冒険者と探しもの
レニーはギルドの扉を開く。小規模だが食堂もやっているらしく、人が食事をしている。鉱山街のところのギルドとは違い、冒険者ばかりではなく地元の人間もいる。
規模としてはギルドの方がおまけかもしれない。受付も狭く、掲示板も小さい。依頼そのものが少ないのかもしれないが、食堂がメインであるギルドがあることは珍しいわけではない。
ロゼアほど、ギルドも酒場もどちらもメインと言える場所の方が珍しいのだ。その土地の特色に合わせてギルドと何かが併設されていることもあれば、ギルド単体のこともある。メインのギルドが別にあって、支部が置かれている場もあるので、在り方は様々なのだ。
食堂を通り過ぎる。受付は誰も並んでいない様子だった。自分で肩を揉む受付嬢の姿がある。
レニーは依頼が貼られている掲示板を眺める。
「うーん」
トパーズ以上の冒険者としての期間が長いからか、カットパールを意識すると参加できない依頼ばかりが目立つ。
「……とりあえずこれかな」
猫探しの依頼を取り、受付に向かう。
「これ受けるよ」
「は、はぁ……」
受付に、レニーは白い冒険者カードを出す。受付嬢はカードを確認した。
「カットパール、ですか。ソロなんです?」
受付嬢の問いに、頬をかきながら視線をそらす。
「他人と関わるのが苦手で」
「そうですか。まぁ、魔物を相手にしなければ大丈夫でしょう。猫探しですし、町の中で済むでしょうし」
探さなければならない冒険者の名前は知っているが、来て早々探してしまうと怪しまれるだろう。とりあえず、このギルドで依頼をこなすついで、情報を集める必要がある。
「受理証明書です」
すっと、証明書が出される。レニーはそれを受け取り、内容を確認する。猫の特徴と飼い主の名前、居住場所も記載されているため、問題はなさそうだった。
「ありがとう」
「……説明、いりますか?」
首を傾けながら、問いかけてくる受付嬢。笑顔もなく、瞼が重たげであった。それを隠すように、メガネが光を反射し、目元が見えなくなる。
無愛想というより、疲れ切っているのがよく伝わった。
「……いや、自分でどうにかするよ。キミ、寝れてるの?」
「いいえ。あまり」
あくびをする。
「今日終われば一応休めるんです」
「そうかい。じゃあ、ゆっくり休んでくれ」
「はい、そうします。お気遣いありがとうございます」
うとうとしつつも頭を下げる受付嬢。
もしかして、ここのギルド職員、激務なのではないだろうか。レニーは心配になりつつも、ひとまず、依頼をこなすことにした。
○●○●
夕方。レニーはギルドに戻ってきた。受付嬢が眉を上げる。
「はい。達成してきたよ」
レニーは受理証明書と共に木製のメダルを渡す。ギルドや依頼によって、依頼達成の証明は様々だが、今回に関しては「依頼者に貸し出ししているギルドのメダル」を受け取ること、であった。
「……早いですね」
「報酬も受け取った」
今回は依頼者から直接報酬を受け取れるものであった。依頼を申し込む際に手数料は支払済だったのだろう。
受付嬢は瞬きを繰り返し、少し俯いた。
「運、良かったのかしら……」
不思議そうに受付嬢が呟く。猫探しはコツがある。捕まえるのに苦労するが、まぁ今のレニーであれば問題ない。
「ともかく、依頼は終了ですね。おつかれさまでした」
「ありがとう。悪いんだけど、この辺に宿ある?」
ギルドがある場合は宿もある場合が多い。しばらく滞在するため、宿は必要だ。
「でしたらここから――」
宿の場所を教えてもらおうとしたところ、後ろから冒険者がやってきた。隣からレニーの顔を覗き込んでくる。
「わたしが案内しようか?」
穏やかな口調であった。レニーが目を向けると、茶髪に青い目の女性がいた。すらりとしており、左手には最低限、攻撃を防げる程度のレザーシールドを装備している。腰には曲刀を下げている。
「レエーラさん」
まじまじと顔を見てくる女性。髪は耳より下あたりで切りそろえている。初対面ではあるが、なんだか懐かしい感じがした。
「わたしが泊まっている宿だろうし、依頼達成の報告が終わったらでいいのなら、だけれど」
「……じゃあ、お願いしようかな」
後ろに下がる。手で女性に手続きを行うように促す。
問題があると報告のあった冒険者ではない。単純にレニーが新顔であったから声をかけただけであろう。親切にしてくれるのなら、それに越したことはない。
「おまたせ。お腹、空いてたりする?」
「まぁ、少し」
「わたしはペコペコ」
お腹に手を当てて、女性は微笑む。レニーも笑みで返す。
「先、おすすめの料理教えてもらっても?」
「任せて」
ふたりで並んで、食堂のカウンターまで向かう。女性が鶏肉の煮込みスープとチーズパンを二セット頼み、札を受け取る。
「さ、行こうか」
席に案内される。ソロかペア向けなのか端に二人席があったため、そこに座った。女性は札を立てて、待つ。
装備はそれなりに整っているようだった。レニーの今の装備は最低限の布の服にマントとかなり簡易的だ。
「わたしはレエーラ・マウスト。よろしく」
冒険者カードを出して、見せてくる。黄色だった。カットトパーズ冒険者だ。カードに特徴的なデザインが施されているため、カットだとわかる。
「レ……レイニー・ユーン」
白い冒険者カードを取り出して、見せる。
「レイニーか。なんか親近感湧くな」
偽名でも、偽名でなくともあまり変わらないので頷いて同意する。
「ソロなの?」
「まぁね」
「カットパールだから大変じゃないか?」
「特には。適当にやりやすい依頼受けてるだけだしね」
レエーラは肘をテーブルの上に置いて、前のめりになった。
「ここらじゃ見ない顔だけど、どこから?」
「サティナスから」
「城下町かぁ。ここと違って賑わってるでしょう」
「ここに空気も悪くないけどね」
レニーがフォローすると、レエーラは複雑そうな顔をした。
「気に入ってくれるなら嬉しい」
失礼します、と。食堂の店員が話しかけてきてメニューを置いていく。互いに礼を告げてから食事を始めた。
「……出身はどこなの」
「知らない」
レニーがにべもなく返すと、レエーラは食事の手を止める。
「なんかまずいこと聞いちゃったかな」
「覚えてないし、特に気にしなくていいよ」
「そう、なんだ」
故郷なんて知らない。記憶が全くないのだ。レニーの記憶にあるのは冒険者に拾われたこと。その後、ソロ冒険者になったという、それだけの人生だ。
「わたし故郷、ないんだ。なくなっちゃったの」
少し悲しげに、レエーラは告白してくる。遠い記憶のことなのか、そこまで重苦しい雰囲気はしなかった。
「……へぇ」
「もう随分前のことだから、軽く言えるんだけどね」
寂しげな視線がレニーに向けられる。何か、意図を感じる視線だった。
「……スープ、冷めるよ」
レニーが声をかけると、レエーラは思い出したように食事を再開する。
口に含んだ鶏肉は柔らかく、食べやすかった。




