覚悟
それぞれの人たちの今、を書いた回になります。
嵐の前の静けさ。
お楽しみください!
日々更新チャレンジ中!(2020/10/8)
3点リーダ等微修正しました(2020/11/2)
師匠のセシルが、疲れた様子で執務室に帰ってきた。フラフラしている。抱えた水晶玉と小さな袋をイリヤに無言で渡した。
「師匠、大丈夫ですか? 具合でも?」
「ん……ちょっとそっとしておいてくれ」
窓際に椅子を持っていって、座り込んでしまった。外はいい天気なのに、時折溜息なんぞついている。面倒くさい事この上なかった。
「師匠」
「ん」
「それは聞いて欲しいんですか、それとも無視して欲しいんですか」
ちら、とイリヤを振り返ったが、顔が不貞腐れている。
「……お前にゃ無理だ。消化しきれん」
アレンと何かあったらしい。消化しきれん、ということは、十中八九色恋沙汰であろう。イリヤが全く分からない分野といえばそれ位だ。
「陛下に迫られでもしましたか」
ブフォッという音を出したセシルが、何事もなかったかのようにそのまま外を向いている。分かりやすい。一体、何をされたのか。いや、もしかして何かをしたのかもしれない。日頃男に興味がない者でも、間違いがあってもおかしくはない容姿を持つアレンだ。
「……僕には確かに無理ですね。自分で消化して下さい」
事実を述べた。それに、昨晩ユエンと笑いすぎて声が若干枯れている。あんまり話したくもなかったのが正直なところだ。
「……お前は楽しそうだな」
いじけたような師匠の声。突っ込まれたくなければ何も言わなければいいのに、と冷静に思うが、まあそれどころではないのだろう、きっと。面倒なので聞きたくはないが。
「変な奴で、楽しかったですよ。また近々飲みに行こうと話してます」
「珍しいな、本当」
セシルは少し興味を覚えたのだろう、イリヤの方に向き直った。何だかんだいって、この人は師匠なのだ。
「今、各国から集められている留学生のうちのひとりで、ラーマナから来てる奴です。変人過ぎて浮いてるみたいですよ」
自国でも大分浮いているらしかったし、まあ変人は変人だろう。イリヤと気が合う時点で十分変人だ。
セシルの顔つきがまともなものになった。背筋がようやく伸びた。やっと気持ちを切り替える事が出来たようだ。
「あんまり留学生に気を許すなよ。何で招いてるか、お前は知ってるだろう」
あまり興味がなかった為、実は知らなかった。そもそも招いている事すら知らなかった。だから素直に伝えた。
「いや、実はちっとも」
セシルが、はあ……と大袈裟な溜息をついた。そこまでしなくともいいのではないかと思う。
「腹の探り合いをする為だよ。こっちは各国の反応を見たい。どこが強く反応してくるかも。あっちはこちらの内情を知りたい。こっちは友好国を増やして囲い込みたい思惑もある。お前がぺらっと喋った事が、向こうの中枢に伝わる可能性は高い」
「間者みたいですね」
「近いものだろうよ」
セシルが続ける。先程までの情けない様子はなくなり、すっかり人に物を教える師匠の姿に戻っている。気が紛れたならよかった。師匠の落ち込む姿は見たくない。
「結界の件もそうだ。どこかの国が、もし俺たちが破れた結界を探していた事が分かったら、お前ならどうする?」
イリヤは考えた。こういう問答は好きだ。世界が広がるような感覚を覚える。もしかして、昨日ユエンが言っていたのはこれの事なのかもしれない。であれば、同じ趣向を持つ人間だ、気が合うのも当然なのか。
「……自国の結界が破れてたら、原因と理由が知りたいですね。自国じゃなくても、今近隣で何が起きてるかは把握したい、かも」
知らなかった、が後に取り返しのつかない事になる可能性はいくらだってある。
「争いの元になるのかどうか。そこに介入することによる利益と不利益の判断。国としては知っておきたいでしょうね」
