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まおうさまの勇者育成計画  作者: okamiyu
第九章:魔王とは何か、王が王になる前の話――千年前の地獄と九つの罪
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第百五十七話:等活地獄にて、剣を捨てた王と剣を捨てられない俺

地獄は、優しさを試す場所ではない。


そこは、怒りと殺意と絶望だけが正直で、

迷った者から順に喰われていく世界だ。


剣を振る意味を失った王と、

剣を捨てることだけは出来なかった人間。


これは、等活地獄で始まる――

「剣士同士の再生」の物語。

不安を抱えながら俺たちは最初の地獄へ到達した。

ここは今まで終わらない昼と違って月が上がる夜でした。

広大な鉄の平原に、無数の亡者が群がっている。彼らは手に、鉄の爪、焼けた棍棒、鋸歯状の刃など、ありとあらゆる殺傷の具を持っている。そして、ただ一つの衝動に駆られて動く――互いを殺すこと。

ズシャッ 鈍い音が響く。隣り合う亡者の一人が、もう一人の頭蓋骨を鉄棒で砕く。黒い血と脳髄が飛び散る。殺された亡者は、その場に崩れ落ちる。

だが、それが終わりではない。

冷たい鉄の風が吹き抜ける。すると、先ほど砕け散った肉片が蠢きだし、血は逆流し、骨は組み直される。数十秒もすれば、殺された亡者はまるで何事もなかったように立ち上がる。目には、再び同じ殺意が灯っている。

ギシリ 今度は逆に、蘇ったばかりのその亡者が、先ほどの殺害者の腹を鋸で引き裂く。内臓が床に溢れ出す。苦悶の叫びが上がるが、それもつかの間。やがて風が吹き、傷口が塞がり、倒れた者が再び起き上がる。

この繰り返しに、救いも区切りもない。

「等活地獄、怒りに駆られ人を殺めた者が堕ちる地獄。殺戮、死亡、蘇生。この三つの段階が、休みなく、永遠に廻り続ける。痛みは本物で、恐怖も本物だが、死によってその苦しみから解放されることは決してない。ただ、殺す瞬間の熱狂と、殺される瞬間の絶望と、蘇生の瞬間の虚無を、無限の輪廻として味わい続ける。」

隣であいつは何事もないように解説している、6200年地獄に歩き続けてたからもうこの光景にも慣れたかも。俺は…慣れたくないな。

これが地獄、悪人たちの魂の最後の拠り所…

「なに、怖いのか。」手から柔らかいふわふわした小さな触覚が伝わって来た。あいつの手だ。

「だから、手を握るなら先に言って、嬉しいけど。」あいつ、こんな時は鋭いなのに、それより先のステップに関してはなぜか無頓着だよね。「剣で斬れるものが俺が怖いはずがないだろ。」

「つまり、剣で斬られないものが弱点、幽霊がゴーストのような実態がないものか」

知られたくない所まで気づかれる所もなんか嫌だ…

「マオウさん、子供もいます、助けてあげないと。」

セリナが言った通り、近くいる所に足が切られた少年がいた。涙を流れながらこっちに手を伸ばしている。まるで『助けて』と叫んでいるように、痛々しい。地獄にあのような子供もいるんだ。

「セリナ、俺も手伝うから…」一つの光が俺の隣から放れた、そして

さっきまでの男の子の頭を撃ち抜けた。

「ちょっと、何をする、あの子まだ子供じゃない」

「君たちなにをする、ここは地獄だぞ、自分以外全員が敵だと思え。」

先ほど頭がぶっ飛んだの男の子が他の亡者より素早く再生して、だが今回は可哀想な顔じゃなく鬼の形相でセリナの頭をかじ割るとしている。

「セリナ、聖剣を」セリナは自分のカチューシャを握り聖剣に変えさせ反撃するが、聖剣はそのまますり抜けた。

(悪人の魂も人間に該当するとか、聖剣の判定が厳しすぎるだろ。)

「エンプラ、重火器だ。」

「なにを言っている、まだセリナが」いつの間にか前にいるはずのセリナがもうあいつに抱えられ後方へ避けた。そうだ!時間停止。

「了解であります。吾輩の燃焼瓶を喰らうのでありますよ。」

エンプラは何かを入れた暗い色の瓶を亡者たちに投げつけだ。瓶が割れ中の液体が空気に接触した瞬間。

「あああああ」すぐ激しく燃え始め、火はすぐ亡者の間で広がり、平原の一面が火の海となった。

「よし、突破するぞ、正面突破だ、露払い頼む。」

「わかった」剣を抜き、息を深く吸い、足に力を蓄える。もっと『気』を剣に乗せて!

