お茶会とマリッジブルーの謎(6)
秋人の家から帰った美月は、翌日の弁当の準備をしていた。
先日、スーパーでゲットした激安卵でオムレツを作ったり、小さなハンバーグを作っていた。
まとめて作り置きして、冷凍しておく。こうすれば後が楽だ。今日は秋人から賞味期限に近い食パンをもらったので、明日はこのオムレツやハンバーグを挟んだサンドイッチを持って行こう。
意外と弁当作りは手間がかかる。はっきりいって面倒臭い。
小学生ぐらいの時は、この面倒臭さはちっともわからなかった。母が作ってくれた弁当に嫌いなピーマンや大根の漬物が入っていると、ブーブー文句をつけていた。今思うと、何て幼い事をしていらんだと思う。何事もその立場にたって見ないと、大変さや苦労はわからないのかもそれない。
明日香の作った弁当を残す勇人の事を考える。なぜ婚約者の手料理の弁当を残す勇人の行動は、さっぱりわからないが、彼も実際に弁当を作ってみれば良いかもしれない。実際に弁当を作る面倒臭さを体験すれば、解決するかもしれない。
明日香や勇人の事なんて、はっきり言って他人事だが気になってしまう。倉橋の件でも思ったが、人間は完全には悪にはなれないのだろう。二人は幸せになって欲しいと思った。
翌日、放課後に秋人から連絡が来ているのに気づいた。なんでも昨日の夜、勇人と連絡が取れたらしく、今日の夜自分の家で会うという。
所詮他人事なので、放っておけば良い問題だとも思ったが、なぜか自分も勇人に会って話をしたいと思った。それにこんな問題で料理研究家からの秋人から怒られりる勇人の事を想像すると、他に一人ぐらいクッション役がいても良い気がした。ちなみに抹茶は副業が忙しい時期らしく、倉橋の店のコンサルもしているらしい。やっぱり自分が行ってもいい気がした。
「秋人さん、私もその場に行っていい?」
秋人に電話をかけ、自分もその場に行っても良いか聞いてみた。
「何か気になちゃってさ。秋人さん、二人だけで会って怒らずに冷静に話せる?」
「そうだなぁ。それはちょっと自信はないね」
「乗りかかった船だよ。行くよ!」
「おぉ、頼もしいな。相棒!」
「相棒?」
「 そうだよ、小さな謎解きの相棒だよ!」
なぜか秋人にそう呼ばれて嬉しくなってしまった。自分と秋人の関係は、兄と妹みたいな感じで、うまく言語化できなかったが、その言葉が一番ぴったりな気がした。
すっかり美月の気持ちは嬉しくなってしまった。電話を切ると、軽い足取りで秋人の家に向かった。
秋人の家につきと、もうリビングにはクッキーとお茶が用意されていた。クッキーは、焼きたてでリビングには、甘いバターの香りが広がっていた。今日のクッキーは色んな種類があり、チョコチップクッキーだけでなく、抹茶やアーモンド、ジンジャークッキーもあった。形も星やハート、花型があり、見ているだけでも華やかなクッキーだった。
「秋人さん、作ったの? これ?」
思わず目が輝いてしまう。
「これは、勇人さんに会う用だからね。美月ちーは今は食べたらダメだよ!」
「そうだけどっ!」
今日の秋人は人と会う為か、ニートバージョンではなく、ジャケット姿だった。髭も剃り、髪もセットしていた。
「ねぇ、何で秋人さんっていつもそういう格好しないの?」
どう見てもこの格好の方が利益がありそうだが。
「いやぁ、女子達が誤解する事が多くってさぁ。この格好だと、妙なトラブルは避けれるし」
秋人は高校生のとき、連日手紙やプレゼントを女性からもらっていたらしい。それはいいのだが、だんだんと誤解を呼び、ストーカーのような被害にもあい、普段は極力地味な姿でいる方が楽だと笑っていた。
「そんなんでいいの……?」
ちょっと勿体無い気もしたが、女性からのストーキングも想像以上に怖そうだった。こうしてニートバージョンでいる方が、かえって利益があるのかもしれない。
そんな事を考えているとき、チャイムがなった。勇人が現れた。
「どうも……。秋人さん、お久しぶりです……」
現れら勇人は、想像以上に意識が高そうだった。パリッとしたスーツを着込み、いかにも仕事ができそうなアラサーの男性だったが、二重マスクにフェイスシールドもしている。持参したアルコール消毒液を手にめいいっぱい吹きかけていた。しかもちゃんと二メートル距離をとって接していた。
そういえば明日香の愚痴で勇人は、コロナ対策に熱心とも言っていた事を思い出したが、ここまで徹底的だとは聞いていなかった。
「お邪魔しますよ」
そう言う勇人の声は小さく聞き取りにくい。おそらく、これも彼なりコロナ対策の一環だと思った。