「そういう事だ」
セシルが頷いた。及第点をもらえたらしい。
「イリヤ、お前は特に発言に気を付けなければ駄目だぞ。他の連中が知らない事を知り過ぎている。喋る時はちゃんと考えてからにしろ」
「……はい」
折角楽しい玩具を見つけたと思ったのに、早速釘を刺されてしまった。自然、顔が曇る。そんな不貞腐れてしまったイリヤを見て、セシルが言い過ぎた事に気付いたらしい。
「まあ、話すなとは言ってない。ただ楽しく過ごすだけなら、むしろお前にとっていい事だろう。ただ」
イリヤは師の次の言葉を待った。こういう時は、大抵後になって重要な事を言うのを知っていた。
「のめり込むな。お前は経験が少なすぎる。そして……お前の理想を押し付けるなよ」
「はい」
理想を押し付ける。正直意味が分からなかった。でも、聞いたところで今は理解できそうになかった。
「……はい、分かりました」
ユエンと話している内に理解出来るようになるだろうか。イリヤをひとりの人間として見てくれるユエンなら。
イリヤは考え込みながら、大分汚れた執務室の掃除を始める事にしたのだった。
リュシカ王国王都カコを出発してから半月程。花夏とアスランは、リュシカ王国とユニ王国の国境地点に辿り着いた。
このふたつの国を隔てるのは、幅広い大きな大きな川。この川は、西の大国ヴァセルへと続いており、そのまま海となるという。
魔物討伐で比較的現在は裕福だったので、移動は乗合馬車を使った。おかげで、かなりの距離を進むことが出来た。
この大陸の広さは分からないが、ひとつひとつの国土はかなり広い。国土の狭い日本に住んでいたので比較があまり出来ないが、ユーラシア大陸とか、アメリカ大陸くらいの大きさはあるのではないか。何となくそんな事を考えた。学校の教科書を置いてきてしまったのを少し後悔した。自分の世界の大陸の大きさすら分からない。
「カナツ」
アスランが馬車から先に降り、花夏に手を差し伸べた。アスランはいつも大事な物を扱うように花夏に接する。少し心配性過ぎるのではないかと思える程、優しい。
「この先に渡し舟がある。船は、大丈夫か?」
「実は、乗った事ない」
花夏の住んでいた地域には海もなく、大きな川もなかった。自ら進んで乗りに行かない限り、船になど乗る機会はなかったのだ。なので、船酔いするのかどうかは乗ってみないと分からなかった。
「どうする? 少し休憩してからにしようか?」
花夏の手を指を絡めて握りながら、心配そうに顔を覗き込んでくる。心配ばかりかけているのはよくない気がした。
辺りはなだらかな傾斜の野原が一面続いている。ふたりは、川沿いの細い道を進んでいった。
「大丈夫、行こう」
「無理すんなよ」
「アスランは私を甘やかしすぎだよ」
そう言って、笑いながら隣のアスランを見上げた。宝物を見るような眩しい目で見返され、照れてしまう。花夏が思わず目を逸らすと、アスランが軽く口づけをしてきた。
「わ」
びっくりした。心臓がバクバクいっている。アスランを横目で見ると、いたずらした時のような楽しそうな顔をしていた。
「驚くカナツも可愛い」
またそういう事をあっさりと言う。アスランの愛情表現があまりにもストレート過ぎて、どう反応したらいいか戸惑う。
カコの街の春祭りで理解した、自分の恋心。それを告げた後のアスランの喜び方は凄かった。アスランには、取り繕うとか、照れ隠しとか、誤魔化すとかそういう考えが一切ないらしい。花夏が少しでも嫌な素振りや抵抗を見せる事は基本しないので、キス以上に手を出される事はないのだが、とにかく甘い言葉の羅列が凄い。釣った魚に何とか、というのはアスランには全く当てはまらないらしかった。
花夏も何か言ってあげた方がいいのは分かってはいるのだが、照れくささが優先してしまいあまり口に出す事は成功していない。何もかも与えられているばかりで不甲斐なかった。
