、ひび割れた。

制御式が限界を迎え、封じられていた縮退圧が崩壊する。

白。

無音。

次の瞬間、

全層同時爆縮。

爆風は外へではなく、内へ。

立方体は一瞬で半径数キロの超高密度球体へと押し潰される。

質量が一点に凝縮し、地獄は星のコアへと変わる。

遅れて、反動が解放される。

重力拘束を失った残骸が超高速で弾け飛び、

破片が流星群となって暗黒空間へ散る。

________________________________________

「君は引力を信じるか?」

毛玉の声が、歪んだ空間に響く。

「白色矮星は1cm³あたり1トン以上の極端な密度を持っている。その表面重力だけでも、ここから数十万倍はある。その引力から、君は逃れられない。」

だが毛玉は違う。

魔力が起こした現象は、彼に影響しない。

彼がこの星を触っている限り、白色矮星は時間停止を無視して地獄と衝突する。

――これぞ、毛玉が持つ正真正銘最強の技にして、切り札である。

全知のモリアに出し惜しみは無意味だ。

彼女の能力を遥かに超える技でなければ、きっと対応する方法を見つけ出され、看破される。

だからこその、白色矮星。

________________________________________

「お見事です。」

モリアの声が、崩壊する世界の中から聞こえた。

「でも私は――引力より、あなたの方をずっと信じてましたわ。」

________________________________________

青白い残光が、最後に脈打つ。

地獄のすべての物質が、超高密度の重力で圧縮され、核融合反応を起こしたのだ。

一瞬、それは第二の太陽のように輝き、銀河系の隅々までその光を届けた。

そして、光は消えた。

そこにはもう、六面も九層もない。

ただ、

かつて地獄だった質量の残骸が、

歪んだ時空の中をゆっくりと回転しているだけだった。

静寂。

罪の連鎖も、断罪も、七十二柱の悪魔たちも消えた。

重力の残滓だけが、なお世界を押し潰し続けている。

「うそだろ…」

時は、現在の時間線に戻る。

毛玉が魔法で白色矮星を作り、それを地獄にぶつけたことで――モリアごと、地獄そのものが消し飛んだという話を聞いて、全員がティーカップを持ったまま固まった。

「モリアさん……まだまだ御冗談を。セリナたちの世界には、地獄がありましたよね?」

「ええ。その後、蘇生した私が作り直しましたわ。時間と空間を支配している者ですもの。一日前の地獄を丸ごとコピーするだけの、簡単な仕事でしたのよ。ふふふ」

……

しばしの沈黙。

毛玉が地獄を全壊したことも言葉を失うが、その壊れた世界を容易く作り直したモリアも、規格外すぎる。

「でも、モリアさん」

セリナは静かに、モリアと毛玉の物語を聞いて、一つの不自然に気がついた。

「モリアさんは、神に男の体と女の心を与えられました。それは悲しいことです。でも――モリアさんも、神と同じように、マオウさんの人生を弄んだのではありませんか?」

「全知のあなたなら、きっと気づいていたはずです。今のあなたは、あなたが大嫌いな神と同じことをしているって。」

「ええ、知っているとも。」

モリアの声は、変わらず凪いでいた。

「でも止められないのが、悲しい私の女としてのさが。私に愛してる彼を、ザドキエルに譲るなんて。無理な相談だわ。」

「彼は一途よ。もしザドキエルと結ばれたら、そこに私が入り込む隙はない。純愛の彼は、他の女性を愛せない――」

モリアが持つカップが、微かに震えている。

あの、いつも冷静なモリアが――まさか動揺している。

それだけ、本来の未来が彼女に与えた傷が深いということだ。

「あなたたちは知っているかしら? 彼とザドキエルだけが結ばれる未来を。」

「彼は今のような狡猾な魔王じゃない。彼女のパートナーとして、純粋なまま、神獣としての道を歩むわ。」

「だから、私は彼に与えたの。魔王としての実力、明星にも勝てる頭脳、そして――あなたたちのような、素敵な女性でできたハーレムを。」

「私と一緒にいる方が、彼はもっと幸せになれる。ザドキエルじゃなく、私といる未来こそが、一番いいはずなの。」

「モリアさん……」

セリナの声が、優しく問いかける。

「それなら、どうして涙を流しているのですか?」

モリア自身も気づかないうちに、二つの雫が彼女の目からこぼれ落ちた。

頬に一筋の線を描き、彼女の紅茶に、小さな波紋を広げる。

「……私はやはり、あなたが嫌いだわ。」

モリアは呟く。

「彼の心を溶かすように、私の心まで溶かすつもりかしら。無駄よ。」

「あのバカ天使より、私は生まれながらに完成されている。それ以上でも、それ以下でもない。成長も変化もしない。それが『全知』の呪い。」

「あなたには、私を救えないわ。」

「はい。」

セリナは、静かにうなずいた。

「セリナは、人を救えるほど立派な人間じゃありません。だけど――」

「モリアさんは、すべてを知っているから、私を呼んだのではありませんか?」

「あなたを救える『マオウさん』を、育てるために。」

「…………」

モリアの唇が、微かに震えた。

次の瞬間、彼女は笑った。

「ふふふ……ふふふ……ふふふ……」

「賢いのね。まあ、知っていたけど。」

ガシャン!

――ガラスが割れる音。

しかし、ここにガラスはない。

割れたのは、空間。

「相変わらず趣味が悪いのだな。これだから僕は、女が大嫌いだ。」

「あなたはお呼びじゃないのよ。『招かざる客』という言葉、知ってるでしょう?」

神の光が、周囲の闇を祓う。

孤独地獄に、暁が訪れる。

正史では起こらなかった――

明けの明星が、地獄の最深部へ降臨した。

「約束通り、君をもらいに来たぞ。モリア。」

そして――

正史と同じく、毛玉の王子様もまた、七十一枚のコインを携えて、彼女の前に現れた。

「よく来ましたね。ここまで待たせたとは、いい御身分なこと。」

正史のあの時と同じセリフが、二人の間で交わされる。

だけど、今の彼女はあの時の燕尾服じゃない。

一番お気に入りのドレスを、纏っていた。

さあ――

最後のクライマックスと行こう。

今回は、地獄を壊さないでほしいけど……


宇宙が壊れる未来を、私は知っていた。

あなたがこの技を選ぶことも、

九つの地獄が潰れることも、

私が敗れることも。

それでも。

未来を知ることと、

未来を止められることは違う。

神は世界を創り、

私は地獄を創り直す。

それが罪だというなら、

私は何度でも堕ちる。

引力よりも、

運命よりも、

神の秩序よりも。

私は――

あなたを信じる。

さあ、次は“明星”の番ですわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