円月無明斬えんげつむみょうざん」銀色の一つの閃光は燃えている亡者を切り刻みその群れに一つの道を作った。

「セリナ君は天使化して後ろからついてくるぞ、エンプラはしんがりを頼む」

「はい、聖剣戦略、私再改造。」セリナは天使化し毛玉を抱えて、俺が作った道で通っていく。

「了解でありますよ。」後ろのエンプラは周囲からいきなり襲撃しにくる亡者を散弾銃で撃ち俺たちの後ろを守る。

血と鉄の匂い、焼けた死体、苦痛であっちこっち広がる悲鳴。これが地獄と俺は再認識した。

ようやく亡者の群れを抜け出し、俺たちは一時的な安全を手に入れた。

「すみません……セリナの余計な行動で、みなさんに迷惑をかけてしまいました」

セリナは申し訳なさそうに頭を下げ、みんなに謝った。

「いいよ。セリナがやらなくても、多分俺も同じことをしたと思うから……」

これは慰めの言葉じゃない。セリナだけが悪いわけじゃない。俺も同じ立場だったら、同じ行動を取っていただろう。

「これを教訓に、優しい心はいったんしまっておきなさい。少なくとも、ここではな」

「もうちょっと良い言い方があるだろ……」

「いいんです。マオウさんの言うことは正しいですから」

だんだんずる賢くはなってきたが、セリナの本質はあくまで優しい娘だ。きっとショックだったろう——助けたいと思った相手が、実は悪人だったなんて。

くうう……

一つの音が、気まずい空気を壊してくれた。何の音だろう? いや、セリナが顔を真っ赤にして、お腹を押さえている。

「セリナじゃないですよ……」

空腹だ。そういえば、俺たちはこの世界に来てからまだ何も食べていなかった。いろいろありすぎて、そんなことすら忘れていた。ちょうどいい、食事をしてこの雰囲気を変えよう。

「ちょっと、食べ物を探してくる」

「行っても無駄だぞ。この地獄の世界に、食べられるものなんてない。六千二百年もこの世界を探索してきた私が保証する」

「え……?」

セリナが無意識に喉を鳴らす、俺も自分の腹を押さえて黙った。

毛玉の衝撃の一言が、俺たちをさらに絶望の深淵へと叩きつけた。

「ないだと!? じゃあ、お前は今まで何を食べてたんだよ!」

「私は食事をしなくても生きていける。ここの亡者たちも、悪魔たちも同じだ。大体、ここは悪人の魂を苦しめるための世界だ。食事をさせて楽をさせたら本末転倒だろう。水なら私の魔法で作れるけど……なるほど、だからモリアは君たちに一ヶ月の時間しかくれなかったのか」

俺もセリナも、だんだんとその意味を理解した。

「人間が水だけで生きられる時間は、ちょうど一ヶ月だ。その間に何とかしないと、君たちは飢え死にするぞ」

嘘だろ……。一ヶ月のタイムリミットは、文字通り俺たちの生命線になった。

「エンプラは大丈夫か?」

「吾輩は核動力で動きますので、食べなくても大丈夫であります」

「ロボットって便利だな……」

どうする……水はあっても食事はない。たとえ一ヶ月耐えられたとしても、地獄の過酷な環境で空腹を抱えたまま、俺たちは生きていられるだろうか。

「君たちを未来へ送り返そうか」

エンプラと雑談していたあいつは、まるでこちらの心を見透かしたように声をかけた。

「私も時間の魔法は使える。君たちを千年後の世界に送り返すことはできる。それに、君たちが言ったことが本当なら、私一人でも残りの悪魔たち全員に勝って魔王になったんだろう? ならば、君たちは帰っても大丈夫だろ」