「あの……そんなに私がいい?」
正直不思議で仕方がない。この自分に、ちゃんと愛情表現も出来ないような子供の自分のどこにそこまで好かれる部分があるのか。
「何言ってんだよ」
呆れたような顔をされた。わざとらしく溜息なんてついている。その姿も、様になっているのだけれど。
「本当カナツは分かってないな。だから心配になるんだよ」
「わ、分かってないって何を」
「カナツの事」
何を言ってんだ、とアスランが笑う。
「そこにいるだけで人目を引くし」
「それはアスランでしょ」
「うなじも綺麗でつい触りたくなるし」
そう言って花夏のうなじをツー、と指でなぞった。ぞわわっとしてしまった。
「ちょ、アスラン!」
アスランを見ると、物欲しそうな目でこちらを見ている。獲物を見るような目だ。あまり刺激しない方がいいのかもしれない。
「でもそれを見せないようにすると、今度は髪をおろすだろ。艶々だしこれも綺麗だしさ、俺はどっちがいいか選べない」
アスランの好みを言っているのだろうか。いつアスランの好みの話に変わったのだろう。
「あのね、アスラン」
「体も細いのに出るとこ出てるだろ、しかも帯剣しちゃってさ。格好いいったらない。姿勢きれいで、何だか肉食獣みたいな色気があってヤバいし」
「肉食獣?私そんな飢えてそう?」
そういえば、この世界に来てから肉食獣には出会った事がなかったが、ちゃんといるようだ。熊もいるみたいだし、地域によってはいるのかもしれない。
「違うよ、そういう意味じゃなくて。狙ったら一瞬で捕まりそうって事」
「何を」
「俺を。まあ、もう捕まってるけど」
花夏は真っ赤になって何も言えなくなった。また、そういう事を平然と言う。
「しかも俺には滅茶苦茶優しいだろ?頭撫でてくれたりさ。腕枕は1回だけだったけど。飯もどんどん勉強して美味くなるしさ、俺もう離れられないよ」
狂おしそうに言われる。色気をプンプン出されていて、直視出来ない。
「すぐ照れるのもそそる」
「そ……」
これがそそるのか。そそってしまうのか。だが、堂々と開き直る事はまだ無理だ。
船着き場が見えてきた。数人が乗れるだけのような小さな船が停泊している。
「なあ」
「……なに」
「そろそろ、軽くないキスしてもいいか?」
「軽くない……」
あれだ。前にシュウにされたあれだ。あれをいい、と言えるのか。いや、無理だ。無理無理。
アスランが足を止めた。周りを見渡す。
「今なら、人も見てないし」
「え、今の話? いや、でもそこに船が」
花夏は目一杯動揺した。見られる見られないの問題ではないのだが、どうもアスランは花夏が人目を気にしていると思っているようだ。
「宿屋とかだとさ、止まらなくなってカナツを泣かせても嫌だし」
「止まらない……」
つまり、その先、ということだ。確かに、ベッドに横になったら若さの塊のアスランは止まらなくなってしまうことは予想できた。一緒に横になっているだけで、たまにジタバタしている時がある。あれはきっと我慢しているんだろう、と思っているが、いいとも言えないので気付かないふりをしていた。
「ここのところ移動もずっと乗合馬車で、人目あったしさ」
不満そうに口を尖らせている。その仕草が可愛すぎて、目の前がクラクラしてきた。言ってる内容は全然可愛くないしむしろそちらが肉食獣のようなのだが、果たして理解しているのかどうか。
「とりあえず1回、試しに。頼む!」
手を合わせてお願いされた。どんなに可愛くお願いされても、花夏にとっては崖の上から身を投げ出すような心境なのだ。だが、ずっとアスランを我慢もさせている。勇気がでない自分が情けない。
「か、か」
「か?」
言えない。アスランが首を傾げて花夏を見つめている。目は期待で輝いている。眩しくて仕方ない。
「軽く、1回、なら」
――言ってしまった。もう否定は出来ない。穴があったら、入って閉じこもりたい。
