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料理王子の謎解きレシピ  作者: 地野千塩


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お茶会とマリッジブルーの謎(4)

 お茶会が終わると、美月は秋人の家に直行した。もう夕方に近かったし、タダ飯を食べる為であるが。


 あの後、お茶会は愚痴大会になってしまった。直恵は両親の愚痴、桜はクラスメイトのいじめっ子達の愚痴だった。うちのクラスにいじめっ子がいる事が意外だったが、確かには気の強そうな連中はいる。意外と美月は目をつけられていなかったので、運が良いと言えるだろう。まあ、桜は恵まれたお嬢様であるから、嫉妬されているかもしれない。


 嫉妬。


 嫌な感情だ。自分には無いものだと思い込んでいたが、明日香の事を思い出すと、なぜか心がザワザワとしてきてしまった。


 自分は秋人に対して特別な感情でも持っていたのだろうか?


「まあ、そんな事はないわ」


 頭のニートバージョンの秋人の顔が浮かび、やっぱりそれは無いと感じた。たぶん、おきにいりのオモチャやペットを奪われた子供のようなしょうもない感情なのだろう。


 そんな事を考えつつ、秋人の家のリビングに向かった。


 リビングには、浩も来ていた。おしらく浩もタダ飯を食べに来たのだろう。


 ソファの上に寝そべり、スマートフォンを熱心に見ていた。この姿は、あまり子供らしくなく、注意した方が良いのか微妙なところだった。


「浩くん、何見てるの?」

「うん。陰謀論の動画やサイト見てるんだ」


 浩にそれをちょっと見せて貰うと、なかなかファンタジーな陰謀論が広がっていた。コロナは茶番というのももちろん、ワクチンは遺伝子が変わるとか、悪魔の刻印に印になるというSF小説みたいな事も書かれていて、ため息が出てしまう。


「ねえ、浩くん。こういうの熱心に見ない方がいいよ。クラスで孤立してたりしない?」

「そ、そういえば」


 図星だったようだ。


「マスクしてとは言わないけれど、人に無理矢理押し付けたり、友達と仲悪くしちゃうのはダメだよ」

「う、うん」


 ちょっと偉そうな言い方になってしまったが、浩は意外と素直に受け入れてくれた。


 ちょうどそこに秋人がお盆を抱えてやってきた。


 いい匂いもする。


「やあ、君たち。いらっしゃい! 今日は煮込みハンバーグだよ!」


 いい匂いの正体は、このハンバーグらしい。さっきお茶会でたらふく食べた癖に、思わず腹が鳴りそうになった。なぜかニーとトバージョンの冴えない格好の秋人にもホッとしてしまった。


 秋人はリビングのテーブルの上煮込みハンバーグ、ご飯、カボチャの煮込み料理を並べた。ハロウィンはとっくに終わっているが、秋らしい食事だ。ほかほかの湯気も見ているだけで、食欲が高まりそう。


「美味しそう!」


 美月も浩も目を輝かせながら、声をあげた。その明るい声を聞きながら、秋人も満足そうに頷いた。


「さあさあ、食べようじゃないか。最近俺は、手の込んだレシピを作っていてね」


 という事で煮込みハンバーグらしい。新刊のレシピ本作成はひと段落つき、次のレシピを作ってる最中らしい。秋人のレシピ作りの裏話なんかを聞きながら、食事を始めた。


「今って時短やコスパや見た目を重視したレシピ本が主流だけど、たまには手に込んだ昔ながらのレシピ本も作ってもいいと思ってね」

「ふーん。今ってそんなレシピが流行ってるのね」


 美月は頷く。確かに書店び並ぶレシピ本は、いかにも専業主婦向けのものは見なくなった気する。


 浩は、よっぽど煮込みハンバーグが美味しいのか、黙りこくって黙々と食べていた。


「浩、美味しい?」


 秋人がそんな浩に声をかける。


「うん! なんかお袋の味って感じだよ!」

「浩くん、ちょっと大袈裟じゃない?」


 美月は突っ込むが、浩に詳しく聞くと母親は料理をあまりしない人らしい。お惣菜やインスタントしか記憶に無いとまで言っている。各家庭に色々と事情はあるというが、聞いていると少し寂しくなってしまった。


「女性の社会進出もいい面もあったと思うが、悪いところもあったかもねぇ」


 美月は思わず呟いてしまった。温かい食事をとっていて、思わず本音が溢れてしまった。母の仕事は応援しているが、全く寂しく無いといえば嘘になる。


「まあ、仕方ないよ。料理だけが愛情表現じゃないでしょ? 美月ちーも浩もそれは、わかるよね?」


 秋人の言う事は思い当たるところがあった。確かに手の込んだ料理=愛情表現とは言えないが。


「でも僕は、母ちゃんの作った料理を毎日食べたいよ」


 浩の声はやっぱり寂しげで、美月も少し切なくなってしまった。

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