冒険者と邪魔者
森の中をふたりで歩く。
シュトレンヴルムが出たとされる森だった。レニーは完全武装で、リミーヤは薬草採取に向かうときと同じ格好らしい。
「さっきはごめんなさいね」
「何が」
「取り乱してしまって」
猫の話をするときに、泣いたことを言っているのだろう。
「家族同然の子だったんだろ」
家族はいないが、大事な人を失うことがどれほど苦しく悲しいことかはわかっているつもりだ。
おそらく己の死よりも重い。
「えぇ。バカだよね、生き返らせるなんてできるわけないのに」
「……ろくなことにはならないかもしれないが、不可能じゃないことは知ってる」
「……え」
脳裏には夢の出来事が思い起こされる。猫を真似る気のない、モドキの姿。カタチだけで空虚な、ナニカの姿。
『製法も、どういう理論なのかも、何の蘇生薬なのかも、わからない』
蘇生薬。何のための蘇生薬か。
復活という言葉に置き換えれば、レニー自身に心あたりはある。今はもういないが、例えばレニーの中にいたスカハという存在。
『あぁ、僕って災厄の女王の生まれ変わりだから。前世の人格はウザかったから自力で叩きのめして抑え込んだけど』
デタラメに強い、ドレマという魔導士。
何かしら、復活が可能な、しようとしている存在はこの世にいるらしい。今回もその類、なのだろう。それらに言えるのは、例え伝承に残る人物であっても望んだ形での復活は難しいということだ。
悪意だけ他人に引き継がせたり。体が誰かに奪われたり。生まれ変わった先で人格を潰されたり。
レニー自身はただのならず者のはずなのだが、妙に縁があるらしい。
何かが復活しようとしているのか、それともただの杞憂か。そのうちわかるだろう。
「だからキミを嗤うことはない。同じ状況ならオレも使う」
「レニーさんほど立派な冒険者でもするの?」
「ただの人間だ。すがれるものがあるならすがる。普通のことだ」
レニーがそう返すと、リミーヤは笑みを浮かべた。痛々しいものではあったが。
「優しいのね。少し、気が楽になったかも」
「そりゃ良かった」
レニーは足を止める。そして周りを観察した。
「どうかしたの」
「のんびり会話ができるのはいいが、獣の気配すらないのはおかしい」
先ほどから獣一匹見ていない。
「――そりゃ俺らが狩ってるからなぁ!」
大声が響く。
木の陰から、人が出てきた。
「誰かと思えば昨日のふたりじゃねえか」
下品な笑みを浮かべながらぞろぞろと。誰もが武器を持っている。
囲まれた。
いや、まぁ、人がいるのは知っていたわけではあるが。
レニーは正面に立った面々を見て、首を傾げた。
「……誰?」
「傭兵団だよ! 昨日の!」
地面を踏みつけながら男が叫ぶ。
「え、知らない」
「昨日会ったろうが! せっかくそこの女と楽しもうとしてたのによ!」
リミーヤを指差す。
レニーは頭をかいた。
「あー……昨日の赤点か」
レニーの言葉に、男は顔を真っ赤にした。
「ここらは俺らが管理してんだ! 自由に歩きたきゃ、金を出しな」
脅しには動じず、ゆっくりリミーヤに視線を向ける。彼女はしっかり怯えていた。ただの女性なので当たり前の反応だろう。
「――こういうので終われば一番楽なんだけどなぁ」
レニーは杖を引き抜くと、適当にひとり撃った。間抜けな叫び声が、結果を確認せずとも伝えてくる。
右手をポケットに引っ掛け、自然体のまま、傭兵団を睨む。
「痛い目見る前に帰ってくれるなら、何もしないけど」
レニーの言葉に相手は爆笑した。
「バカか! ひとり倒しただけで何をいい気になってやがる!」
「痛い目見るのはそっちだぜ!」
「……あぁ、そう」
杖をくるくると回す。そうして肩に担ぐように持つ。
「リミーヤさんはそこにいてね。指一本触れさせないから」
「わ、わかった」
リミーヤが戸惑いながらも頷くのを確認する。
「何カッコつけてやがる! やっちまうぞ!」
それぞれが武器を構え、レニーに襲いかかる。全員我流なのか、適当だ。
どうせ、でかい顔ができるから調子に乗っただけのやつらだろう。練度も低い。
レニーはため息を吐く。
「――――全員赤点」
魔弾の音が、空に響きわたった。
○●○●
「すいませんでした……」
全員倒した。
気絶していない者は全員座り込んで、レニーの前に並んでいる。リミーヤは頼んだ通りあまり動かなかったので助かった。
「くそ速い魔弾に、剣……でたらめに強い……ま、まさかあなた賊狩りサマで?」
男から震えた声で質問される。レニーはそれには答えない。無言で、ただ杖を向けるだけだ。
相手は青ざめて、だらだらと汗を流し始める。
「キミら、生きて帰りたい?」
静かに、ゆっくりと。低い声でそう尋ねた。
全員がぶんぶんと頭を縦に振る。
適当に人の間を魔弾で撃つと、悲鳴が上がった。
「シュトレンヴルムの情報ほしいんだよね。どこに出やすいのか、とか」
わざわざ生かしたのは情報がほしいからだ。茶番を長々と続けるつもりはない。
傭兵団の答えはひとつだった。
「よ、喜んで……!」