あいつの言うことは正しい。実際、千年後の彼は既に魔王になっている。それは彼がモリアを含む七十二柱の悪魔に勝った証拠だ。それも、一人で成し遂げた。俺たちは正直に言うと、彼の足手まといかもしれない。

「セリナはいやです」

しかし、俺が迷っている間にも、セリナはもう答えを出していた。

「なぜだ? 永遠を手に入れる約束か? 別の方法を探せばいいじゃないか。必ずしもこの方法でなきゃダメなわけじゃないだろ」

「ダメです! モリアさんはセリナたちの覚悟を見たかったから、こんな試練をくれたんです。マオウさんと共に苦難を分かち合えない人は、彼の側にずっといる資格はない……同じマオウさんを愛しているセリナなら、わかります。だから、セリナは逃げません」

「勇ましいな……わかった。好きにしなさい。死んだらそこで終わりだと、よく覚えておけ」

「望むところです。あう……」

またお腹の音が鳴り、ちょっとだけ台無しになったが。

「じゃあ、君はどうだ? 正直に言うと、君の体脂肪率は彼女より低い。最悪、一ヶ月持たないかもしれない。帰りたいなら、一人だけでも送り返せるが」

そんなの、決まっている。

「弟子が覚悟を見せているのに、師匠である俺が臆したらカッコ悪いじゃないか。俺も逃げない」

そんな簡単なことなのに、俺は迷っていた。やっぱり、あいつが言う通り、心の強さならセリナには勝てないな。

「わかった。さっきは『食べ物はない』と言ったが、あれは『絶対に』じゃないかもしれない」

「え? だってさっき、この世界のどこを探してもないって……」

「まだ、王クラスが残っているじゃないか」

頭の中に光が閃いた。そうだ、全部じゃない。まだ王たちがいる。彼らの能力で、どうにかできるかもしれない。

「運が良ければ、食事を出せる能力を持つ王に会えるかもしれない。まあ、そんな能力があるかどうかは知らないが……その前に、君たちが先に飢え死にするかもしれないがな」

「探しましょう! 王たちを!」

絶望だけじゃない。希望も、きっとある。

俺たちは等活地獄の王を探し始めた。

あれが、王なのか?

王の探索に、さほど時間はかからなかった。セリナが王たち全員の顔を覚えていたのもあるが、何より王自身が隠れようともしていない。

一つの大きな岩に、男が座っていた。三メートルはあろうかという身長に、雄獅子の頭。憤怒の王、ザベルトのはずだが、彼はセリナが語った真紅の鎧も、巨大な太刀も帯びていない。ただ布切れのようなものを身にまとっているだけで、覇気はまるでなく、王としての威厳も、憤怒という概念も連想し難い。

俺たちは毛玉の指示通り、ザベルトが見えるぎりぎりの位置で観察を続けていた。

「罠はなさそうだな。ザベルトか……いきなり俺と相性の悪い相手と出会ってしまったか。だが、やるしかあるまい」

「え? なんですか? マオウさんなら、もっと時間をかけて観察してから行動するはずなのに」

「時間を延ばせば延ばすほど、空腹が君たちの体力を削る。今後の戦闘がさらに不利になる。あの弱った様子が演技なのか本物なのか、今は賭けるしかない。どうせ倒さねばならない相手なら、今が一番いいタイミングかもしれん」

毛玉の指先に、七種類の魔力が集まり、混ざり合って一つの塊となる。想像していたような強い光も、大きな音もしない。だが、何とも言えぬ危険な信号だけが、直感でわかる。毛玉はその魔力の塊を、岩陰からこっそりとザベルトへ向けて放った。

魔力の衝撃は夜の闇に溶け込み、音もなく進んでいく。ザベルトはどう動くか。避けるか、反撃するか。毛玉は次の行動に備え、既に次の魔法を用意している。だが、ザベルトは動かない。そのまま喰らう? これしきの攻撃は避けるまでもない? まさか、気づいていない?

