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十九:マガツキと祟り神

 残ったミカフツは、マガツキを眺める。

 シロと変わらないほどの見た目をしたその神は、ミカフツやガトーをもしのぐような年の雰囲気を持っていた。


 空気が違う。さっきからミカフツの肌を、するどい針が刺すような空気が漂っている。

 

「おまえ、マガツキか……?」

 おそるおそる口を開いてみる。あったこともないはずなのに、その神はマガツキではない、何か恐ろしい存在に感じた。


「そう、私がマガツキ」

「……そうかよ。なら、このお山の嵐もおまえの仕業だな?」

「まあね。でも少し違う。

 この体はマガツキだが、今おまえとしゃべっているこの私はマガツキではないのだ」

「あんだと」


 その子供は祠に乗ったまま足を組み直す。


「ある日ここに小さな神が迷い込んだ。それがマガツキ。

 マガツキはこのお山を気に入り、お山のあちこちを漂い続けた。


 そのうちいつしか、この祠へとたどり着いた。

 私はそのマガツキの体を借りてここにいる」


 ミカフツの息が一瞬とまる。

 祠? その言葉だけで、ミカフツは目の前の子供の正体を知る。


「おまえ……最奥の祠に封じていた、祟り神のたぐいか……!!」


 ミカフツはその存在をよくは知らない。

 四方津神がまとめるこのお山には、最奥の祠というものがある。今、ミカフツがいる場所だ。


 その祠には用がない限りは決して近づいてはいけないという暗黙の了解が存在する。そこに祀られているものが非常に危険だからだ。


 どれほど恐ろしいか。どんな風に危険なのか。それらは全て言い伝えに過ぎず、はっきりとした記録は残っていない。


 だがミカフツをはじめ、お山の住人には当たり前のように恐怖として染み着いていた。


 ミカフツは、一度興味半分で最奥の祠へ向かったことが、小さいころにあった。

 べたべたに張られた無造作な札と、鬱蒼とした木々、朽ちかけの祠が幼い頃のミカフツには、得体の知れない物体に感じられた。

 瞬きすらわすれ、呼吸も逃げることもわすれ、ただその異様な空気に圧倒された。足がすくんで動けず、そんな自分を笑うかのように、木々がざわめいた。


 そのときは偶然羽ばたいたカラスの羽音で我に返り、一目散に逃げ出すことができた。

 身にしみついた恐怖や祠の空気が気持ち悪くて、すぐに風呂へ入って必要以上に体を磨いた。こすりすぎてひりひりした。


 そんな祟り神が目の前にいる。

 マガツキという生まれたての神の体を通して、ミカフツと会話をしている。


 非常事態である。こうして意志疎通ができているということは、

 封じていたはずの神が解き放たれてしまったということになる。


 この神は、マガツキを奪って、外にでてしまったのだ。



「このマガツキは生まれたてであり、みずからの力を御するほど育っていない。しかし神力は驚くほど富んでいる。


 壮大な神力がこの封印をわずかに引きはがした。私はそのはがれた目を打ち破ってこの祠から出てきた。い

 じつに幸運。おかげでせせこましい棺からでることができたのだ。


 さて、体がなまってしまっているし、少しは体力を取り戻そうかな」


 祟り神がようやく腰を上げた。祠からよいっ、と降りた。


 それだけで周囲に風が吹く。


 ただの風ではない。暴風だ。そこらの木々を簡単になぎ倒す。

 とっさに踏ん張ったミカフツは、何とかその場にとどまった。


 ほんの少しの動作をしただけでこれだ。祠を守るように囲っていた木々はすべて無惨に切り裂かれている。祠だけを残して。


 それがこの祠から先へでてしまったら、お山が大惨事になる。

 草木ははがれ妖怪たちは死に絶え、家屋も川も吹っ飛ばす。


 そして、四方津神や苔男、今は非力なシロもいる。


 彼らを守るためには、この祟り神を再び封じねばならない。


 幼い日の恐怖が体に生まれ始めた。ミカフツの足はもうすくんで動けない。

 だけれどここで動かなければ、死ぬほど後悔するのはわかりきっているのだ。


 方法が欲しい。術が知りたい。このお山を守るために、まず恐怖を打ち消すにはどうすれば。 

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