二十:たった一つの動作
ミカフツは何も頭が回らない。知恵を絞るのはガトーと苔男の仕事だ。自分は体を使ってことを解決するのに向いている。
だったら、祟り神を体を張ってでも止めればいい。策を見つけるのは簡単だ。
問題なのは、それを実行できるかどうかにある。
ミカフツは丈夫な体だから、ちょっとやそっとのことでは傷つかない。
だが相手は祟り神だ。流石のミカフツでも無事では済まされない。
いつも通りの調子があれば、互角程度にはなろうが、今のミカフツの精神状態ではまずい。
恐怖に駆られた体が、思い通りに動いてくれるはずもない。
「お前はいつまでそこにいるつもりだ?」
「……う」
「お前らに危害は加えない。
封じられた理由も憶えていないし、そもそもいつから封じられていたのかも憶えていない。
きっと気の遠くなる年数だったんだろう。私を封じた当事者たちは恐らく死に絶えている。
お前たちに恨みを持ちはしない。むしろ感謝している。私がこうして自由になれたのは、お前たちの行動が重なってのことだからなあ」
祟り神はミカフツの横をすっと通る。雷に弾かれたような感覚が、首筋をなでた。
この祟り神は自分の持つ影響力を理解していない。
悪気はなくとも、お山やその周辺の村に及ぼす被害は甚大になる。
神力の強い神々でも、四方津神のようにある程度制御できれば何も問題はないのだ。
祟り神にはその制御する力がはたらいていない。目覚めたばかりで、制御する力もなまっているのだ。
くわえて宿主のマガツキは生まれたての神だ。悪い要素が重なり合って、悪い方向へとことが進んでいる。
止めなければ。でもどうやって。
本能が働いただけだった。その後どうなるかなんて、何も考えていなかった。
「待て……!」
祟り神の華奢な肩を掴んだだけだった。
「うん?」
祟り神はただ振り向いただけだ。
それだけでミカフツを吹っ飛ばすには足りた。
札がべたべた張られた最奥の祠に背中を叩きつけられ、喉から何かがせり上がって来る。
小さな子供が、図体のでかいミカフツをたった一つの動作で振り払えるのだ。
「……っが」
「おっとっと、すまんね。調子が戻ったら持ち場にお戻りよ」
祟り神はそう言って、最奥の祠を後にする。
祟り神の歩く跡には、何も残らない。




