40・かいこう2
──っていうか、戦わされることになるんだ……。
とは口には出さなかったけれど。
装備の準備をしなくちゃけいないんだろうか。いやしないといけないことは分かっているし、というかするのはそうなんだけれど。
どういう風に立ち回ればいいのかが、まだよく分かっていないのが現状。
そもそも、普通に戦えるわけがなくないか?
僕が戦闘経験のない一般人だと仮定して、いくらビシバシ訓練したところでたかが知れてるだろ。
ここはあえて素質がないことを見せておいて、戦闘しない方向に持っていくべきなのでは?
術式はあまり見せないほうがいいだろうし。
いやでも、その場合、「やっぱいらない」ってなる可能性も捨てきれない。
最悪そうなったとしても生きてはいけるだろうけど、帰るための足掛かりが完全に消え去ってしまうか。
未知に囲まれているこの状況、掴んだこの流れはできるだけ手放したくはない。
「──あれ、シャル? なにしてんの?」
彼がそんなことをぐるぐる考えていると、二人の後ろから不意に声がかかる。
シャルロッテに合わせてツヅリが振り返ってみれば、そこに立っていたのは黒い髪色をした青年であった。
金色の瞳。彼よりも少し年上、大学生くらいの印象を受ける若々しい風貌である。
左側頭部からはなにか、赤い角のようなものが飛び出ているようにも見える。飾りだろうか?
シャルロッテが驚いた様子で歩み寄り、青年に向かって話しかけた。
「コーリンさん! なにしてるんですか?こんなところで」
「先に聞いたの俺だったんだけど……。俺はこのあとちょっとした集まりがあってね。それで、それまで散歩してようと思ってさ。シャルは?」
「私は新隊員の付き添いです!」
「新隊員?」
青年の目が、後ろにいたツヅリのほうを向く。
ツヅリを見た青年は僅かに目を見開いた後、にこりと笑顔を浮かべてうんうんと頷いた。
「いいね。人手が増えるのは良いことだ。名前はなんて言うんだい?」
「ナハトちゃんです。あんまり怖がらせないでくださいね?」
「いやちょっと待って。俺、そんなに怖がらせるようなことしたことないよ?」
───少し離れた場所で待っていようかな。
ツヅリはあまり人付き合いが得意なほうではない。
皇泉学院に通っていた時でさえ、彼と付き合いのあった生徒はごくわずかであった。
だがそんな考えはつゆ知らず。気まずそうにしながら影を徐々に薄くしようとするツヅリのほうへ、青年がさわやかな笑顔で近づいてくる。
「ナハトさん、王国軍で教育隊を任されているコーリン・クロスウッド中尉だ。気楽にコーリンと呼んでくれ」
青年がツヅリへと手を差し出す。彼はその手を握り返すと軽い握手を交わした。
コーリンと名乗る彼はどうやら中尉という階級であるらしい。
あまり詳しくはないのだけれど、そこそこ偉い立場の人なのではないだろうか。
少なくともぺーぺーの僕よりは格段に。
「よろしくお願いします。……いちおう上官、なんですよね? すごくフラットな感じですけど……」
「上官、上官……。うーん、そこら辺がちょっと複雑なんだよな」
聞くところによれば。
アンフェドール──アンチ・フェルライン・ドールズと呼ばれる組織は、名目上はハルモニア王国軍の下部組織となっているものの、その実はほぼ独立した組織であるらしい。
大元はその昔、本来の治安維持組織である警戒局の手がまわらなくなったことから、一部の市民が自治を行い始めたことで生まれたもの。
しかしながら、警戒局などの政府組織としてはそれを漫然と放置するわけにもいかず───王国軍を統括する黒翼騎士団の管理下に加えることでその組織運営を許可するようになったのだとか。
「副所長は俺の先輩にあたる人でね。その縁もあって、ここのアンフェドールとはそこそこ交流があるんだ」
「バーゼットさんの……」
「ここだけの話。あの人、一見優しそうだけどかなり怖い人だから。目を付けられないように気を付けなよ」
「ねえ! 怖がらせないでくださいってば!」
「いやいや、これは事実だろう!」
目を付けられないようにって……。
───「……いーい顔してるわねぇ」。
なんか、どうなんだろう。もうすでに手遅れのような気がしなくもないんだけれど。
「というか1個聞きたいんだけどさ。新隊員の子に、もうそのメイド服着せてるの? 大丈夫? いつから配属なんだっけ?」
「今日ですかね」
「きょう!? 初日かい!?」
驚いた様子でコーリンは、ツヅリとシャルロッテを交互に見やる。
──なんだ、服の話か?
そうだ、なんとか言ってやってくれ! なんで僕が、こんなメイド服を着せられなくちゃいけないんだ!
「だってこれが制服なので!」
「いやわかるんだけど、巡回とかじゃないなら私服でも良いんじゃないかな……。離れててもやっぱり目立つよ、その服は」
──そうだろうな!
目立つだろうな! 僕だってイヤというほどわかってる。
病院に行くためにアンフェドールを出たときからずっと、視線を気にしないようにするのに必死なんだぞ!
「でもかわいくないですか? 見てくださいよナハトちゃんを!」
「ちょっ!?」
シャルロッテがツヅリの後ろに回り、両肩をつかんでずいっと前へと押し出した。
コーリンと真正面から目が合うツヅリ。
──その言い方で僕に注目させるのやめろ!
冷静にまじまじと見てくるコーリンに対して、ツヅリは自身の耳と頬が急速に熱くなっていくのを感じていた。
「たしかに可愛いけどさ……。いや、可愛いんだけども」
「なんですか。惚れちゃだめですよ!」
「なにを言っているんだか……。まあ ……兎にも角にも、アンフェドールも仕事柄、恨みの一つや二つは必ず持たれてる。業務外まで自分たちを危険にさらす必要はないってことだよ」
「コーリンさん……私たちをナメてるんです?」
「──いやシャル、君はどうでもよくて。俺はその子を心配してる」
「それはつまり私をナメてるんですよね!?」
シャルロッテが上腕二頭筋をポンポンと叩きながら、むんっと力強さをアピールしている。
でも頼りになるかと言われれば……いや、頼りになります先輩!
「なにかあっても私が守りますから! 心配ご無用です!」
「いや、うーん……。そうじゃなくてだな……。俺って喋るの下手くそなのか……?」
第29話における服の色表現。
メイド服の色を白黒→白色と青竹色に変更。
理由「デザインが映えなかったため」。




