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ディープオブメルト  作者: マルコシアス
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第一章 はじまりのオーガ 三層目

悪意の瘴気は時として光を生む。

そんな矛盾したような思考が通用するのが、星のへその中で独自の生態系を作り出した一因でもあった。

その層は天蓋にびっしりと張り巡らされた特殊なヒカリゴケのような植物が、まるで青空と見まごうかの様な明るい光を発している。

そして鬱蒼とした植物群が群生し、まるで楽園のような植物園を作り出している。

だが彼らが外の世界の植物とは明らかに一線を画す存在であるのは間違いはない。

光はある。

だがこの光は洞窟内に群生する植物の一部が天蓋まで延びて生み出した仮初めの光なのだ。

そのため、彼らは光合成と言う本来植物に必要な栄養摂取方法を全く取らない。

ではこの光は何のためなのか?

それらは深いの海の闇の中で獲物を誘う、微かな光を発する魚類に近い。

外の世界にも食虫植物と言ったものもあるが、彼らは何でも食べる。

洞窟内で育ったちょっとした生態系の動物、ゴブリンと言った魔物ですら彼らにとっては貴重な栄養源である。

メルトとリアは今、そんな肉食の植物たちかいる三層目の始めにいた。

植物に捕まっていたリアを助けたメルトだが、なぜまだ彼女が無事でいるのか?

それは肉食植物に隠された、もう一つの特性があるのであった…。



「そう言えばさ?」

「ん? なぁに?」

魔物が作ったのであろう道をゆっくりと進みながら、メルトはリアにたずねた。

「リアってどのくらいの間植物に捕まってたの?」

それは素朴な疑問であった。

肉食植物が後で食うからと獲物を放置するものなのか?

メルトはなぜリアが無事なのか?

それが最初に彼女を罠だと思った原因である。

「んー、この植物ってこの洞窟内で育ったもので、光合成はしないのよね」

「それは何かの文献で見たけど」

リアのはっきりとしない答に、メルトも首を傾げる。

そんなメルトをよそにリアは続ける。

「捕まってたのは半日くらいかなぁ…。 こんなところじゃ仲間の妖精もほとんど来ないし…。 半ば諦めてたんだけどね。 なんでたろ?」

リアもわかっていない様子ではあるが、リアの言葉にひょっとしてとメルトは思う。

「まさか、リアを太らせようとしていた?」

「いやいや、ほんとにまさかだよ…」

そんなメルトの答えにリアはぞっとしながら周りを見た。

よく見れば、ほとんど植物がわずかな風で動くようなものとは違うざわめきを見せている。

メルトもナイフで周囲の蔓を払い、時には切り裂いて進んでいた。

そこへ…。

「メルト! あれ!」

リアがメルトの真横まで浮いて、その方向へと指をさした。

ザザザとざわめく音、雑草がゆらめき、何者かが高速で動いている。

「魔物? いや…」

メルトは警戒しながら、高速で走るそれを見た。

次の瞬間、それは大きく飛び跳ねる。

「キー!!」

金切り声のような高い音で鳴いたそれは…。

「ど、ドブラット!?」

ドブラット。

通常のネズミとは大きさも凶暴性も大きく異なる魔獣である。

その繁殖欲は強く、同種どころか他種族の雌すらも標的とする。

だが本来は暗くジメジメした地下や洞窟を塒にするため、これほど明るい場所に現れたことにメルトは驚いたのだ。

「何かから逃げてる?」

「メルト、肉食植物だよ! ネズミのすぐ足元まで来てる」

リアの指し示す方向から、ドブラットの動きよりも素早く植物の蔓が飛び出し足を捕らえた。

その太く、禍々しい色合い、棘のついた蔓はもはや触手と言わん形で暴れるドブラットの抵抗を削いでいく。

「ギー!!」

ドブラットは叫び声を上げつつ、蔓にくるくると巻かれて運ばれていく。

「あんな大きな魔物でさえ捕食の対象だなんて…」

メルトは驚嘆しながら、ドブラットが連れ去られた方向を見やる。

周囲の植物はまだ大人しい方だが、先程の蔓の主は相当に大きい物であろうと予測した。

「どうするの? 多分さっきのやつがいる方向に行かないと次の層に行けなさそうだよ?」

リアの言うことは確かであった。

魔物の道は奥の層に通じているであろうが、その進む先には巨大な肉食植物がいる可能性が高い。

迂闊に近づけば、肉食植物の射程内で簡単に罠の発動条件を満たすだろう。

メルトは考える。

対処方法を考えなければならない…、と。

そこでメルトは手持ちの道具から、何か使えそうなものはないかと確認した。

(パープルスライムを追いやった時みたいに、何か長いものに松明をくくりつけて焼く?)

