第百八十話:傲慢の終焉、全能の遊戯――孤独地獄が目を覚ます時
かつて、世界は一度、神に滅ぼされた。
それを為したのは、悪でも災厄でもない。
ただ――神の命を忠実に果たした、ひとりの王だった。
傲慢は、最も重い罪とされる。
なぜならそれは、「自分が世界よりも大きい」と信じる心だからだ。
だがもし、
本当に世界より大きな存在がいたとしたら?
神の剣が抜かれ、
王が夢を託し、
地獄そのものが回り始める。
これは、八つの地獄を越えた者たちが、
最後の地獄へ辿り着くための、通過儀礼である。
聖書により前人類を滅ぼしたのは一頭のクジラであった。
神の命を受け、世界を沈める洪水を起こした。それは、人間が神をないがしろにし、『自分こそがこの世界の主だ』と思い上がったことへの罰である。
傲慢——それは九つの大罪の中でも最も重い罪とされた。
当時まだ堕天していなかったリバエルは、その巨体を動かして千メートルもの大波を起こした。前人類の文明は波の前には無力で、文字通り海底の藻屑と化した。そして千年の時を超え、海が引き陸が現れると、またいつか海に呑み込まれる運命を背負いながら、この大地に新たな文明が築き上げられた。それは前人類の生き残りによるものである。
今の彼らは神の恐ろしさを知り、神殿を建て、供物を捧げ、自らの立ち位置を弁えるようになった。しかし、かつて世界を海に沈めたリバエルは今、阿鼻地獄の王として、神の尖兵ルキエルと戦っている。
*
空に星が輝く、その中でも最も煌めく明けの明星が夜を切り裂く。
『はは、楽しい——神魔大戦を思い出すね。なあ、リバエル!』ルキエルがアポロンの弓を引く。四散した矢は空を駆け抜け、星が堕ちるように深海のリバエルを貫いた。傷から溢れる血は海の一面を赤く染め、痛みに響く悲鳴が阿鼻地獄にまでとどろいた。
かつて世界を滅ぼした神獣も、今のルキエルにとってはただの獲物に過ぎない。
しかし、リバエルも無抵抗ではいなかった。
血に染まり油膜で濁った海面が、再び不自然に盛り上がる。先ほどの飛躍よりも、より緊迫した怒りが水中から漲ってきた。
傷だらけのリバエルは、深みから顔を出さず、巨大な頭部を海面すれすれに構える。潮吹き孔が、血と海水とともに、異様な圧力を溜め込んでいた——
次の瞬間、世界が轟いた。
一つの、巨大すぎる水柱が潮吹き孔から噴出する。それは単なる水ではない。リバエルの全ての怒りと苦痛、そして膨大な生命力を一時的に変換した、質量と衝撃そのものの砲弾だった。直径数十メートルの水柱は海を引き裂き、大気を圧縮しながら、空中に佇む光の少年——ルキエルに向かって一直線に突き上がった。その速度は音を追い越し、先端は水しぶきの白さを超え、衝撃波の半透明の殻に覆われている。
だがルキエルは避けない。弓を収め、代わりに愛槍ロンギヌスを取り出した。
『黎明の子、明けの明星よ』
槍をゆっくりと後方へ引く。背後の十二枚の翼が一斉に強く輝き始める。
『あなたは天から堕ちた』
彼自身の、まだ見ぬ未来の姿を言葉に託す。胸の奥で、何か冷たいものが疼いた。
『もろもろの国を倒した者よ』
水柱の先端が、ルキエルの立つ光の領域に触れ、蒸発し、爆散する白い蒸気の壁が眼前に立ち上がる。
『あなたは切られて地に倒れた』
詠唱が完結する瞬間、彼の瞳に一瞬だけ深い哀愁が過ぎる。
そして、引いていた槍を、水柱の中心へ——その根源たるリバエルへと、捻りながら投擲した。
聖槍ロンギヌスは音もなく飛翔する。
水柱と衝突した時、圧倒的な『理』が発動した。水の砲弾などという質量の暴力は、この『一点の絶対』の前には無意味だった。槍の進路上の水は『存在を貫かれた』という事象そのものに置き換えられ、真っ二つに割れ、消え去る。ロンギヌスはリバエルが放った全ての力を一瞬で否定し、圧倒し、水柱の軌道を逆流するかのように一直線に海面へ、そしてその下の巨躯へ突き進んだ。
海中で、鈍い光が炸裂する。
ロンギヌスはリバエルの頭部の厚い装甲をも軽々と貫き、内部で『絶対なる貫通』の概念を解放した。
ドゴオオォン!
