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【書籍化】ソロ冒険者レニー  作者: 月待 紫雲
続:偽造の話

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冒険者とラビリンス

 さて、どう戦ったもんか。レニーはダンダーバットの動きを観察しながら考えると

。軽めに投げた斧が深々と前足に刺さる程度。皮膚の強度としてはさほどだろう。もしくは部位によるか。


 斧と同じ腰に差していた解体用のナイフを引き抜く。鍛冶屋のジンガーが作製したナイフだ。下手な武器屋の短剣よりも頼りにできる。


 左右からダンダーバットが、レエーラに向かって飛びかかる。発達した前足を勢いに任せて振る形だ。


 レエーラは素早く後ろに下がると、剣を振るう。舞うように、身を回転させながら左に回り込むと、左のダンダーバットの首を斬り落とそうとした。それをダンダーバットは前足を腕のように振り上げて防ぐ。翼を畳んだような部位が剣を防ぐ。

 どうやらあそこは硬いらしい。


「カットサーキュラー!」


 盾に魔法をかけて、円形の青白い刃を発生させる。それでダンダーバットの首へ一撃入れた。

 ダンダーバットが悲鳴を上げながら、その首を落とされる。


「ふぅ」


 倒れるダンダーバット。レエーラは壁を背にするように動いた。

 右にいたダンダーバットが攻撃しようと前足を上げる。


「よっと」


 その頭上にレニーがいた。レエーラの動きでダンダーバットの視線がそちらに集中したタイミング。そこを狙って紛れ込んだ。


 解体用のナイフをダンダーバットのうなじに刺し込む。そのまま自重を乗せて、ダンダーバットを地に伏せさせた。深々と解体用のナイフが刺さり、ダンダーバットが弱る。


 ナイフを左手で引き抜いて、頭を踏む。浅い呼吸を繰り返そうとしていた口を、これで閉じさせる。まだ息があるだけで戦えはしないだろう。


「ピィイー!」


 天井からレニーに、ダンダーバットが降ってきた。前足を勢いよく振り下ろしてくる。


「レイニー!」


 レエーラが盾を構えてダンダーバットを横から殴った。シールドバッシュでダンダーバットの体を押し込んでいく。そのおかげでレニーは攻撃から免れた。

 レエーラはそのままダンダーバットを反対側の壁まで押し込み、その腹部を剣で刺す。

 ダンダーバットはあがくが、盾で押さえつけられてまともな抵抗ができない。


 レニーは残りの負傷したダンダーバットを見た。


 身を引きながら威嚇をしている。


「さて、と」


 レエーラが無事なのを確認しつつ、最後のダンダーバットに歩み寄る。


「シャドーハンズ」


 一本、影の腕を伸ばすと、ダンダーバットに刺さった斧を引き抜く。


「ピー! ビィイイ!」


 血が吹き出し、ダンダーバットがもがく。レニーは斧をキャッチし、接近する。


「あ、待って!」


 レエーラの静止の声が聞こえるが、レニーは止まらない。ダンダーバットは口を大きく開くと煙を吐き出した。


 麻痺毒だろう。


 レニーは解体用のナイフを逆手持ちに切り替えながら、左腕の袖で口元を押さえる。決して減速せずに斧を振り上げ、麻痺毒の煙を吐き出すその無防備な頭に斧を振り下ろした。


 頭蓋を割る感覚が手に伝わる。それからすぐにダンダーバットの体重が右手に伝わっていた。


 倒れないようにしつつ、踏みとどまる。そして頭に足を乗せると、斧を頭から外した。


 数歩下がって、周りを見る。


 全て討伐できていた。袖口を離し、斧を腰に戻す。


「レイニー!」


 レエーラが駆け寄る。


「大丈夫?」

「平気さ。それよりレエーラは?」

「おかげさまで。楽なくらい」


 レエーラは目を丸くした。


「驚いちゃった。強いんだね」

「真正面は難しいさ。レエーラがいて、不意打ちしやすかったし」


 魔物は駆け引きをしない。嫌いなときが多いが、こういう雑魚であれば、まぁ対処は簡単だ。


「その実力、パールでもいいのに」

「ま、色々あるのさ。ならず者(ローグ)だしね」


 実はルビーだとか。


「それよりもう少し奥見てみたいんだけど、任せていいかな」

「うん。その感じなら普段より奥に行けるかも。その前に素材を取ろう」


 レニーは頷く。


「じゃ、教えてもらおうかな」

「任せて」


