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人質

今回はようやくまともに会話するシュウさんとセシル回です(o・∇︎・o)


お楽しみくださいませ!

 グルニアに背中を押され少し晴れ晴れとした気分で王の間を出ると、王の間の前にある柱が立ち並ぶ広間で、ダルタニア王国王宮魔術師で国王の従兄弟セシル・カーンが柱にもたれ掛かってシュウの事を待っていた。


 黒いマントに身を包んでいるが、がっしりとした体躯が布の上からでも見て取れる。魔術師とは研究しているだけでこんなにがっしりとするものなのだろうか。年中国中を歩き回っていたシュウよりもひと回り大きく硬そうだ。元々の骨格がしっかりしているのかもしれなかった。


「お待たせしました」

「いや」


 シュウが声をかけると、セシルが身を起こした。セシルの前に立つと、セシルの方が背が高い。シュウもかなり大きい方なので、こうやって見下ろされるのは何だか新鮮だった。


「セシル様おひとりですか?」


 てっきり他のダルタニアの人間もいると思っていたのだが、見渡してもセシル以外誰もいなかった。セシルがあっさりと言う。


「他の人間は邪魔だからな。先に帰した」

「……いいんですか?」


 一応、シュウは人質な筈だった。荷物を背負い、セシルが青い瞳を細めて微笑んだ。精悍な顔つきの美丈夫といったところだろうか。王族という利点がなくとも、この見目だけで相手は腐る程候補が出てきそうだが、妻帯していないとは勿体ない。国の損失であろう。


「貴方は他国の宰相だ。人質のような扱いをするのかと叱ったらすんなりと納得したよ」

「それはどうも」


 多分それは口実で、他の人間に聞かれたくない事を道中話したいのだろう。シュウはセシルの隣を歩いていく。


「そういえば、山の上のあの荷物はどうされます?」

「いや、それが、あれは元々イリヤが欲しがってた物なんだ。なんせ本人が来られなかったから、しばらくそのまま置いておいてもらいたいんだが」


 アレン本人が山の上を訪問する前に、ヤナに染みつく花夏の気配を感じとってしまったのかはたまたヤナの記憶を読んだのか、あっさりとヤナと花夏の関係性に気付いてしまった。その為、まだダルタニアからの使者は誰も山の上の異世界から持ち込まれた物を実際に確認してはいない。


「誰も怪我がなかったらいいんだが」


 申し訳なさそうにセシルが言う。王族の割に随分と素直な男だ。前回は比較的短時間しか会っておらず、しかもあまり直接会話もしていない。実はこういう男なのだと分かっていたらここまで警戒しなくともよかったのに、と自分の情報不足が悔やまれた。


「怪我人はおりません。家屋にも何ら被害はなかったようです。そのまま置いておいても問題ありませんが、結界の薄いところなので、あの、中に入っていたあれも置いておくとその内魔力が抜けていってしまうと思いますが、それは大丈夫ですか?」


 アレンの物と思われる、強力な魔力を帯びた髪の毛。あれはそのまま落ちてきた金属の箱の中に入れたままだった。一度確認の為ロンが触れたが、あまりにも強力な魔力を感じた為危険と判断しそのままとなっていた。


「結界が薄い? ああ、それでラーマナだったんだな。成程なあ」


 セシルは何かを納得したようだった。少し目が輝いている。恐らく本当に研究が好きなのだろう。変わった王族だ。シュウがクス、と笑うと、セシルが情けない顔をした。


「仕方ないだろう、ずっと理由が気になっていたんだ」

「これは失敬」


 ふたりは城門を出た。空気はすっかり夏の空気に変わっている。今回は、ダルタニアが用意した馬に乗っていく事になっていた。町の外れにある厩戸にいるらしいので、そこまでは徒歩で向かう。


 衛兵たちの物悲しそうな視線が痛かったが、シュウはあえて気付かないふりをした。堂々としていれば、悲壮感は多少は減るかもしれない、ならばシュウは楽しそうに真っ直ぐ見て歩けばいい。