ちら、とアスランを見ると、どう見てもわくわくして顔を上気させている。
「あー、じゃあ、カナツ、いいかな」
アスランは嬉々としてそう言うと、花夏の両肩を優しく掴んだ。緑色の瞳が、じっとこちらを見ている。怖くなって、目を閉じた。アスランの薄い唇が当たった。
「……カナツ、固い」
文句を言う息が近い。やはり無理だ。近すぎる。無理無理無理。
「よし、アーッって言ってみて」
今回は諦めたのだろうか。少し安心してしまった自分がいた。
「?あー……んん!」
口が塞がれた。口の中に暖かい物が入ってきた。アスランの舌だ。優しい。花夏が抵抗しないで済む程度に控えめにしてくれているのが分かった。この人は、いつも花夏を一番に考えてくれている。シュウの時の、あの強引さは全くなかった。優しく、優しく花夏の舌に絡ませる。
苦しくなって息を吸い込もうとすると、口を離してくれた。目が合った。愛おしいものを見る目つきだった。花夏が息をすると、もう一度、今度は先程より深く、少し強めに入ってきた。体が震える。体の全神経が口に集中してしまう。
――気持ちいい。
膝がカクッと崩れた。
「おっと」
アスランが抱き留めた。震えている花夏を感じ、花夏の頭を愛おしそうに撫でる。
「好きだ」
耳元で囁かれる。心の奥底からの、嘘偽りのない言葉。
「好きだよ」
震えが治まってきて、肌に感じるのはアスランの体温。恥ずかしくて顔は見れそうにないけど。
「私も、大好き」
花夏の世界に帰りたいと思わなくもないけど。家族は愛しい。会いたい。でもそれ以上に、この大切な人がいない世界にはもういれない。きっと、花夏の心は寂しさで破裂してしまう。
たとえ何かがふたりを分かつ時が来たとしても、せめて同じ世界にいたい。
同じ世界で生きて、同じ空気を吸っている。それだけで生きていける気がするから。
いよいよ明日はヤナが宿舎に入る日だ。
シュウはソワソワしていた。部屋を行ったり来たりしているシュウを見て、サルタスが一言。
「落ち着いてください」
「いや、だって」
「元々離れて暮らされていたでしょう」
「いや、そうなんだけど」
準備されたトランクの山。宰相のひとり娘という事で、恥ずかしくない物を、とサルタスとシーラが火花を散らしながら選んだ物が詰まっている。火花を散らすさまを、ヤナは楽しそうにただ見ていた。放っといていいのかとシュウが聞くと、「愛が詰まってる」とだけ言っていた。ヤナが一体何を聞いているのか、正直知りたくなかったのでそれ以上は尋ねなかった。
これから、ヤナは貴族の令嬢としての教育を受ける事になる。サルタスとシーラがかなり仕込んだのでもうぼろを出す事はなかなかないだろうが、元々が天真爛漫な子だ。正直不安だった。
それに、同年代の子供と接した経験が殆どない。力の制御は出来るようになったが、人が大勢いるところにずっとやるのは怖かった。
「……大丈夫ですよ、ヤナなら」
「そうだとは思うけどね」
ヤナには逞しさがある。それがいい方向にいけば問題ないのだが。
「シュウ様、そういえばユエンから報告が来てましたよ」
「お、何か進展あったか?」
サルタスが苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「本当、勝手に人の部下を他国にやらないでください」
「悪かったって」
サルタスにしてみれば、休暇に入っていたと思っていた部下が一向に出勤してこない。他の隊員に聞いても誰も行方を知らない。流石に焦った。何か起こったのではないか。急いでロンに気配を追って視てもらった。かなり広い範囲を探してクタクタになったロンが、苦労の末ようやくユエンを見つけた。何故かダルタニアにいることが分かった時は、何ともいえない感覚に襲われたものだ。ダルタニアの魔術師がラーマナから去ったタイミングで、部下がいきなりダルタニアにいる。犯人はひとりしかいなかった。急ぎ宰相室に向かい、シュウの部下があんぐりと口を開けている中、犯人をとことん追い詰めた。その様子を見て、少し顎のしゃくれた若者が拍手していたのが印象的だった。
