表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/343

冒険者とからまれ

 それは、食事を終えたころだった。


「おやおやレエーラ。今日はひとりじゃないんだな」


 気安く話しかける声がする。レニーとレエーラの間に立つように三人の冒険者らしき人物が立っている。


「ブレメント」


 忌々しげに、レエーラは名前を呟く。中央に派手な装備の男がいたが、そいつの名前らしかった。レエーラの呟きに笑みを浮かべる。


「見ない顔だな。きみぃ、レエーラとはどういう関係だい」


 バンとテーブルを叩いて、睨みつけてくる。随分と偉そうな態度だった。後ろのふたりを見てみる。

 こちらを見下すように目を細める女性と、気まずそうに目をそらす少年。女性はともかく少年は気弱なだけでまだまともそうだった。


 レニーは肩をすくめる。


「ブレメント、彼は」

「相席しただけだ。何か問題でも」


 レニーは立ち上がると、ブレメントを見下ろした。レニーの態度に、ブレメントは舌打ちをする。


「きみ冒険者かい? 装備が貧弱で気付かなかったよ」

「カットパールだからね。ここにも来たばかりだ」


 ブレメントはそれを聞いて目をまるくすると、大声で笑い出した。


「そうかそうか」


 笑いながら肩を強く二回叩かれる。レニーは内心、ラッキーだと感じていた。問題の冒険者だ。絡まれておくに越したことはない。


「ならトパーズの俺が今度面倒見てやろうか? こいつもパールなんだが、俺のおかげで良い想いしてるんだぜ。なぁ?」


 親指で示された少年は肩を縮こませながら、遠慮がちに頷く。

 ブレメントは再度レニーの肩に手を置くと、肉に指を食い込ませてきた。


「ブレメント! いい加減に」

「――ハッ」


 レエーラが立ち上がろうとする前に、レニーはブレメントを嘲笑った。


「ぜひよろしく頼むよ、ブラメントさん」


 ニッコリと。そう返すと、ブレメントの眉間に深く刻まれ、そして指に込める力が強くなった。


「ブレメントだ」

「……トパーズ冒険者様にひとつ教えてあげるよ」


 レニーは静かに掴んできている手首を持つ。親指を、腕の骨の間に食い込ませる。


「等級は偉さの証明でも、強さの証明でもない。どれくらい危険な依頼を任せられるかだ」


 手を引き剥がす。どれだけ身体能力に差があろうと、人体の中で弱い部分には痛みは強く感じられるし、関節技が有効である場合も少なくない。ましてやレニーの本当の等級はルビーだ。


 ブレメントは痛みを表に出さないように歯噛みしながらも、腕を振り払った。


「依頼をこなすのに上も下もない。報告しにきたのならさっさと仕事に戻ったほうがいいよ」


 ブレメントはレニーを睨むと、襟を掴んできた。


「あぁ、言われなくともいくさ。だがこれだけは言っておく。俺はブレメント・ヘスティアン。ここの領主の息子だ。トパーズなんて等級なくとも証明するまでもなく、正真正銘、偉いんだよ……!」


 手が離れ、ブレメントはレニーから体をそらす。


「じゃあな。屁理屈で一生食ってけばいいさ」


 ブレメントは次にレエーラを指さした。


「あとレエーラ、パーティーに入る気になったら来るんだぞ」

「誰がいくもんか」

「いつまでそんな態度でいられるかな? パーティーに加わる日を楽しみにしてるよ」


 高笑いしながら受付に向かうブレメント。その後ろをメンバーがついていく。


「随分横暴なトパーズ冒険者だ」


 服を正しながらレニーは座る。


 領主の息子。

 城下町サティナスも城主がいるから成り立っている。

 ギルドも公平公正をいつでも貫けるわけではない。権力の前にはどうにもできないこともある。まぁ、ロゼアにその心配はないが。

 ブレメントのあの横暴な態度で別のギルドに行けば、即降格だろう。この地域限定の、小さな池の大きなカエルというやつだ。


 しばらく様子を見て、性格実力共に問題ありと報告書にまとめよう。

 今回の仕事は楽で良さそうだ。


「……ごめんね。来たばかりで」


 レエーラが心配そうにレニーに謝る。レニーは首を振った。


「特に気にするほどでもないかな。レエーラさんだって気分良くなかっただろうし、レエーラさんは悪くないよ」


 その言葉に、レエーラは穏やかな表情になった。もっと言うのなら、懐かしむような、だろうか。


「レエーラでいいよ。わたしもレイニーって呼ぶから」

「そうかい? じゃあそうさせてもらうよ。とりあえず、お互い気にしないってことで」


 レエーラは嬉しそうに頷く。レニーはあくびをする。


「おいしいものを食べたら眠くなったよ。宿に案内してくれるかい?」

「もちろん!」


 レエーラは明るく返事をし、立ち上がった。


 適当に相手の神経を逆撫でしておけば何かしらやってくるだろう。

 思考回路は賊みたいなものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