表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/51

捕囚


 学院寮アンディンの裏手。

 契約者(コントラティスタ)の手元に戻ったはずの場所から、蝶妖精(ファル・ファーラ)は今また彼から離れようとしていた。

 魔術師ナトゥールは迷うことなく草葉を踏み分け、光と影を交互に受けながら先へ進む。木漏れ日は徐々に間隔を狭めていく。

 魔術師の外套の隠しでその薄羽を休めていた妖精は、その歩みが止まったことに気づいた。

 外套の隙間が大きく寛げられ、彼の指先が示すことばなき意志を理解して、ファラ―シャは羽を広げる。

 閉ざされた、狭い懐から。

 一気に吹き抜けていく風は心地よく……青の光を宿す薄羽を翻し、まっすぐに進む。

 木漏れ日すらも射さぬ濃い緑へと、その視界の色合いは移っていく。ややもすれば闇に見紛うほどの、ひとにとっては恐れを抱く森の奥へ。

 だが、蝶妖精(ファル・ファーラ)にとってはそのすべてが心地よい。


 そう、かつては飛ぶことを知らなかったはずの身なのに、いつのまにかそれはあたりまえのものになっていた。

 だから、まだ見ぬ同胞がかどわかされたと聞いて……心穏やかではいられなかった。


 不安がないわけではない。

 それ以上に、何があっても大丈夫と思える。

 目に見えぬ糸が、確かにそこにはあるから。


 そう、何が、あっても――。


 そんな思考の先で、風が止む。

 奥へ、奥へと飛び続けていた蝶妖精(ファル・ファーラ)はふと視線を周囲へ巡らせた。

 途端、ファラ―シャの視界は全き闇に覆われていく。

 全身にまとわりつく息苦しさに、彼女は悲鳴を殺してこぶしを握る。


 ――セレン……!


 信じている。

 信じている。

 信じている。


 ことばにならない呼び声に、確かに彼女の契約者(コントラティスタ)は応えてくれると。

 小さな身体に

 その意識が消えようとも、ファラーシャは信じ続けていた。






 咲き乱れよ美しき花。

 舞い集えよ気高き妖精たち。


 その時を望み、男はまた一輪の花を摘む。

 闇に沈む花々は眠りにつき、目覚めは未だに遠い。

 ただその力を湛える場へと、彼女をいざなう。


 男の行く先は、蝶妖精(ファル・ファーラ)の意識を狩った場所の、さらに奥深く。

 複数の樹木が絡み合う、ある一か所に足を踏み入れた途端。

 空間が丸ごと、陽炎のごとく揺らいだ。

 闇の中でも光を探すかのような不思議なきらめきを宿す館は、男の眼差しを受けつつ静かに佇んでいる。

 幻術により巧妙に隠された館は、男が数歩その先に進めばまた、その姿を消していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おかえり!おかえり!! ずっと、ずうっと待ってた…!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