魔法はそのままザベルトの頭に直撃した。毛玉の魔力が彼の体内に入り、すぐに血液と混じり合い、全身に蔓延する。そして最後、内側からザベルトを破壊した。最初とは違い、大きな爆発音とともに、さっきまでの獅子頭は爆散し、肉塊となった。

「これで俺の勝ちだな、ザベルト」

肉塊が不気味にまだ一か所に集まり、元の姿を取り戻そうとする。

悪魔たちは不死身だからだ。モリアと毛玉の間で決められた勝利条件は、悪魔を一度殺すか、あるいは彼らに敗北を認めさせること。

それは、命が一回しかない毛玉にとっては、理にかなった条件だった。

「ああ、いいさ。もうどうでもいいから、これを持っていくといい」

ザベルトは自身のシジルの刻まれたコインを毛玉に渡した。そんなにあっさり? 信じられない。

「ちなみに、お前は食べ物を出す能力を持っているか?」

「ないさ。我は刀の悪魔だ。刀を振る以外に能はない。それも、今となっては……」

様々な剣豪と剣を交えてきた俺にはわかる。あれは、剣が折れた者の目だ。

「そうか。じゃあ、もう用はない。次の地獄へ行くぞ」

「ちょっと、待って」

気づいたら、俺は自分でも信じられないことを口にしていた。

「え? なぜだ? 時間が急ぐんじゃなかったのか? 節約できた時間は、君たちのためになるぞ」

「わかってる。だけど、こいつをこのままにしておけない。俺は、そう感じる」

俺には剣の才能があった。そのせいで、多くの人間の夢を、剣の道を諦めさせてきた。幼い俺に負け、自信を砕かれ、二度と剣を握らなくなった者たちが、今のこいつと同じ目をしていた。

「ごめん、セリナ。俺一人だけの時間じゃないのに、勝手なことを言って……でも、頼む」

「いいです。レン君の好きにしてください。代わりに、セリナがわがまま言う時は、同じように許してくださいね」

「ありがとう」

俺は剣を抜いた。

「なぜ剣を捨てた? お前、剣士だろう」

「剣士だった。我は己の力の限界を知った。神魔大戦で、我は明けの明星と戦った。そして気づかされたのだ。自分の剣術が、絶対的な力の前では、どれほど無力かを」

ザベルトは自嘲するように天を仰ぎ、手を伸ばした。

「己がこれまで築き上げてきた誇りは、すべて塵と化し、無様に負けた。それで我は思う。我の剣に、何の意味があるのか。所詮、一太刀すらあの星には届かぬ」

一閃が走り、その手が斬り落とされた。俺の剣だ。

「その程度か? お前の剣に対する想いは、たった一度の負けで投げ出すものなのか?」

しかし、その腕もまた、すぐに再生してしまう。

「汝に何がわかる! 絶対的な力の前に、己の剣がいかに無力か!」

「知ってる。お前より、ずっとな」

再び剣を振るい、ザベルトの首を斬った。

「知ってるよ。俺は人間だ。そして女だ。だから、どんなに頑張っても、男のような強力な斬撃は繰り出せない。セリナのように天使の力もない。俺は人間レベルの相手にこそ勝てても、それ以上には届かないことも、嫌というほどわかってる」