「アレン陛下は?」

「先に戻らせた。あいつは本来仕事を放り出して外遊できる程の暇人じゃないんだ。今頃書類が山積みになっているだろうな」

「はは、それは大変ですね」


 書類の山はシュウにもお馴染みのものだ。見るだけでうんざりする事から解放されるのであれば、この人質という立場も全てが駄目という訳ではないかもしれない。ソーマ達が聞いたら怒りそうな事をふ、と考えたら何だか楽しくなってきた。それに、この隣の男もなかなか面白そうだ。


 街に入った。シュウとセシルの組み合わせは目立つのか、道行く人々が皆振り返る。


「……お嬢さんには、申し訳ない事をした」


 小さな声でセシルが謝ってきた。シュウは前を向いたまま、同じく小声で答える。


「娘にはまだまだ制御の練習が必要だという事でしょう」

「あれは……どういう魔法ちからなんだ? まるでアレンの心を吸い取ったかのような光景だったが」


 隠し通していたヤナの魔法ちからは、詳細まではばれていない。幸いな事に、ただ共鳴してアレンの心の映像を映したと思われていると思われた。グルニアにだけは結局教える事になってしまい、何故言わなかったのかと叱られたが。


 ただ、あのアレンという男にはもしかしたらばれているのかもしれない。あの、何もかもを見透かすような赤い瞳。ヤナが何も言わずとも、ヤナの魔法ちからが何かを理解していたような素振りを見せていた。周りの者に何も言わなかったのは、ただ単にアレンにとってヤナの魔法ちからそのものはそれ程利用価値がないと判断されたからなのかもしれない。


 それ程に、あの王は強力な魔力を持っているのだ。強大な魔力を持つ赤眼の王が何故ここまで大陸中から畏怖の対象として見られているのか、会ってみて初めて理解した。


 あれは、化け物だ。


「他言無用で」

「問題ない。ただ単に俺の興味が湧いただけだ」

「はは」


 やはり研究馬鹿らしい。ユエン経由でこちらに有益な情報をもたらした事からも、この男がさほど政治に興味がない事は窺えた。フィオーレが感じているように、アレンがこの男に執着しているのであれば、この男と懇意になる事である程度何かしらの譲歩が引き出せる可能性はあった。

 