海面が大きく膨れ、今度は血肉と骨の破片、そして内臓の一部が混じった凄まじい噴水が湧き上がる。リバエルの巨体の一部——側頭部から背鰭にかけての膨大な肉塊が内部から爆散し、暗赤色の雨となって周囲の海に降り注いだ。苦悶の咆哮は水と血に噎びれ、やがて途絶える。
しかし、それは終わりではなかった。
ルキエルは、空に伸ばした手をそっと握りしめる。
『ロンギヌスは“一発のみの武器”ではない。「貫く」という概念だ。制限はない。そして、僕が一回で撃てる最大の本数は——』
『25,721本。』
上空、雲の彼方から、無数の光の点が現れた。
一つ一つが、先ほど投げた聖槍ロンギヌスと寸分違わぬ姿をしている。数百、数千——数え切れないほどの聖槍が、神の雨のように降り始める。
その光景は、畏怖を通り越し、ある種の美しささえ帯びていた。
無数のロンギヌスが一斉に降り注ぐ。
海面は、無残に引き裂かれたリバエルの巨体は、もはや抵抗することも逃げることもできず、ただそこにあるだけだった。
光の槍が次から次へとその巨躯を貫いていく。
肉を、骨を、臓器を、全てを『貫通』の概念で粉砕し、分解し、蒸発させていく。
轟音というより、むしろ無数の『つん、つん、つん』という研ぎ澄まされた断絶の音が海を覆った。
血の海はさらに濃くなり、光の槍の純粋な輝きによって不気味に照らし出される。
*
「あっけない~雑魚じゃん。クソ雑魚~」
「いやいや、君が規格外すぎるだけさ……」疲れた様子も見せず、まるで近くのコンビニでおやつを買って帰ったかのように、ルキエルは再び筏の上でくつろぎ始めた。
毛玉は彼の強さを理解しているつもりだったが、他の者たちは初めてこうした一方的な戦いを目の当たりにし、絶句して言葉が出なかった。
「僕、凄いだろ?えへへ。」褒めて、褒めて――全身でそう訴えるかのように、翼をぱさぱさとさせた。その容姿に相応しく、心もまだ幼いままだ。初めての『お使い』ができて、有頂天になっている。
「ああ、素晴らしいとは思うよ。ここまでやられると、それしか言えないね。でも、残念なお知らせがある。リバエルは、私が倒さないと多分意味がないんだ。」
「意味さえあればいいんだね?じゃあ!」全く落ち込む様子もなく、むしろ『なるほど』と閃いたような表情。毛玉には悪い予感しかよぎらない。一方のルキエルはワクワクが止まらない。彼は手を高く上げ、詠唱を始める――それはロンギヌスやアポロンの弓とは違う、さらに桁違いの何かだった。
「あなたは全きものの典型であった。知恵に満ち、美の極みであった。」「わたしはあなたを油注がれた守護者ケルブとともに、神の聖なる山に置いた。あなたは火の石の間を歩いていた。」
無限に広がる海は、一瞬のうちに全ての動きを奪われた。押し寄せる波も、砕ける水しぶきも、微細なさざ波さえも、完全な静止に捕らえられる。海は、果てしなく広がる漆黒の鏡と化し、月明かりだけがその冷たく硬い表面に、非情な美しさを映し出していた。
その凍てついた絶対平面の、ただ一つの中心。
氷が自らの意思で形を変え、盛り上がり、結晶が無数に集合して螺旋を描き、一つの「台座」を紡ぎ出した。それは玉座のようでも、祭壇のようでもある。ダイヤモンドよりも硬く、内側から純粋な光を放つ氷晶の構造体。
そして、その台座の頂に――
剣が、あった。
