49・とくせい
◇
「落ち着きました?」
「はい……。すみません折角のお買い物なのに」
数十分後。
商業施設2階のフードコートにて。
その一角のテーブルで、ツヅリとシャルロッテはドリンクを前に休息を取っていた。
先ほどまでの一連の出来事。
それらをすべてシャルロッテに話した上で、ツヅリは白昼夢を見ていたのだと自身で結論づけていた。
「たぶん、疲れてたんだと思います。最近は色々あったので」
「そうですよね……。ナハトちゃん、記憶ないのにかなり頑張ってましたもん」
そう言ってもらえるだけで救いである。
記憶があるとはいえ、自分がおかしくなってしまったというのはそれだけでショックの大きい事実だった。
この状況下において、少なくとも自分自身はしっかりしていなければいけないというのに。
「もう大丈夫です。ありがとうございます」
「いえいえ。それじゃあ……。ちょうどいいですし、ここでご飯食べていきましょう? 」
フードコートも人で賑わう時間になってきた。
シャルロッテは周囲を見渡して、近くにあった料理屋を指差して言う。
「あそこの料理屋さん、私のオススメなんです。食べればきっと元気がでますよ!」
注文してくるので待っててくださいと言い残し、シャルロッテは席を立って料理屋の方へ歩いていく。
それは遠目にはなにやら洋風な感じのする料理屋である。
───この世界、思っていたよりも元の世界と同じような料理が散見される。
そういうのはだいたい「異界料理」やら「異聞料理」やらと言うジャンルで分けられているのだが、この場合の「異界」とは僕たちの世界のことなのだろうか?
彼がそんな事を考えていると、その肩に不意に背後から手が乗せられた。
驚いて乗せられた方を振り返ると、頬につんと指が当たる。
「何してんの、ナハト」
「アラネアさん?」
頬を指先でつつかれながら見上げた先には、気だるそうなアラネアの顔があった。
見れば私服であり、黒を基調としたシックな服装に身を包んでいる。
「1人で黄昏てんの? それとも注文待ち?」
「えっと、シャルさんと来てて。おすすめの店があるからって」
「ん? ……ああ、なるほど」
アラネアは洋風の料理屋のほうを見て、そこでショーケースとメニュー看板を吟味しているシャルロッテを見つける。
「シャル、ここ好きだからね。あたしもよく付き合わされてる」
「わたし、こういうところはあんまり経験なくて……。だからちょっと楽しみです」
「ふーん。経験ないっていう記憶はあるんだ」
「んぇっ? あ、えーと……」
「ごめんごめん。ちょっとだるい絡みしちゃったわ。あの店おいしいから期待してていいと思うよ」
ツヅリとしては適当に言葉を繋げていただけなのだが、少しだけ適当すぎたか。
彼女の言うことを参考にするなら、たしかに「記憶がないので楽しみです」が正しいのかもしれない。
記憶がないので楽しみです……?
「あたしも別の注文してるからさ。いっしょに食べようよ」
「あ、はい。ぜひぜひ」
テーブルの空いてる席に腰を下ろすアラネア。
ツヅリは彼女と同じ寮、シャアハウスに暮らしているわけだが、2週間ほど経過した今でもそこまで関わりがない。
休みの日が被らないというのもあるが、「なかなか関わりづらい性格」のように感じてしまうのが主な原因である。
サバサバ、という感じの人は普通の人に比べて距離感が測り辛いとツヅリは感じていた。
とは言え。
同じテーブルに座っているのに無言で待っているのもそれはそれで気まずい。
ツヅリは意を決して、思い付いた話題で話しかける。
「……そう言えば、前から気になってたんですけど」
「なに?」
「バーゼットさんって、なんか雷みたいなの出してません?」
「怒ってるとき? ナハト、それはちょっと失礼かも」
「えと、冗談とかじゃなくて……」
「分かってるよ。知らないんだっけ? 「雷を操る特性」持ちだから、あの人。ビリビリだよ」
───「雷を操る特性」?
「特性って、なんですか? 初めて聞きました」
「んあー……。特性ってのは、なんていうか魔法とか魔術の次の力って言われてるやつ。まあめーっちゃ強い力って感じ」
「なるほど……そんなのがあるんですね」
「ナハトも持ってるんじゃない? 分かんないけど」
「いやぁ、わたしはどうでしょうか……」
「アラネア? なーにしてるんですか!」
そうしていると、シャルロッテが注文を終えて戻ってくる。
彼女はテーブルに座っているアラネアを見るやいなや、ずんずんと歩いてきてテーブルにドンッとコップを2つ置いた。
テーブルの上に水がこぼれる。
「なにって、ご飯食べるんだけど」
「なんでここに座ってるんですかってことですよ!」
「だっていっしょに食べたいし。別にいいじゃん」
「出番はどうしたんですか」
「今日は休みとったんだって。───っと、出来たみたいだから持ってくるわ」
まだなにか言いたげなシャルロッテをするりと躱し、飄々とした様子でアラネアは席を離れた。
その後ろ姿をじろっと見つめていたシャルロッテは、鼻を鳴らしながら自分の席に座る。
ツヅリはそんな様子を、こぼれた水を紙で拭きながら眺めていた。
「何の話してたんです?」
口を尖らせたシャルロッテがそう問いかける。
「特性ってやつについて聞いてました。バーゼットさんのとか」
「ああ、雷を操る特性ですか。うらやましいですよね正直なところ」
「シャルさんは持ってないんですか?」
「持ってますよ。持ってますけど、使い道が限られるっていうか。戦闘にしか使えないですから」
「どんな特性か聞いてもいいです?」
「「光の槍を生み出す特性」です。戦闘向きでしょ?」
「なるほど……」




