『愛してるゲームをしてみたいです』
「和真君。私、和真君とやってみたいことがあるのですが」
「何だろう?」
「愛してるゲームをしてみたいです」
6月後半のとある平日の夜。
夕食の後片付けが終わり、優奈の隣でソファーに腰を下ろし、優奈が淹れてくれたアイスコーヒーを一口飲んだ後に優奈がそんなことを言ってきた。
「愛してるゲームか。漫画とかラノベで出てきたことがあるな。確か……愛してるって言って、先に相手を照れさせたり、笑わせたりとかしたら勝つゲームだっけ」
「そうですそうです。今日の放課後に買った少女漫画に愛してるゲームをするエピソードがありまして。それを読んだらキュンとなって。なので、和真君とやってみたいと思ったんです」
「なるほどな」
優奈は漫画やアニメやラノベなどで出てきたシーンを、俺と一緒に再現してみたいと言うことがある。特に恋愛要素のあるキュンとなるシーンは。なので、優奈らしいと思えた。
優奈のやりたいことは叶えたいし、ゲームとはいえ、優奈から「愛してる」と言ってもらえるのは魅力的だ。
「よし、愛してるゲームをやってみようか」
「はいっ! ありがとうございます!」
優奈は嬉しそうな笑顔でお礼を言った。可愛いなぁ。
「ただ、優奈に愛してるって言われたら、すぐに照れたり、笑ったりしちゃいそうな気がする」
「私も……そうなっちゃうかもです。和真君に愛してるって言ってもらえたら嬉しいですし」
俺から「愛してる」と言われるのを想像しているのか、優奈の笑顔は頬を中心にほんのりと赤くなっている。それもまた可愛い。
「どうなるかは分からないけど、やってみよう」
「そうですね」
「どっちから先に『愛してる』って言う?」
「そうですね……和真君からお願いできますか? 提案した人間として、まずは私が『愛してる』と言われて真顔で耐えられるかやってみます」
「分かった。じゃあ、俺、優奈の順番で交互に『愛してる』って言おうか。言い方は自由で。それで、先に相手を照れさせたり、笑わせたりできたら勝ちで。あとは我慢できそうになかったら降参するのもありにしようか」
「分かりました。どのくらいの間隔で交互に言いましょうか?」
「そうだな……10秒くらいがいいんじゃないか。耐えられるかどうかを考えたら」
「確かに。では、10秒にしましょう。あと、攻守交代の合図とかあった方がいいでしょうかね?」
「あった方が分かりやすそうでいいな」
「分かりました。では……言った方が相手に右手を差し出すのを合図にしましょう」
「了解だ」
「では、食卓で向かい合って座りましょうか」
「分かった」
俺達はソファーから食卓に移動し、向かい合う形で座る。
優奈は一度深呼吸をして、顔から笑みを消した。真顔になって俺のことを見てくる。普段から顔に笑みを浮かべることが多いので、真顔になるとちょっとピリッとした雰囲気になるな。
真顔の優奈を目の当たりしたら、「愛してる」と言って優奈を照れさせたり、笑わせたりしたい気持ちが強くなった。
「よし、じゃあ、始めるぞ」
「お願いします」
真顔になったのもあってか、優奈の声のトーンもいつもよりちょっと低い。
優奈と俺による愛してるゲームが始まった。
果たして、どんな展開になるか。
どうやって「愛してる」と言えば、優奈に勝つことができるだろうか。……一発目だし、まずはストレートに、優奈を見つめながら言ってみるか。
俺は優奈のことを見つめながら、
「愛してる」
と言った。2人きりだし、ゲームとはいえ、「愛してる」って言うのはちょっと照れくさいものがあるな。
俺が「愛してる」と言った瞬間、優奈はピクッと体が震える。ふぅ……と長めに息を吐いている。今の「愛してる」が優奈に響いているのは確かなようだ。ただ、優奈は笑ったり、照れくさそうにしたりする様子は見られない。10秒ほど経ったけど、これはセーフだな。優奈、強いな。
攻守交代の合図で、俺は優奈に右手を差し出した。
優奈のターン。
優奈は微笑みながら俺を見つめて、
「愛してます」
と言ってきた。
優奈から「愛してる」って言われるの……かなりいいな。キュンとなった。ちょっと体がピクッと震えて。さっき、俺が「愛してる」って言ったとき、優奈も体が震えていたけど、もしかしたらキュンとしたのが理由だったのかもしれない。
嬉しいし、幸せだし、照れもあるけど……耐えろ、長瀬和真。平常心になれ。そう強く念じた甲斐もあって、頬が緩むことはない。
10秒ほど耐えられたようで、優奈が俺に向かって右手を差し出してきた。
俺のターン。
さっきは普通に椅子に座って、ただ見つめるだけだった。それでも反応はあったけど……さっきよりも効果を出すためにも、顔を近づけてみるか。
俺は食卓に両手を乗せて、優奈に顔をグッと近づけて、
「愛してる」
と、優奈のことを見つめながら言った。その瞬間、
「ふふっ」
と、優奈は声に出して笑った。照れくさいのか頬もほんのりと赤くなっている。ということで、
「俺の勝ちだな」
「……負けました」
「よしっ」
優奈が笑ったし、敗北宣言をしたので、俺の勝利となった。勝てて嬉しいな。
優奈はゲームに負けたけど、いつもの可愛らしい笑顔になっている。
「最初の『愛してる』でも危なかったです。キュンとなって体がピクッと震えて。息を長めに吐いて何とか耐えられたのですが……2回目の『愛してる』はダメでした。和真君の顔が近づいてきたことにドキッとして。その上で、至近距離からの『愛してる』は威力が物凄かったです」
「そうだったんだ。狙い通りだったよ」
「そうでしたか。……和真君も私が『愛してます』と言ったら、体が震えていましたね」
「俺も優奈と同じでキュンとなってさ。耐えろとか平常心になれとか念じてたよ」
「そうだったんですね。もう少しだったんですね。……負けましたけど、愛してるゲーム楽しかったです。和真君に『愛してる』と言ってもらえて幸せになりましたし」
「俺も楽しかったし、幸せになったよ。やってみたいって言ってくれてありがとう」
「いえいえ。こちらこそありがとうございました」
お礼を言うと、優奈は食卓の椅子から立ち上がって、俺のところにやってきてキスしてきた。お礼のキスかな。
数秒ほどして優奈から唇を離す。すると、目の前には変わらず優奈の可愛らしい笑顔があって。
愛してるゲームは楽しいゲームだったな。あと、このゲームを通じて、優奈と気持ちを言葉にし合うのはいいなって思えたのであった。
『愛してるゲームをしてみたいです』 おわり
これにて、ショートストーリー集は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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