台座に深く突き刺さるように。
それは、あまりにもシンプルな形をしていた。装飾は一切なく、鍔から柄までが一つの流れるような線で描かれ、両刃の剣身は、この世のいかなる金属とも異なる素材でできているように見えた。光そのものが凝固し、さらにその核心に「始まり」の概念を封じ込めたような、圧倒的な存在感。
そこへ、一筋の光が降り立つ。
ルキエルが、氷の鏡面に足跡さえ残さず、台座の前に立った。彼だけが、この凍結世界で唯一動く存在だった。
ルキエルはゆっくりと台座に近づく。白いローブの裾が微光を散らす。台座は、彼の接近に呼応するように内部の輝きを増し、低く、世界の根底から響く共鳴音を発した。それは歓迎の音ではなく、確認の音。待ちわびた唯一の主を認める、完璧な調律の音。
ルキエルは、迷いなく右手を伸ばした。
指が、氷晶の台座に突き刺さった剣の柄に触れる。無数の星々の瞬きが一斉に速くなり、天の川の流れが淀む。世界という器が、中に収められようとしているあまりの巨大さに、軋み始めた。剣の柄を握りしめる。指が、一つ、また一つと、柄に固く締まり、白い指節に力が込められる。
引き抜かれた。
動作は、あまりにも滑らかで、自然だった。氷の台座が剣を保持していたというより、剣が自ら主の手に帰ることを選んだように。抵抗も軋みもなく、ただ純粋な光の帯が、台座から静かに、しかし確実に引き上げられていく。
剣身が台座を離れるその一瞬、世界は音を失った。
それは、天地創造の初めに響いたはずの、純粋な「音」――光が闇を切り裂き、天と地が分かたれた瞬間の、原初の響きだった。
聖剣プロトタイプが完全にその姿を現した時、剣身から放たれた光は、単なる輝きではない「始まり」そのものの奔流だった。それは波紋のように、しかし全ての方向へ、全ての次元へと瞬時に広がり、永く続いた漆黒の夜を、一瞬で押し流した。
夜が明けた。凍った海の漆黒の鏡は、一瞬で眩い白銀の平原へと変わり、空は深い紺から、何もかもを浄化するような青白い極光の帯へと塗り替えられた。
世界は震えた。それは破壊ではなく、全てが一度リセットされ、新たな調律の準備が整ったという、根源的な再起動の徴だった。
「ルールが邪魔ならルールを変えればいいじゃないか。」
「そんな、『パンがなければケーキを食べればいいじゃないか』みたいな恐ろしいこと言わないでよ。」
「いいじゃん、どうせ困るのはあいつ(パイモン)だけだし、僕は困らないけど。」
無茶苦茶だ。でも本当に何でもできてしまうから、収拾がつかない。
「でもね、私が一から十まで全部君に頼りきりだったら、それこそ君の全能の力目当てじゃないか。できることは自分でする。便利すぎる力を頼りすぎると、ダメになってしまう。そんな奴は、君だっていつか見限るでしょ?」
ルキエルが考え込んでいるその時――
粉微塵に散ったリバエルの血肉が、粒子となり、意志を持ったように集い、再生を始めた。骨格が再構築され、筋肉が紡がれ、黒曜石のような皮膚が瞬く間にそれを覆った。苦痛と怒りの咆哮は、海そのものを震わせる低周波となって海底から湧き上がる――リバエルは、その全存在を怒りに変えて、再び海面に巨躯を現した。
その怒りは物理的な力となって炸裂する。
再生した、山脈のような尻尾が、ありったけの勢いで凍った海面を叩きつけた。
ドゴオオォン――!
