二十六:目覚めた四方津神
シロが祟り神と一緒に、最奥の祠へ消えたあと、ミカフツは屋敷へ戻った。ぼろぼろの体でどうして戻ってこれたのか覚えていない。頭の中は空っぽだった。
「ミカフツ」
「旦那」
ガトーと苔男が沈痛な面もちでミカフツを迎える。ライはまだ眠っているらしかった。
どつ、っと力なく座り込む。
シロをむざむざ祟り神にとられたというのに、四方津神の誰も、苔男もミカフツを責めはしなかった。
「ミカフツ……」
アマネのいたわる言葉もむなしく消える。
「シロを……、連れ戻せなかった」
「……。いや、おまえにもできないほどのことだったんだ。
気にしなくていい……といって立ち直れないね、おまえは」
ガトーが答える。シロを思っているからこそ、ミカフツの自責の念が強いのだ。
「あいつ、自分から進んで祟り神んとこに、」
「そう。私たちに考える時間をくれたんだ。
祟り神を鎮めて、シロを取り返す方法を考える時間をね」
「あぁ……なんてざまだ」
四方津神をまとめる立場の自分が、供物である小さな子供に頼らなければ何もできないなんて。
お山はきれいさっぱり晴れている。だがその場にいる全員の心は冷たく沈む。
シロを取られたことでミカフツの考える力が抜けている。もともと頭は良くないが、輪にかけて悪化した。
いつもならいくじなし、と叱り飛ばすアマネも口を閉じる。ガトーは頭を抱えて物思いにしずみこむ。苔男はおろおろしてかける言葉を必死に探す。
そんな空気を破ったのは、ライだった。
「あれ、雨やんだ?」




