二十八:ミカフツの破格
心底不思議そうに、あっさりとライは言ってのける。自分の力、四方津神の力を信じて疑わない。
祟り神のことを知らないわけではないはずなのに。
「おまえ、本気で言ってんのか」
「本気も何も、ふつうじゃね?」
「……はぁ」
ガトーはため息でふたりの言い合いを止めた。
「ライ、確認するけども、おまえは負けるという可能性を考えてないんだね?」
「負けるわけねえだろ。俺とミカフツは強いんだから。まあ戦略が必要ならそこはガトーや姉さんにお願いすっけど」
「あんたってひとは……」
アマネが頭を抱える。
「ライの兄貴、それはさすがに無謀すぎねっすか……?」
「無謀じゃねえよ。だってさあ、俺らが生まれる前から祟り神は封じられてたんだろ? つまりさ、昔は祟り神を封印できる強いヤツがいたってことだよ。最初っから封印されてたわけでもないし。
てことはさ、最低でももう一度封印するのはできんだよ」
ミカフツはライの言葉を飲み込んで頭の中で繰り返す。
ライの言葉には無理があったが、同時に可能性も含まれていた。
大昔に封じられた祟り神は、今解放されたばかりで自分の力を思い通りに操れない。力こそ絶大だが、制御がうまくできていないなら充分に発揮できない可能性も高い。
その致命傷をつけば、あるいは?
ミカフツにも、ほんのわずかに勝機が見いだせてきた。
「……おい、苔野郎」
「へい、へい?」
「祟り神を封じた時代の情報を得られるか?」
「え、ええ? その時代を生きた者か、情報が形として残ってりゃできるかもしれんです。……けども、この大嵐のせいで情報が砕かれてる可能性あるから、ちょっと難しいです」
「お山の外に出ても厳しいか?」
「うーーん……、やってみないことには」
「来年ぶんの食いモンを報酬にくれてやる。情報はたった一つ得られただけでも構わねえ。祟り神をもう一度封じる手だてを、探し出してくれ」
ミカフツの声に重圧はなく。ただ真剣な声色だけが響く。
一年ぶんの食料というのは苔男にとってこの上ない破格の報酬だ。家来を養っていくための食い物をつねに探して働く男なのだから。
その報酬につられるの半分、残りはシロを取り戻すため。
苔男はしっかり答える。
「一日ください。見つけてみせまっせ」




