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Mission.6「予告状 隠された真実を追って」

夜の港は、音を失っていた。


波が岸壁を叩く音だけが、規則正しく響いている。


灯りはまばらで、倉庫群は影の塊のように沈んでいた。


その光景を、高みから見下ろす者がいる。


港近くの高層ビルの屋上で、風が強く吹き抜ける中、ひとりの男が立っていた。


狐のマスカレード仮面が、夜に溶ける黒い装いで、その奥の瞳は、鋭く細められている。


普段の男の名前は、アリスト――今は怪盗“ルナール”。


その視線の先には、古びた倉庫が並んでいた。


一見、どれも同じだが、その中のひとつだけ、微かに空気が違う。


「……隠れたって無駄。俺は嗅覚がいいんでね」


ルナールはくすり、と笑うが、その目は笑っていない。


あの夜、屋敷から消えた“商品”。


それを盗んだ怪盗エスポワール。


「まさか、こんな近くに潜んでるとはな」


ポケットから取り出したのは、黒い蝶の描かれた紙片。


指先でひらりと弄びながら、目を細める。


「大胆というか……無謀というか」


風が、強く吹き抜ける。


「……嫌いじゃないけど」


ふと、視線を遠くへ向けると、街の中心に夜空に浮かぶ、大きな時計塔が建っていた。


「今夜はそっちが本命か」


唇の端が、わずかに上がる。


「警察と怪盗の密会……ね」


軽く首を傾ける。


「どっちに転ぼうかな」


敵か、味方か。


それとも――


「……両方、ってのもアリか」


風だけが、その場に残り、ルナールの姿は、すでに消えている。


夜は、まだ終わらない。











今夜は、月が欠けていた。


満ちてはいないが、確かにそこにある。


時計塔の広場は、昼間の賑わいが嘘のように、人影はない。


そんな高い塔の上から、影がひとつ落ちる。


音もなく着地したその男は、静かに歩き出した。


エスポワールの黒いマントが、夜風に揺れる。


やがて時計塔の壁に背を預けた。


冷たい石の感触が、じんわりと伝わる。


「……こんばんは。正義のヒーローさん」


背中越しに、言葉を投げる。


「……なんの用だ」


低い声が返り、煙がゆっくりと夜に溶けていく。


ミルフィは振り向かない。


煙草をふかしながら、そこに立っていた。


「俺はお前と違って忙しいんだ」


エスポワールは、ふっと笑う。


「つれないな」


軽く言って、空を見上げる。


「ヒーローさんは、ノアっていう男を怪しんでいるんだろう?」


「……どこまで知ってる」


「だって、“何も盗まれてない”とでも言ったんだろうね」


ミルフィの手が止まり、灰が静かに落ちる。


「何を知っているんだ?」


エスポワールは、わずかに目を細める。


「私が盗んだのは、ある“商品”と呼ばれたお宝さ」


風が、強く吹いた。


「……商品、だと」


「でも何でノアは、それを隠したと思う?」


やがて、ミルフィが口を開く。


「バレてはいけない事を、コソコソやってるわけか」


「そう。警察には言えない、闇の取引が行われていた。でも、ここからはヒーローさん達の仕事。実は私も、あの男を追っていてね。……街の端にある児童養護施設を知ってる?」


「あぁ……あそこの施設長が管理している児童養護施設が、次々と取り壊されて」


煙を吐き出す。


「子供達は、散らばった」


エスポワールは、静かに言った。


「怪しいと思わないかい?……土地開発が進められて、その責任者はノアだ」


ミルフィの指先が、わずかに動き、やがて煙草の火を消した。


「……施設があると都合が悪い、と」


低く、吐き出す。


「そういうことだろうね」


そしてエスポワールは、静かに続けた。


「そう。正確に言えば――“子供達は散らばっていない”」


「……何?」


ミルフィの声が、わずかに沈む。


「調べれば分かるさ」


エスポワールは振り返らない。


「子供達が施設を出てから、どうなったか」


風だけが、二人の間を抜ける。


「……今日は冷える」


ぽつりと、エスポワールが呟く。


「話は終わりにしよう」


そう言って、そっと手を差し出した。


そこには、煙草の箱が。


「……は?」


ミルフィが思わず声を漏らすが、無意識に受け取っていた。


エスポワールは、わずかに笑い、


「今日のお礼さ。また会おうね、ヒーローさん」


そのまま夜に溶けるように、姿を消した。


ミルフィだけが、そこに残り、手の中の煙草の箱を見つめる。


「……銘柄、間違ってんじゃねえか」


ふっと、笑った。


頭の中に残る言葉。


“子供達は散らばっていない”


「……クソが」


空を見上げると、欠けた月が静かに浮かんでいた。


止まっていたはずの時間は、もう戻らない。


すべてが、動き出した。


隠された真実を暴くために。


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