二十二:同胞
祟り神はじっとシロを見据えている。
窓からふりこむ雨と風も構わず、アマネとガトーの焦った声も聞こえず、シロは祟り神をにらみ返す。にらむほどの眼光ではないが、ひるむことなく精一杯きかせたにらみだった。
祟り神は笑って、へたり込んでいるシロと目線をあわせる。
「なるほど」
ひとり勝手に納得する。
ガトーはさりげなくシロの肩に手をおいた。
「シロ、こちらへ」
「でも、ガトー様……」
ガトーがそっとシロを自分のほうへ寄せる。
「こら四方津神。私からその子供をとろうとするな」
「……あいにく、この子はミカフツの供物なもので」
「供物と言うには、食らわれていないな。熟すのを待っているのかな」
張りつめた空気を、少し離れたところに控えていたアマネはしっかりと感じていた。いつ何が起こってもおかしくはない。
「……?」
ふと窓の外を一別したアマネは首をかしげた。
さっきまで大嵐だったはずなのに、外はきれいさっぱり晴れている。嵐の痕跡はあれど、雨も雷も、すっかり消えていた。
「こんなところで同胞に会えるとは、何という幸運か」
「どうほう……?」
「そう」
「どうほう、とは?」
「仲間という意味だ。
おまえは間違いなく、私の同胞。そしてこのマガツキの子孫でもある」
祟り神はとんでもないことをさらりと言ってのけた。
「何を言ってるんだい……!?」
「この娘は白の一族の血を受け継いでいる。我らと同じ、神の血が」
「神なんて、そんなの勘違いです……わたしは、村の供物として、ここへ……」
「それこそ勘違いだ。私にはおまえの中に眠る神力がわかるよ。
それに、村からの供物だと言ったな? おまえはもともと、その村の生まれとは違うんではないのかな。外からふもとの村へやってきた。
おそらく前に暮らしていた村では、奉られていたか虐げられていたかのどちらかだ。おまえは白い。この地の人間とは少し違う姿をしている。異なる姿をしていると、人は神と崇めるか異形とそしるかのどちらかだ。
おまえはどちらだったんだろうな」
シロは無意識にガトーの方に寄った。目の前の神は友好的でありながら、その実シロの過去を堀りだそうとする。
会ったはずがないのに、シロの過去を掘っては当てていく。
じっさい、供物として捧げようとした村はシロを迫害していた。シロを供物にしようとしたのだって、外からやってきた者をやっかい払いするための口実に過ぎなかったのかもしれない。
まぶしい日差しが、お屋敷に差し込んでいた。