「丁度まだ決まってなかったからさ」
留学生の話だ。毎年3か月の派遣があるが、今年はバタバタしていて選定が遅れていた。ユエンは内偵にとても向いている。飽きっぽいのが玉に瑕だが、若いがかなり出来る男だ。あとは軽いのも玉に瑕だ。こういうと瑕だらけだが、ちゃんとやる事はやる男だ。シュウがこれまでにきちんと仕込んでいるので問題ない。
「部下に情けないところ見せちゃったよ。あんなに追い詰めなくてもよかったのに」
「情けないのは元々でしょう」
にべもない。
「で、ユエンはなんて?」
「……ヤナが恐怖を感じた、あの小さい方の魔術師。イリヤ・シュタフという男ですが。偶然声をかけられ、すっかり仲良くなったようで」
サルタスはあの瞬間を忘れられないでいる。日頃弱音も吐かず明るいヤナの、あの恐怖に満ちた表情を。あれを見たのは自分だけだ。恐らく、あの感覚はいくら説明しても分かるまい、と思う。いくら父親であっても。
「あの滅茶苦茶な奴だな」
「謁見の際の事ですか」
シュウが頷いた。
「多分切れるんだろうが、圧倒的に我慢が足りない。あの場を滅茶苦茶にされるところだった」
隣国の王の前で言いたい放題だったと聞いた。真っ直ぐというか、怖いもの知らずというか、凄かったらしいとは聞いたが、どれ程のものだったのだろうか。
「感情に疎いんだろうな。場が読めない。場を読んだ上であえてそれを壊すユエンとは、案外合うのかもしれないが」
シュウがふう、と息を吐く。まだ若いのに、苦労ばかり抱え込んでいる宰相を見て、少し哀れに思った。だが、続きは言わねばならない。
「また、何かを落とすようだと」
シュウの顔色が変わった。
「相手は酔っていて不確かだそうですが、仕事で面倒なのをもう一回やるとだけ言っていたそうです」
「それで、時期は」
「体力をつけないと行けないから寝溜めすると。その前後は飲めないとのことで、次は終わってから声をかけると言われたようです。恐らく、数日の内に実行されるかと」
シュウが小さく息を吐いた。
「……あそこは手紙が届かないしな」
「先程、ロンを向かわせました」
ここに来る前、手配を済ませた。恐らく間に合うだろう、と思う。
「恐らく、カナツが落ちてきた場所と近い所に何かが落ちてきます。それを確認し次第、ハルナ様を連れて逃げるようにと指示をしてあります」
ロンの魔法なら、誰にも会わずにシエラルドまで逃げて来れるだろう。
「ロンの家に匿うよう言ってあります。ここに来るのはあまりにも危険なので」
シュウが、サルタスをじっと見た。
「……なんですか」
気味が悪い。
「やっぱり隣に欲しいなあ、サルタス」
「そんな喉から手を出すように言わないでください。気持ち悪い」
「お前、宰相に向かって気持ち悪いって」
情けない顔をしている元上司には申し訳ないが、言わざるを得ない。
「守るべき物を決めて下さい。全ては守れません」
シュウが笑った。
「始めから言ってるだろう。ヤナを守れ」
自身の恋心も封印して守ろうとしたものだ。当然だった。
「だが、お前はお前の一番を守ったらいいんじゃないか」
また、そういう謎かけのような事を言うのだ、この男は。
「任せたぞ」
一国の宰相の男の目をして、シュウが言った。
「……畏まりました」
サルタスが請け負った。そして思う。どうやったらこの男に追いつくのかと。
どうやったら、その覚悟を持つ事が出来るのだろうか、と。
できる男サルタスがどんな追い詰め方をしたのか?いつか書けたらいいなあと思います。
次回はいよいよヤナのちゃんが宿舎に行きます。お楽しみに!
明日更新予定です(2020/10/9)