凄まじい質量と速度により、氷は海水となり、一瞬で圧縮され、排除され、あらゆる方向へ逃げ場を失った水が、壁となって立ち上がる。それは津波というより、海そのものが立ち上がり、怒号と共に空に佇む唯一の存在を飲み込もうとする、天地を覆う水の断崖だった。
津波の壁が、ルキエルの立つ高さまであと一瞬で達しようとする時。
再生したリバエルの巨口が、彼を呑み込まんと大きく開いた時。
「うるさいな、今取り込み中だろうが!」
ほとんど無意識に、わずかに右手を動かした。
ただそれだけの動作だった。
しかし、剣先が通った軌跡に、一条の「切断」の線が現実に刻まれた。
その線は、押し寄せる水の壁を、厚さも質量も無意味なものとして真っ二つにし、その背後から迫る巨躯をも、再生したばかりの新たな肉体ごと、縦に一直線に通り過ぎた。
一瞬の静寂。
そして、水の壁は中央から崩れ落ち、再生したリバエルは、その衝動を保ったまま、二つの巨大な塊に分かれた。
「むむむ、わかったよ。でも死んじゃダメだぞ。お前は僕のものだからね。」
「いやいや、今リバエルさん両断されたよ。不憫すぎる。今までのどの王より情けない、かませ犬みたいになっちゃってるぞ。」
「知らない。あいつが弱いのが悪いんだし、僕は悪くない~」
リバエルは決して弱くはない。世界を滅ぼす津波を起こせるし、その大口は万物を飲み込む。潮吹きの海水は超高圧水砲のようにどんな硬い装甲も粉砕できる。分厚い鯨脂は大抵の攻撃を無効化する。そもそもあの巨体は、最強の矛であると同時に最強の盾でもある。さらに、海水に溶けたリバエルは不可視であり、認識することさえできない。あらゆる点で『傲慢』の王として恥じるものはないのだが…
相手が悪すぎた。 ルキエルの前では、全てが無意味だった。無敵のルキエルにとって、リバエルは少し大きい魚と大差なかった。
「誰が…かませ犬か!」
両断されても尚屈せず、それは彼が王としての矜持であり、そして最後の驕りでもあった。
「じゃあ、お前、僕に勝てるか?」
ルキエルの顔から表情が消え、初めて会った時の威厳を保った明けの明星の姿へと戻った。空気が凝縮し、深海の水圧で圧迫されているかのように呼吸さえできない。人は、押し寄せる津波の壁を前にしてどうするか?全ての希望を捨て、ただ神に祈ることで最後の安らぎを保つしかない。
人は神に抗えない。それがこの世界の絶対の理であり、そしてこの場を支配する絶対でもあった。
「……」リバエルは沈黙した。口先だけでも『勝てる』とは言えなかった。彼は『傲慢』であって『愚昧』ではない。ルキエルに勝つ光景が、一片も思い浮かばないのだ。
「それがお前の『限界』だ。」
「私の『限界』だと?この世に貴様に勝てるとほざける者などいない。仮にいるとすれば、それは頭がおかしい愚か者だけだ。」
「その通り、『愚か者』さ。」笑いを堪えきれず、毛玉の猫耳をつねって遊び始めたルキエルは、また年相応の幼さに戻った。
「私は勝つ。ルーと家族になるためにも。」
リバエルの瞳が大きく見開かれた。しかし、そこにあったのは嘲笑や軽蔑ではなく、自らと和解したような静かな決意だった。彼は深く、長い鯨歌を一つ、唄った。
「ウォーオォーー……ボボボボッ……ウォーー……」
明星から『真名』を預かった…それは彼に認められた証だ。なるほど、パイモンが惚れた男が、そこまでの器を持っていたか。納得した。私の負けでいい。これを持っていけ。」
そう言うと、金色の輝きがゆっくりと降り注ぎ、毛玉の手の上に止まった。
