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冒険者と迷宮探索

 レニーは近くの地下迷宮を探索していた。いわゆる、ダンジョン探索というものだ。


 ダンジョンという言葉は幅広い。魔物がつくった巣穴や、洞窟、人工物……基本的に「外」ではないもの。特に地下であるものはダンジョンと呼ばれている。


 外とはまた違った生態系が形成されている、というのがダンジョンの定義……というか、冒険者が依頼で扱う上での「ダンジョン」というものだ。


 この地下迷宮は、昔からヘスティアン領にあったらしい。跡形もなく、床だけになった古城。その大きな階段を下っていくと地下迷宮に繋がる。


 マッピングは何度かされているものの、最深部までたどり着けたものはいない。


 この地下迷宮では「ミノタウロス」という魔人を閉じ込めるために作られ、そして英雄によって退治されたという逸話が残されている。ただ、いつの間にか魔物が棲み着くようになり、独自の生態系が形成され、ダンジョンになったとのことだ。


「わたしから離れすぎないように気をつけてね」


 腰のランタンで周りを照らしながら、レエーラが先行している。レニーはスキルの関係で照らされている範囲よりももっと奥まで見えるが、カットパール冒険者ということになっているので黙っている。


 嬉しそうに前を歩くレエーラ。レニーがこの地下迷宮を探索しようとしたところ、彼女が同行を申し出たのだ。


 地下迷路は石造りの広い通路がいくつも広がっている。加工された石の間に、植物が石同士を接着しているかのように生えている。それがわずかな光を発していて、全くの暗闇ではない。


「魔物と頻繁に遭遇するわけじゃないけど、危ないからね」

「はーい」


 ひとりで最深部を目指してみたかったが、まぁ、別の機会があるだろう。他の冒険者と会うことも珍しくはないらしいし、現状の等級で奥まで進むときは慎重に行ったほうがいいかもしれない。


「レイニーは、なんで冒険者やってるの」

「流れで」


 端的に答える。


「拾われの身でね。冒険者しかなるものがなかった」

「そう、なんだ」


 警戒をしながらも入り組んだ道を進んでいく。


「わたしはね。今は人探し」

「見つかったの?」


 首を振られる。そして立ち止まった。


「弟みたいに大事な子がいたんだ。桃色の髪で、女の子みたいなかわいい子」


 ゆっくり振り返る。


「その子、死んだ扱いになってるけど見つかってないの」

「故郷、の子かい?」

「そう。わたし、当時も冒険者だったんだけど、旅の話をよく聞かせてた。等級は今よりももっと低くて……ほら低いと大変でしょ? だから、その子に元気もらってた」


 その話を聞いていると、懐かしいという気持ちが強まってくる。そんな記憶は、ないのに。


「依頼こなして、定期的に帰ってた。でも、ある日突然、故郷はなくなってた」


 すがるような瞳は濡れていた。ひどく焦っているようで、余裕のない、そんな顔。


「ねぇ、記憶がないって言ってたけど。本当?」


 近づかれる。

 レニーは自分の髪を触る。薄桃色の髪を。

 最初から親切にしてくれたのは、そういうことか。


「つまり、キミは弟分を見つけたと思ってるわけだ」

「……その、不快だったらごめんなさい」


 レニーは目をそらす。


「まぁ、弟分の可能性はあるかもね」


 その言葉にレエーラがぱっと顔を輝かせる。


「でも記憶がない。可能性は高いけど、高いからといって他人のフリはできない。それに、もしそうだったとしても今はレイニーだ」


 今、レニーはレニーとして生きている。今更なかった記憶を取り戻しても、レニーはレニーでしかない。幼い綺麗な思い出というものは、確実に遠くなっていくものだ。


「レエーラ、キミはどうしたいんだ」

「わたし?」

「弟分に会って、何をしたい?」


 無言になる。やけに長く感じる沈黙であった。レニーはそれでも、静かに待った。


「生きてるってわかれば、それでいいの。どうにかしたいとか、そういうのじゃない。ただ、安心したい。生きてる可能性があって、どこかで元気なら、それでいい」

「――なら、オレをそうだと思えば良い。気持ちは楽になるだろう。でも、オレはその弟分にはなれない。それだけは覚えておいてくれ」

「うん」


 ひどく痛々しい笑みを浮かべて、レエーラが頷く。


「さて、じゃあ」


 レニーは腰の斧を引き抜いた。そして投げた。

 投げた先には、魔物がいた。ランタンの照らした範囲では全貌は見えないだろうが、悲鳴が魔物の存在をレエーラに知らせる。


 レエーラは悲鳴に反応して振り向くと、流れるような動きで剣を引き抜く。


「魔物退治だ」


 奥から灰色の皮膚を持つ、コウモリのような生き物が這って出てくる。コウモリのようでありながら人と変わらぬ体長を誇り、トカゲに似た尻尾もあった。翼らしきものはないが、前足が異常に発達しており、人の頭を片手で掴めそうだった。四足歩行のその魔物は爬虫類の瞳でこちらをみながら裂けそうなほど大きな口を開け、その口に煙を纏う。


 それが、地面に一体、壁に二体、天井に一体と合計四体いた。地面にいた魔物は右前足の付け根に斧が刺さっている。


「――ダンダーバット、パール相当の魔物よ。麻痺毒のブレスを吐くから気を付けて。サポートできそうならしてくれればいいから」


 威嚇してくるダンダーバットたちに、レエーラは武器を構えた。

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