お茶会とマリッジブルーの謎(5)
そんなちょっぴり寂しい夕食が終わると、美月は厨房に行き、秋人と一緒に皿洗いをてつだっていた。
浩は暗くなる前に帰ってしまったが、やっぱりタダ飯だけ食べるのは心苦しい。美月はこうして厨房で皿洗いを手伝うのが習慣になっていた。
「ところで今日、桜のところでお茶会だったんだっけ?」
「そうだよー。明日香さんも来てた」
「ふーん。戸田ちゃんか、懐かしいねぇ」
そう言う秋人は、全く表情が変わらなかった。今は、明日香に対して特別な感情はないらしい。なぜかホッとしてしまったが、この感情も子供じみたものだろうと結論づける。
「でもマリッジブルーで大変みたい。婚約者は、明日香さんのお弁当食べないんだって。どういう事なんだろうね。婚約者が作った弁当を普通、残す?」
明日香の話を聞きながら感じた疑問を口にする。こんな話題をしているのに、作業はさくさく進み、洗った皿を布巾で吹き始めた。
「妙だな。俺も婚約者の勇人さんは知り合いだが、優しい人だよ。そんな婚約者の弁当を残すタイプに見えんな」
秋人は一旦作業を止め、考えこむように顎を触った。
「だったら、何でお弁当食べないのかな。桜はお腹痛かったんじゃん?とか言ってたけど」
「あははは。お腹痛かったら素直に言うじゃん。なんか訳ありかねぇ」
久々に謎っぽいものが生まれて、秋人の目は好奇心に満ちていた。今はニートバージョンだが、この目が子供のように邪気がない。
「明日香さんは、秋人さんのレシピ本を参考にしてお弁当作ったって言ってたよ。関係あるかな?」
「そうだなぁ」
考え混んで手の止まった秋人の代わりに美月は、手を動かし、すっかり皿は片付いてしまった。
「秋人さんのレシピ本なんて使ったから、婚約者が嫉妬しちゃったとか?」
美月はその仮説を言うと、秋人は明らかにギクっとした表情を見せた。意外と嘘がつけない性分らしい。
「明日香さんに告ったとか、本当?」
ちょっと揶揄いたくなってしまい、笑いながら聞く。ますます秋人は居た堪れない表情を浮かべる。
「かなり昔の話だよ。高校生の時だよ。しかも『ダサい人は嫌い!』って言われてフラれたし!」
「それはキッツいね」
そんなフラれたシーンを想像すると、ちょっと笑ってしまう。
「うーん。婚約者の勇人さんて確かにオシャレだけど、意識高いところがあるからなぁ」
「意識高い? スタバで仕事やっちゃう感じ?」
「そうそう。だから、比較的素朴なタイプの戸田ちゃんと結婚するには、いいと思ったんだがね。意識の高さが相まって、手作り弁当なんて食えるかってなってる可能性はある」
秋人に推理というか仮説に、美月は思わず顔を顰めてしまう。だとしたら、意識高いというか地雷男ではないか。明日香がマリッジブルーに陥るのも無理も無いきがした。
「明日香さんが心配だよ」
「そうだね、美月ちー。よし、勇人さんに連絡でもとって見るよ」
「どうするの?」
「料理をするのは、大変なんだよって事を料理研究家が説教してやるよ」
「それはガチっぽくて怖いね!」
「だろう?」
秋人は、子供が悪戯を企むような笑顔を見せた。ちょっと悪い顔の秋人に、思わず美月も笑ってしまった。




