十一:前準備
沈んだ面もちで、ミカフツはそれを見下ろしていた。
ライとアマネが拾い上げたそれはもはや生きてはいない。
胴と手足、頭と分断されたその塊は黒ずみ、わずかに腐臭をまきちらす。
よろしくないものがきたと察知したアマネが先回りし、ガトーとミカフツに頼んでシロを別邸に避難させることにした。
そのため、ガトーとシロはこの場ーーミカフツの屋敷にいない。
肉塊の素性を特定するために、情報集めの得意な苔男が引っ張り出された。
「うわ、ひでえ……」
苔男は顔をしかめる。
「なんだってこんなもんが……」
「それはアタシにもわからないよ。きついとは思うけど、こいつの身元を調べて欲しいのさ」
「別にかまやしませんけど、何で死体が祠に? シロちゃんだけじゃ飽きたらず、また供物ですかねえ?」
「かもしれないねえ。でも、もしかしたら件の大嵐にも関わっている可能性もある」
「それにさぁ、またこんな死体を次々供物にされるかもしんねーよ? オレはやだね、そんなの」
「それはガトーも俺も同じだ。
何よりシロの気が休まらん。せっかくこのお山にも慣れてきたんだ。こんな刺激物が出たらたまったもんじゃない」
「ひひっ、いっちょまえにシロの心配か。主人としていたについてきたってヤツ?」
「うるせーぞライ」
「おや、いい傾向だね。アタシも少し安心してきたとこだ」
「アマネ、いくらおまえでもからかいが過ぎると怒るぞ」
「わあこわい」
ぜんぜん怖がってねえ、とミカフツはため息をついた。
「おい苔野郎。こいつの身元われるか?」
「ええ、一日ありゃ」
「頼むわ。死体は俺の地下に保管しとく」
「身元が判明したらいかように?」
「どうせ祠に捨てられたんだ。お山で見晴らしいい場所でも探して埋める」
「了解っす」
そういうと苔男はミカフツの屋敷からふっと消えた。