 レエーラは嬉しそうに目を細めた。




 ○●○●




 迷宮内は頻繁に危険が訪れる場所ではなさそうだった。通路を進む中、いくつかの部屋を見つけた。


 過去の冒険者が捨てたであろうものや、迷宮内で自生した薬草などが見られた。

 ダンジョン……特に大昔のものであると、魔結晶というものが生成される。大気や死骸の魔力が長い時間をかけて結晶化し、それが鉱物となるのだ。

 また、こういう場ではアンデットの類も生まれやすい。冒険者などの死体へ、魔力が集まり、スキルツリーを利用して動き出す。そこに思考はなく、生前の武器を持ち、本能のまま生物を襲うものになる。稀に自我を持つ者がいるが、それは元の生物としての自我ではないことがほとんどだ。


 スキルツリーが成長しているほど、魔力が残りやすく、周りの魔力を取り入れて体を魔物化させる。その結果が通常のアンデットだ。森や洞窟などでは自然の食物連鎖によってアンデットは生まれにくいが、人工物がダンジョン化するとアンデット化しやすい環境ができる。生態系も独特だ。


 アンデットになる者とならない者の差は明確には知られてはいないが、通常の魔物であればアンデットになる可能性は低い。重要であったり、武器となる部位を切り取られることもあり、おそらくアンデットになっても長く持たないのだろう。


 ワイルドハントはダンジョンからやってくる、とも言われている。


 ダンジョン内の生態系が強力な魔物を生み出すこともあり、冒険者が定期的にダンジョンを探索する必要性はある。そして過去の遺物を手に入れれば一攫千金、ということもある。


「レエーラはこのダンジョン、よく来てるの?」


 ダンジョンを進みながら、レニーはレエーラに質問した。


「うん」

「どうして?」


 ダンジョンとは潜り続けるもの。冒険者として一箇所に居続ける理由となるものだ。レニーのように賊狩りをする人間や、人探しなどを目的にしている冒険者には向かない場所ではある。


「トパーズになるため、かな」

「他でもなりようはあると思うけど」

「ここって探索があまり進んでないから、強めの魔物にも出会いやすいだろうし、実力を上げるには手っ取り早いのかなって」

「……なるほど」


 強力な魔物。確かに倒せれば昇格を狙いやすい。強い魔物を倒せることは、そのまま危険な環境に身を置けるという証明にもなる。ギルドも評価しやすい。


 レニーがレッドロードを倒したことで、カットルビーになったことも、立派な一例だ。賞金首を一度に一気に狩りまくって、功績を得て昇格……というのはレアケースなのである。


「等級が上がったほうが、探しやすいのかなって。それに、もう何年も探してて、見つからなかったから。ここの噂に縋ったのも、あるかも」

「噂?」

「最深部には願いを叶える秘宝があるって」


 レニーは心の中でくだらない、と思った。それを感じ取ったのか、レエーラが笑う。


「バカらしい、かな」

「地域を活性化させるためのホラだ。あるわけがない」


 だいたい誰が確認したのだ、そんな秘宝を。確証がなさすぎて話にならない。


「だよ、ね……」

「噂に頼るのも、仕方がないとは思うよ。でも、オレは信じないね」


 ギルドの小規模さから言って、お世辞にも栄えているとは言えない。眉唾物の噂しか頼るものがないのだろう。


 こういったダンジョンであれば、もっと有名どころがある。


「ダンジョンは人の心を捕らえる、そう教わった」

「教わった?」

「師匠にね。オレは捕まるつもりはない。深入りをするつもりもない」


 好奇心は猫が入り込めるところまで。


「レエーラ。もし深入りをするときはひとりじゃないほうが良い。引きずり出してくれる人を、持ったほうが良い」

「心配してくれてるの」

「そうだよ。親切にしてくれたしね」

「レイニーにはいるの?」

「つくるつもりはなかった」


 レニーは淡々と話す。


「オレひとり死んでも、問題ないから――でも、そうじゃなくなった」

「そっか。それは良いことだね」

「あぁ、良いことだ。でも、簡単にできるものじゃないのは心底わかってる。だから、つくれとは言わない。レエーラ、オレはキミが心配になったから、変に言葉が滑り出てくるだけなんだ」

「……そっか。ありがとう」


 会話が途切れ、無言のまま進み続ける。

 迷宮の先は暗闇ばかりだ。

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