否、ドブラットの走行速度を超える速度である。

近づいただけでも捕まる可能性は高い。

(なにか除草剤のようなものは…?)

果たしてそれだけで魔物と同じ肉食植物を枯らすことが出来るだろうか?

メルトは思案しながら、ほんの少しのそれではそれは難しそうだと結論する。

(獲物を捕えるための基準は…?)

そこでメルトはリアに確認を頼むことにした。

使うものはリアを捕らえようとして、メルトに頭を割られたゴブリンの死骸である。

メルトは躊躇なくゴブリンの死骸から肉を切り裂き、小分けにした。

「うぇぇぇ…。 よく出来るわね…」

さすがにリアもその光景には引くしかないが、メルトは笑顔を見せながら続ける。

「自分が生きるか死ぬかなのよ? 汚い臭いを我慢出来なくて探窟家なんてやってられると思う?」

それは至極真っ当な答えであった。

まだ見習いではあるが、メルトは天性の度胸を示し始めている。

そして、小分けにした死肉を先ずは近場の肉食植物に投げて見る。

すると、すぐに…。

ガサッ!! バリッ!!

と言う派手な音ともに、肉食植物が死肉を捕らえ自分の本体へと運んでいった。

不気味な歯頚が蠢き、死肉を口に運ぶ老獪のようにゆっくりと咀嚼する。

「よし、うまく行きそうね…」

メルトは確信したように、大きく頷いた。

「ど、どうするの?」

リアは心配してメルトに問うた。

「じゃあ、次はっと…」

メルトは道を戻り、わざわざと洞窟の方まで引き返した。

「次が肝心なのよねぇ…」

辺りを見回し、メルトは何かを探す。

「なになに? 教えてよー」

リアが聞くも、

「ふふふー。 まだナイショだよ?」

メルトは微笑みながら答える。

「お、あったあった!」

言いながらメルトは道に乱雑に散らばっている欠片を拾い上げた。

「それはなぁに?」

リアは不思議そうにメルトに聞く。

「これ? これはパープルスライムの欠片よ? さっき大きいのを燃やしてほとんど無くなってしまったんだけど、ゴブリンが少しは抵抗して欠片が残ってないかと思ってね」

紫色の毒々しぃ色味をした欠片を集め、次々とゴブリンの死肉に混ぜ込んでいく。

「それをどうするの?」

「ふふふ、じゃぁいくわよ?」

メルトは意気揚々と道を戻り、大きな肉食植物の射程圏内の前まで戻ってきた。

「元の場所に戻ってきたけど、それをどうやってあの蔓に巻き取らせるの?」

リアは一番疑問に思っていた手段について聞く。

それに対しメルトは…。

「リア、肉食植物は多分こちらの匂いとかには反応していないと思うの」

メルトは肉食植物に関しての特性について語り出す。

「それはリアを誘い出すときに甘い匂いを自ら発生させたりしていたことから判断したことだけど、ドブラットがどんなに素早く走っても捕まってしまっていたことから、あれらは動くものやこの草むらを踏んだことに大きく反応していると見て間違いないと思う」

自分で得た確信を説明し、メルトは小石を近くの肉食植物の足元の草むらへと放る。

すると、肉食植物の蔓が素早く石を補足し、それが石だとわかると反応を止めた。

「んー、つまりどうすればその肉をでっかいのに掴ませればいいの?」

リアが聞くのと同時に、メルトはゴブリンの死肉にロープを巻きつけていた。

「えーと、まさか…」

リアは嫌な予感がしてメルトを見やる。

「リア、早速お願いがあるの」

満面の笑みを浮かべながら、メルトはロープをリアに差し出した…。

数分後…。

リアはロープに巻かれた死肉を持って、大きな肉食植物がいるであろう方向へと飛んでいた。

腰には長い紐が巻かれ、メルトの方へと続いている。

濃い瘴気によってうまく飛べなくなった時に対する命綱である。

(よ、よしこの辺でいいよね…)

