冒険者と降格
レニーは支援課にて白色のカードを手渡され、さも残念そうに言われた。
「レニー様。あなたは再審査の結果、カットパールに降格処分となりました……トホホ」
目元の涙を拭いながら、フリジットが悲しむ。本人も明らかに演技でありますよーと言いたげに、しぐさも声も大げさであった。隣のモーンはピクリと右の眉尻を上げただけで、真顔のまま黙っている。
レニーはそんなふたりを交互に見て、大きく深呼吸する。
「……そっか」
レニーはポケットから自分の冒険者カードを取り出すと受付に置いた。赤い、本来の冒険者カードだ。
「ずっと、疑問だったんだ。オレってルビー冒険者にふさわしいのかなって」
ため息を吐きながら、レニーは静かに語った。
「え、ちょ」
「ならず者だから剣技もロクにできないし」
目を伏せながら、声が弱く、細いものにする。
「魔弾が早いからっていっても。たかが知れてるし、魔物相手には通じなくなるだろうし。スキルもなくなったし」
笑顔を浮かべる。
「仕方、ないよね」
フリジットは慌てたように両手をブンブンと振る。
「あ、いや違うの。レニーくん凄い頑張ってるし功績もちゃんとあるから! 大丈夫、降格は嘘だから! 冗談! 冗談なの!」
「慰めなくていいよ。自分の弱さはわかってるから」
「違うぅ! ねえ、いつもはさらっと流すか理由聞くじゃん!?」
ガッと肩を捕まれ、体をフリジットに引き寄せられる。
「なんで真に受けてるの!? 悲しくなってきちゃうからやめて! 最初の一言目で驚かせるだけのつもりだったのに、本当みたいになっちゃうじゃん」
レニーが落ち込んだふりをしていると、フリジットは泣き出しそうになりながら、フリジットはレニーに抱きついてきた。
「え、ちょ」
「レニーくんはちゃんとがんばってますぅ! 私ちゃんと知ってるから!」
つま先立ちで、若干受付に乗り上げるような形で抱きしめられたため、あまり体は密着していない。が、抱きしめれているのは変わらないので距離は近かった。鼻腔を花のような柔らかな香りが抜けていく。
「ごめんなさいごめんさい! 私が悪かったから! 事情聞いて! 今度のご飯も奢るし、肩も揉んだりするから! なんでもするから許してぇ!」
耳元でわんわんと謝り始めるフリジット。レニーはモーンに目を向けて、舌を出した。苦笑いされる。
「……レニー様。そろそろいいのでは?」
「あぁ、そうだね」
「……へ?」
レニーは声のトーンをいつも通りに戻す。
「ま、離れなよ。あんまり抱きついてるとこ見られるとよくないよ」
フリジットが離れる。レニーは肩をすくめた。
「演技力は合格かい?」
「迫真ですね」
「……ふぇ?」
フリジットは髪を振り乱しながらモーンへ振り向く。それからレニーを見た。
「レニーくん!?」
「たまには困らせないとね」
「うぐ……」
「からかおうとするのはいいけど、ほどほどにしておくことだね。こういうお返し、しちゃうからさ」
レニーはフリジットにウインクをする。フリジットはしゅんとなると頷いた。
「肝に命じておきます」
「さて、気を取り直しまして」
レニーは冒険者カードを両方とも手に取る。
「ふーん、偽名ね」
白いカードのほうにはレイニー・ユーンと書かれている。普段との読まれ方に大きな差がないため、戸惑うこともないだろう。
「別のギルドで好き勝手してる冒険者がいるらしいの。そりゃもう我が物顔で」
困っちゃうわね、と続けながらフリジットは鼻を鳴らす。
「上の等級に口出しされない程度に下の等級をいびったりしてるらしいわよ。厄介なやつぅ」
「それで、外部の人間ならばれないと」
レニーの呟きに、モーンが頷く。
「レニー様ならルビー冒険者ですし、証言がそのまま証拠になります。正式に処分を提案する権利もありますので」
トパーズ以上にある下の等級の者やパーティーに正式な指導ができる監督権というやつだ。主に昇格試験の試験官を行うときに使用している権限で、逆に降格や冒険者カード剥奪等の処分の提案もできる。ちなみに直接行うことはできない。あくまで報告書をつくり、判断をギルドに仰ぐといった形だ。
現地ギルドが報告をもみ消したとしても別のギルドに判断してもらえれば圧をかけられる。
「外部から来た等級の低い冒険者として潜入してもらい、報告してほしいのです」
支援課の仕事というわけなのだろう。レニーはギルド所属の冒険者なので手伝う必要がある。もし現地のギルドでの処罰が難しい場合も、ロゼアの方で圧をかけたり、サポートができる。最悪、問題の冒険者をこちらに連れてきて、処分することもできるだろう。稀に取られる対処だ。
「わかった。詳しい情報は?」
「はい、これ」
フリジットから資料を渡される。レニーはそれを受け取り、流し読みする。
「ま、やることはわかった。行ってくる」
資料から目を離すとレニーは軽く手を挙げ、受付に背を向ける。
「気をつけてねー」
「いってらっしゃいませ」
一度振り返り、手を小さく振るふたりを見てから頷くと、レニーはギルドから出ていった。