「今、悪魔を斬ってますよね」

「ポンコツは空気を読め」

毛玉がエンプラの口を塞ぎ、その場から引き離した。

「ならば、剣を捨てればいいのでは? そんな惨めになるまで、剣を振る必要がどこにある?」

やはり斬り飛ばされた首もまだ再生する。だが、今のザベルトは、さっきまでとは違い、その言葉に少しだけ力が戻っているように感じた。

「振るよ。俺の剣を好きだと言ってくれる奴がいる。俺の剣を必要としてくれる人がいる。なにより、俺は剣を手放したくないんだ!」

さらに斬撃を繰り出す。だが、今回のザベルトはそれを太刀の鞘で受け止めた。

「なんだ。剣を捨てたんじゃなかったのか? それとも、剣で斬られるのが痛いから、保身に使ったのか?」

さらに下から斬る。それもまた、ザベルトの鞘によって防がれた。その動き……強い。強いぞ。力だけではない。技の冴えも戻ってきている。

「俺から見れば、剣を捨てたお前の方が、よっぽど惨めで見ていられないな。そんな奴を見て、俺はこの怒りが収まらない!」

心臓の鼓動が止まらない。『気』の呼吸が乱れるほどに、俺はあの戦士をそのまま腐らせたくない。そして、そんな強い戦士に、俺は勝ちたい。

「女の体質を理解した上で、力ではなく速度でその差を埋めたか……そこまでして剣の道を選ぶとは。どれだけの剣術バカなのか。だが……どんな言葉よりも、その剣は我に伝わる。その日々重ねる努力と、ただ剣を愛する想いが。このザベルトに、火を付けてくれた」

ザベルトは鞘を自身の心臓に突き立てた。全身から血が湧き出る。

真紅の液体が皮膚を覆い、固まり、甲冑へと変わる。瞬く間に、武田信玄の如き威風を備えた南蛮胴具足へと凝固する。胸板には黄金の獅子が噛み付く前立物が輝き、籠手と佩楯には暗い金で地獄の責苦の図が彫り込まれる。肩の大袖は炎の形を固めたかのように逆立ち、背中の旗指物には、ザベルトを象徴するシジルが燃え上がっている。

腰には、二振りの太刀が挿される。

左に、鞘が黒檀の如き色をした大太刀。その柄は赤い組紐で巻かれ、鍔は燃える車輪の形を成す。

右に、反りの白雪色をした小太刀。その鞘には細かな呪文が刻まれ、柄頭には琥珀の獅子が嵌め込まれている。

ザベルトはゆっくりと、左の大太刀に手をかける。

シャキーン

高く澄んだ抜き声が、地獄の風を切り裂く。

刀身が現れる。

それは鏡のように磨かれた鋼色だが、抜き放たれると同時に、刃から獄炎が迸る。炎は真紅の刀身を伝い、時計回りに渦を巻きながら燃え上がる。炎の色は深紅から紫を経て、芯だけが青白く輝く――触れるものを業火で焼き尽くし、魂まで灼きながらも、刀自体は一瞬の曇りもない。

炎をまとった大太刀を構え、ザベルトが低い唸りを上げる。

「我は地獄七十二柱の一柱、王クラス、憤怒の悪魔ザベルト。感謝するぞ、人間の女剣士。汝のお陰で、我は思い出した。我は刀の悪魔であり、そして一人の剣士であると。続きは剣で語ろう。剣士に、それ以上の言葉は要らん。だが、そうだな……」

ザベルトは俺の剣を見つめる。剣の刃の部分は、彼を斬ったことで、その骨によって刃こぼれしている。とてもではないが、あの大太刀の一撃を受け止められる代物ではない……

「優れた剣士には、相応しい刀が必要だ。語らいの最中に剣が折れるなど、これ以上ない興醒めだ。その剣も、その責務を全うして天寿を全うした。それに敬意を表し、これをやろう」

ザベルトは腰にあったもう一振りの小太刀を俺に投げた。小太刀とはいえ、ザベルトの体型に合わせて作られた刀は、俺から見れば立派な大太刀にすら見える。

その刀を抜けば、細身の刀身が月光に冷たく輝く。美しい。軽く振ってみる。軽いが、鋭い。空気が斬られる音が耳に届く。良い刀だ。

「いいのか? そんな良いものを貰って」

「いいさ。汝が我との戦いに生き残れたなら、それは褒美として安いものと思える」

「ならば、意地でも勝ってやる! 俺はレン、一人の剣士として、お手合わせ願おう!」

依頼期限まで、残り29日。


等活地獄――

殺して、殺されて、蘇る。

その無限の輪廻の中で、

ザベルトは一度、剣士であることをやめました。


ですが、

剣を愛した時間まで否定することは、誰にも出来ない。


レンとザベルトの戦いは、

勝敗を決めるためのものではありません。


それは、

「剣を振る理由を、もう一度取り戻すための戦い」です。


そして忘れてはいけません。

食べ物はない。

水しかない。


残り時間は――29日。


次の地獄は、

さらに容赦なく、心を削りに来ます。

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