元悪役令嬢のハッピーエンド
今日は卒業式。
あの事件の後、アニー・ベアリングは人知れずひっそりと刑罰を与えられたそうだ。
詳しい事は教えてもらえなかったけれど、きっとこの世にはもういないのだろうと思っている。
可哀想だと思ってしまうけれど、きっと彼女からしたら、嫌いな私がそんな風に思うこと自体、許せないって思うだろうと、もう考えないようにしている。
ルークから贈られたサファイアブルーのドレスに身を包む。至る所に金糸の刺繍が散りばめられていて、一見して豪華なのがわかる。色素の薄い私では、こんな濃い色のドレスは冷たい印象になってしまうのでは?と思っていたのだけれど、不思議とそんな事にはならなかった。
「エリー、本当は天使なんじゃないの?」
エルがドレス姿の私を見て、ほうっと溜息をつきながら言う。そんなエルは黒いモーニングに金糸の刺繍が映えていてスラッとしたエルに似合っている。
「エルこそ。きっとエルとダンスしたがるご令嬢が列を作るわ」
会場に着くと、もう皆揃っていた。
「わあ、エリー綺麗だ」
サムが感嘆の声をあげてくれた。
「ありがとう、サムも素敵ね」
「エリー、本当に綺麗だ」
「うんうん。ちょっと綺麗って言葉だけじゃ足りないよね。芸術品みたい」
「……」
この場に沈黙が流れる。
「凄い……ライリーがいい事言った」
エルが信じられないという顔でぼそっと言う。
「成長したね」
サムがわざとらしく泣いたフリをする。
「ふふ、ありがとう、リアム殿下。ありがとう、ライリー」
『なあ、まだか?腹が減ったぞ』
『アタシも』
「ボクも」
「そうよね。たくさん食べるんだってわざわざお腹空かせていたんだものね」
「お前たちもめかしこんでるんだな」
リアム殿下が皆の胸元に気付いて言う。
『そうなの。エリーがね、作ってくれたんだ』
テーレが胸を張って皆に見せる。
学園長が卒業パーティーに聖獣の方々も是非と言ってくださったので、せっかくならと三匹で色違いの蝶ネクタイを作ってみたら、思いのほか喜んでくれた。
「じゃあ、アステルたちの腹の虫が鳴る前に入るとしようか」
『我の腹の虫はとっくに鳴ってるぞ』
「はいはい、じゃあ行こう」
エルの先導で会場へ入る。
「エリー待ってたよ。卒業おめでとう」
中に入るとすぐに出迎えてくれたのはルークとウィロウ。
「おめでとう。今更ながらに思うけど、皆イケメンよね。こうして正装して並ぶとなかなか壮観だわ」
ウィロウがしみじみと言う。
「その中でも一番は俺だよね」
ライリーがウィロウに詰め寄る。
「私の中では勿論、ライリー、あなたが一番よ」
ウィロウが言えば、ライリーの顔がこれ以上にないくらいデレデレになった。
「あーあ、バカップルはほっておいて何か飲み物でも貰いに行こうか」
とエルが後ろを見れば、物凄い数のご令嬢方がエル、サム、リアム殿下に熱い視線を送っている。
「ほら、ご令嬢方が待っているよ。ダンスの相手をしてあげないとね。さ、エリーは私と踊ろう」
そう言って私をエスコートしてフロアの中心へ進むルーク。
気付けばアステルたちはすでに食べ物の並んでいるスペースに行っていた。先生方に給仕してもらっている。
中心へ到着すると、それが合図のように音楽が流れ始めた。
「エリー、本当に綺麗だよ。私の瞳の色のドレスが似合ってる」
「ドレス、ありがとう。本当に綺麗なドレスだわ」
「ドレスも綺麗だけれど、そのドレスを綺麗に見せているのはエリーだよ。エリーが着るからより映えるんだ」
うう、正面から褒められると恥ずかしい。
「あの、ありがとう。でもその、もうあんまり言わないで」
「まだまだ全然言い足りないけれど?」
「心臓持たないから」
「フフ、エリー可愛い」
そう言って私の頭にキスを落とす。
ボンッと久々に爆発が起こった。
「顔が真っ赤だ」
そう呟いたルークは踊りながら、色々な所にキスを落としていく。そしてギュッと抱きしめてきた。
「エリー、君は覚えていないかもしれないけれど、今、過去4回の断罪の時間を超えたよ。私も実際に見たわけではないから上手く言えないけど、この時点で君は断罪もされていなければ、死の宣告も受けていない。これで完全にループはなくなったという事だと思う」
そう言うと突然、私の前にひざまづいた。
「エレノア、改めてここで誓わせて。君を愛している。過去も含めてずっと、君の全てを愛しているよ。これからも君を一番近くで守らせて。そしてたくさんの幸せを分かち合おう。だからどうか私と結婚してください」
突然の公開プロポーズに、私の時間が止まったように感じた。
過去の4回の記憶は私の中には殺された時の記憶以外ないけれど、どうやらルークには色々な記憶があったらしい。そして、過去の私を含めて愛してくれていると言う。そんなに想っていてくれた事がたまらなく嬉しい。
「私も愛してる。そしてこれからは、守られるだけじゃなくて守れるように頑張るわ。だからよろしくお願いします」
そう言った私の傍には、いつの間にかアステルたちが座っていた。
『我らがいるのだから、お前らまとめて守ってやるぞ』
「ハハ、そっか。ありがとう」
そう言って立ち上がったルークは、私を力一杯抱きしめた。
「エリー、愛してる」
優しく甘い声で言ったルークはそっと私の唇に口づけた。
周りからは、悲鳴やら歓声やら怒号(主にエル)で大騒ぎになっていたけれど、全てがかき消されるほどの甘さを含んだキスに身をゆだねたのだった。




