冒険者と脅し
レエーラとしばらくダンジョン探索をする。魔物と遭遇することもあったが特段、問題があるわけではなかった。
階層があり、少なくとも三階まであるようだった。最深部がどうなってるのか、を確認するにはかなりの調査と下準備が必要だろう。
「今日はこのくらいで撤退しようか」
レエーラが振り返り、そういう。
「いつもはどのくらいまで?」
「もう少し先まで。もうすぐで四階だし。四階から先は魔物の強さが上がるから、カットトパーズからじゃないと」
その言葉にレニーは微笑む。
「じゃ、オレは足手まといだね。戻ろうか」
○●○●
レエーラは食堂で夕食を食べていた。今日のダンジョン探索を思い返す。レイニーはカットパールの冒険者としては熟練のようだった。戦闘面では適切にサポートしてくれた。
明日もダンジョン探索をしてくれるらしい。
久々に誰かと探索をして楽しいと思えた。遠い、懐かしい記憶の影に、レイニーの姿が重なる。性格は全く違うが、顔立ちや髪色など、成長していたらあんな感じなのだろうな、という姿をしているレイニーといると、なんだか思い出を取り戻している気がする。
ずっと探していた。けれど未だに見つからない思い出のあの子。レイニーがそうだと良いのに。そう思わずにはいられない。
「やぁ、レエーラ」
水を差す声が響く。レエーラが横目を向けると、ブレメントがいた。
「明日ダンジョン探索に行くんだ。今までも奥地に行きたいから。協力してほしいんだけど、やってくれるよな?」
テーブルに手を置き、答えが決まりきっているかのように聞いてくる。いつもこの横暴な態度には困っている。
「……先約があるから、わたしは協力できないよ」
ふい、と顔をそらしながら、レエーラは当然のように断る。しかし、ブレメントは笑みを浮かべたまま、動かない。
「先約? あぁ、あのカットパールか。来たばかりで等級も低いくせにでかい顔して、鬱陶しいやつだな」
その言葉、そのままブレメントに返したかった。
「彼はいい冒険者だよ。あんたなんかよりずっと」
鬱憤を晴らすようにエールを呷る。
「まぁまぁ、そうカッカするなよ」
ブレメントは姿勢を低めると、レエーラの耳に顔を近づける。
「あんな冒険者、潰すのなんてすぐできるんだぜ?」
そう、囁かれる。レエーラはバッと、ブレメントを睨む。
「……ゲス」
「はは、怖い怖い。で、返事は?」
肩を叩かれる。
「お気に入りのあの人がどうなってもいいのかな」
ゆっくりとレエーラの顔が青ざめてく。
「明日手伝えば、手を出さないのね」
震えた声でレエーラが確認すると、ブレメントは大きく頷いた。
「もちろん。約束するよ」
嘘くさい笑顔に、嫌な予感がする。どうせ、明日だけで済ませるつもりはないのだろう。
「……わかった。協力するから、やめて」
それでも、ここでは従うしかない。
「かしこい女性は好きだよ」
肩をとんとんと叩かれ、気配が遠ざかっていく。レエーラは歯噛みしながら、俯くしかなかった。
○●○●
レニーがレエーラと約束した時刻に来ると、レエーラの姿はなかった。依頼でも見て、時間を潰そうと受付に向かって歩き出す。
「あ、レイニー様」
受付嬢がレニーに手招きする。レニーはそちらに向かうことにした。
「何?」
「レエーラ様でしたら、ブレメント様たちとダンジョンに向かいましたよ。お伝えするようにレエーラ様から頼まれました」
「へぇ、ありがと。教えてくれて」
レニーは受付から離れ、ギルドから出る。レエーラの先日の様子からして、ブレメントと依頼に行きたがるとは考えにくい。
「ダシにされたか?」
レニーが偶然、弟分の可能性があってレエーラが気に入っていたから、何かしらの脅しでも受けたのだろう。
レエーラという戦力はブレメント自身欲していた様子ではあったが……純粋に戦力として見ていたかは怪しい。
「うーん、まぁ予定変わらないし、オレも行くか」
ブレメントが何かやらかすのならレニーにとっては好都合だ。まぁ、どこまで行くかわからない上に、カットパールのレニーが無闇にダンジョンに潜っているとバレたらレエーラに叱られそうだが。
まだ報告書をまとめられていないので、等級がバレるのは望ましくない。
「そっと行こう。そっと」
気配を消すのは得意だ。