リバエルのシジルが刻まれたコインだ。
「私から言うのもなんだが、いいのか?君はそれで。私と戦わなくても済んだのに。」
「いいさ。明星に正面から勝てると言える者を試しても意味はない。それより…私は、貴様のような小さな毛玉が明星に勝つ未来が見たい。つまりだ。私は、自分にすら想像できなかった夢を、貴様に押し付けただけなのだ。」
突然、氷の鏡面が割れ、海水が再び阿鼻地獄に充満していく。リバエルの体は海水に触れると、朧げに、ぼやけていった。それが彼の力『不可視』――海水の中では、彼の存在を認識することさえできない。ルキエルがいなければ、何年経とうと、彼を見つけることはできなかっただろう。
「私はリバエル。傲慢の王として、海の支配者。小さき毛玉よ、次に会う時、貴様が私の期待通り、我ら七十二柱の悪魔の頂点に立つ王として相応しい者となっていることを祈る。」
阿鼻地獄は再び海だけの世界へと戻り、リバエルは完全にその存在を絶った。
これでコインは最後の一枚、『嫉妬』の王にして全知のモリアの分だけとなった。そして今、八大地獄を攻略したことで、最後の地獄への門が開かれる。
世界が回り始めた。
最初は微かに、地殻の奥で軋むような鈍い音と共に。六つの面――天道の白、地獄道の深紅、人間道の薄墨、修羅道の鉄色、畜生道の土褐、餓鬼道の枯れ色――それらの境界が、巨大な歯車が嵌合するように、ゆっくりとずれていく。空という概念が揺らぐ。天と呼んでいた面が傾き、地と呼んでいた面が立ち上がる。昼夜の区別が溶解し、光は角度を変えて六道をなぞり、影が逆さまに這う。
回転は加速する。
面と面の境目で色が混ざり合い、濁った虹のように渦巻く。白が紅に滲み、鉄色が土褐を喰らい、枯れ色が薄墨を染める。頂点の八地獄――等活の戦場、黒縄の金枷、衆合の剣林、叫喚の酒釜、焦熱の炎柱、紅蓮の氷崖、無間の高塔、阿鼻の滄海――それらが立方体の稜線に沿って疾走し、残像を引きずる。世界そのものが巨大なパズルとなり、神の掌上で狂ったように組み替えられていく。
やがて、全ての回転が一つの方向へ収束する。
六つの色が攪拌され、混ざり合い、濁り、次第に暗く沈んでいく。最初は灰色がかった濁色だったものが、深みを増し、闇を吸い込み、全ての光と色彩を飲み込む漆黒へと変質する。白は消え、紅は褪せ、あらゆる色相が「黒」という一色に飲み込まれてゆく。
最後の一回転。
地を揺るがしていた軋みが、不気味なほど完璧な調和の音で止まる。六面全てが、均質な暗黒に覆われた。もはや天道も地獄道もない。頂点の地獄たちの特徴も、全て闇の中に溶解した。世界は一枚の、純粋で底無き黒い立方体となった。光はなく、影すらない。音は虚空に吸い取られ、かつて境界があったことすら疑わせる、完璧で絶対的な単色。
孤独地獄が、地獄そのものになった。
「いらっしゃい。紅茶とお菓子はいかがかしら?お茶会は、まだ始まったばかりだわ。ふふふ……」
依頼期限まで、残り24時間。
傲慢の王は敗れた。
だが、折れたわけではない。
彼は知ったのだ。
自分よりも強い存在がいることを。
そして、自分には想像できない未来があることを。
世界は回転し、色を失い、
すべての地獄は一つに重なった。
もはや、罰は存在しない。
救いも存在しない。
そこにあるのは、
全てを知り、全てを持ち、ただ一つだけ欠けた王。
紅茶は温かく、菓子は甘い。
だがその席に招かれた者は、
二度と同じ世界へは戻れない。
——お茶会は、ここからが本番だ。