目の前には鬱蒼とした森が広がり、魔物の道も既に途切れているような状態である。

リアはロープをしっかりと持って、死肉を草むらに置いた。

そして、今度はメルトの方へと戻りつつ、ゆっくりと死肉を引っ張った。

すると…。

ズザザザザザザザ…と激しい音がざわめき、死肉目掛けて大きな蔓が追いかけ始めた。

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

リアはそのあまりの速度と、先程のとは違う禍々しい姿をした蔓に恐怖して思わず叫んでしまった。

必死に飛び、死肉を引っ張る。

だが、そこで思わぬ異変が起きてしまう。

「う、うそ!?」

リアの身体が浮力を失い、次第に地へと落ち始めていた。

「や、やばいーーー!」

リアはロープから手を離してから、必死に命綱ならぬ命紐を引っ張った。

すぐに異変に気付いたメルトは、紐を思い切り上へと投げ上げる勢いで引っ張った。

「うああああああああ!!」

そのあまりの勢いと、リアは舞い上がる感覚に叫ぶ。

舞い上がった先で見えたのは、死肉を巻き上げて引き返す蔓であった。

「あ? 飛べる?」

空中で再び制動を得た感覚が戻り、リアは急いでメルトの方へと戻っていった。

「こらーー!」

メルトを確認したリアは第一声怒る。

「ごめんごめん。 あぁするしか無かったのよ。 でも、リアのおかげでうまくいったみたい」

「へ?」

メルトの言葉と、指をさした先を見ると、目の前の草むらがざわざわと騒ぎだした。

そして、次の瞬間には次々と枯れ始めた。

色とりどりに生い茂っていた楽園のような光景は、あっという間に赤茶けてしわがれた地へと変貌していく。

光も

「よし、進んで確認してみよ?」

メルトは満足したように促した。

「ね、ねぇ、あれってなんだったの?」

リアは得心が行かずメルトに尋ねた。

「あぁ、あれはパープルスライムの毒よ。 それに枯れ葉剤みたいなものもゴブリンの死体が持っていたからなんでも混ぜてみたの」

「わぁ…」

リアは感心したかのように、進みながら周囲を見る。

そして…。

「で、でっかいねぇ…」

「う、うん…」

メルトとリアは目の前に現れた巨大な肉食植物のコロニーを発見した。

ゴブリンや、外から訪れたであろう探窟家、兵士などの白骨化した遺体、多数の獣の骨…などなど、おびただしい数の栄養源が広がっている。

「あ、あれ…」

ただリアが気になったのは、それらではなかった。

「うん、この先にあんなのがいるかもってことだね…」

メルトもそれに気づき、その骨の巨大さを確かめた。

それは人やゴブリンのサイズとは明らかに違う、あからさまに大きすぎる骨であった。

恐らくは運悪く肉食植物に捕まり、その栄養源とされたのであろう。

「こういうでっかいのは、もうそうそういないだろうけど、肉食植物はまだまだいそうだから気をつけないとね…」

まるで現実逃避をするかのように、リアはメルトに言った。

「そうね…、ん?」

メルトも答えながら、何かに気づく。

巨大な何かの骨。

その真下に、その骨の主が纏っていたのであろう鎧を発見した。

「このメダル、なんだろう?」

メルトは鎧と共に無造作に捨てられていたメダルに気づき拾い上げた。

「見たことのない紋章…。 リアは知ってる?」

メルトに促され、リアもメダルを確認した。

「うーん、よくわかんないけど、魔物の偉いやつが持っているものかもしれない。 見て、掠れちゃってるけど、この部分、ダークルーナの信教徒がしてるものに近いと思うの」

「あぁ、そうね。 文献で何度か見たわ…。 ほんとに…もしかして…」

メルトはまた何かの確信を得て、メダルをカバンにしまった。

「いただいとこう、何かの役にたつかも」

言いながら、メルトは次の道を確認する。

巨大な肉食植物が枯れ果て、その先にはまた肉食植物避けの魔物道が続いていた。

それも、今までより格段に大きなものであった。

「行きましょう」

「うん!」

リアは再びメルトのカバンに収まる。

二人を待ち受ける巨大な骨の魔物は一体何者なのか?

そしてダークルーナの紋章入りのメダル。

先に何があるのか、メルト達の足取りはゆっくり、だが確実に前へと進んでいた。


お読みいただきありがとうございます。

三層目に入りました。

うねうね動く植物型モンスターに色んなロマンを感じる方がいるかもしれませんけど、私はどちらかというとやっぱりロマンを感じる一人です( ^ω^)


鬱蒼とした森、そのほとんどが肉食植物なのにどうやって通るのか?

という疑問は、中で暮らす魔物が大体解決しています。

まぁ詳しい内容ははしょりますけど…。

あとはずーっと戦い続ける描写ってのは難しいので9割くらいをはしょっていますが、実際はすごい勢いで刃物をふるっていたりするもんだと思ってます。


次は第四層、その手ゲームなどにはお馴染みの方が出ます。


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