 それ以上に、この男には興味がある。


 市場に足を踏み入れた。何人か見知った顔がシュウに気付き顔を向けている。


「あれは、心の声を聞きます」

「そうなのか?」


 シュウが小さく頷く。


「通常は、相手の声を聞くのみです。あのように周りの人間を巻き込んでの能力の発動は、過去に一度きり。あの子の母が天に召されたその時のみです」


 セシルがシュウを見たのが分かった。


「あの……そうか、貴方達は親子ふたりきり……?」

「はい。親類は地方におりますが、王都にはおりません」

「そうしたら、貴方がここを離れるのはまずいのではないか?」


 ここに来てようやく保護者不在に不安を感じるのか。シュウは自分の心の中でスッと冷めた感情が生まれたのに気付いた。


 中途半端な気遣いは不要だ。


 隣を歩く男をしっかりと見る。笑顔はなくなった。


「しっかりして下さい。貴方はダルタニアの人間だ。優しさと憐れみを履き違えなさるな」


 シュウの冷たい目に、セシルは自分の失言に気が付いたようだった。


「カルセウス殿……その、申し訳ない」

「すぐに謝罪も口にされない方が宜しいかと」

「その……うん、分かりました」


 隣ででかい身体をしょんぼりさせているが、シュウの知った事ではない。この男は、もう少し自分の立場というものを理解する必要がありそうだった。


 どんどん街と外界との境目に近付いていく。何度も何度も潜ったあの門が、こんなに恐ろしいものだと今程感じた事はなかった。


 戻りたい。でも進まなければ。進みたい。会いたい。


「人の覚悟を、何と思っておられますか」


 理不尽に人から何もかも取り上げておいてからの謝罪など、欲しくなかった。


 セシルは何も言えなくなったのか、黙っている。


「言っておきますが、私は何ひとつ失う気はありませんよ」


 こちらを見る気配がした。素直な事だ。


「せめて、何故こんな目に遭わせられているのか。その理由位は開示いただけませんか」


 答えが聞ければいいな、程度の気持ちで訪ねてみた。本当に知っているのであれば、今のこの流れであれば口も軽くなっているに違いない。


 打算だらけの自分の思考。嫌になる事もあるが、こういう時は役に立つ。


「その、何故かは正直言って分からないんだ」


 辿々しくセシルが言う。


「そもそも異世界を探索されたきっかけは」

「あれは、アレンが異世界にラースがあるから連れてきて欲しいと」

「何故アレン陛下がそれをご存知だったかは」


 疑問に思われない程度に自然なように聞いていく。さて、この男は気付くか気付かぬか。


「聞いたが、答えはなかった。あとは何が知りたい? 出来うる限り答えよう」


 普通に気付かれた。やはり馬鹿な男ではないという事だ。ただし情に流されやすい所があるが。


 何となくこの男の感じが掴めた気がする。シュウはこちらを穏やかに見ながらシュウの返事を待つセシルを見た。


 少なくとも、相手を騙そうという気持ちはないのだろう。誠実であろうとしているのだろう。これはひとえにユエンのお陰なのだろう。あいつが、この男の中にシュウに対する興味の種を植え付けた。この男の中でのシュウの印象は悪くない。それは感じた。


 であれば。


「セシル様。私は貴方達がお探しのラースと共に過ごしました。私は、あの人が好きなのです」


 感情に訴えてやる。この男は、孤独なのだ。それ故に、他者の孤独に敏感なのだ。


 案の定、セシルが息を呑んだ。


 嘘ではない。シュウの気持ちは事実そのままだ。


 なのにそれすらも駆け引きの道具とする、この道化た己に嫌気がさす。


「私はあの人が大事なのです。だから、何故貴方達がここまでしてあの人を追いかけるのか、私はそれを知りたい」


 街の入口近くの厩戸が近付く。


 セシルの足が止まった。


 シュウが笑顔を浮かべて振り返る。自分でも分かっている。嘘くさい笑顔だ。


「答えをお持ちですか?」


 セシルは非常に言いにくそうだった。大きな身体をもじもじとさせている。


「セシル様?」


 言え。知ってる事を洗いざらいぶちまけてしまえ。


 その為にわざわざふたりきりになったのだろうが。


 シュウの笑顔は消えない。この笑顔が圧となる。言え。


 セシルが観念したように言った。


「その……理由は分からん。だけど、その」

「何でしょうか」


 シュウが1歩セシルに近付いた。


 セシルが泣き出しそうな顔になった。


「その人を、王妃に迎えると」

「……は?」


 鼻息を吹いてセシルが続けた。


「ラースをアレンの妻とする為に、ラースを探している」


 済まなそうなセシルの顔に、シュウは久々に、本当に久々に心からの怒りを覚えた。いい加減にして欲しかった。


 声が低くなる。


「……彼女の意思は、どこにある」

「カルセウス殿」

「勝手に連れて来られ、家族と離れ離れになり、ここでも逃げざるを得なくて、更に彼女と共にいるカラドからも引き離そうというのか!」


 花夏の意思などどこにもない。皆、アレンの都合だ。


 魔力があったら好きにしていいのか。人を物のように扱っていいのか?


 何のために花夏の背を押した。何の為に身を引いた。



 あんまりだった。



 シュウから漂う怒気に不穏なものを感じたのか、セシルは抵抗しなかった。


「申し訳、ない。言われるがまま連れてきたのは、俺の抑えられない探究心が招いた事だ。だが」


 シュウがセシルを睨みつけるが、セシルは続けた。


「カラドが今一緒にいるんだな?」


次回は明日(2020/10/28)投稿予定です!

頑張ります!

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