072、そこにいる意味
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荒野は静かだった。
風が砂を流す音だけが、世界がまだ動いている証のように続いている。
ヘルガイト、ラジリー、ピーゼン、トスク。
四つの存在が並んで歩く姿は、もうこの荒野では異質でも異物でもなかった。
「……止まれ」
ヘルガイトが足を止める。
ラジリーが首を傾げた。
「どしたの?」
彼の視線の先。
岩陰に、乾ききった小さな影があった。
それは――
半ば砂に埋もれた、小さな蟹の亡骸。
殻は白く乾き、脚は折れ、
ここが水辺だったことなど忘れられた土地に、取り残された命の終わり。
ピーゼンが静かに言う。
「……これは、“終わった”ですね」
トスクは目を伏せる。
「風に削られて、形もいずれ消えるでしょう」
ラジリーはしゃがみ込む。
「ちっちゃ……」
ヘルガイトは、しばらく何も言わなかった。
ただ、その骸を見ていた。
終わり。
完全な停止。
もうどこにも繋がっていない存在。
だが彼の内で、闇がわずかに揺れる。
「……取り残されすぎだ」
低く、呟く。
ラジリーが顔を上げた。
「へ?」
ヘルガイトは膝をつき、そっと手を差し出す。
その手から、黒い霧が零れた。
荒々しい力ではない。
包むような、深い夜の色。
「お前はもう終わっている。だが」
闇が、蟹の骸を包む。
砂が舞い上がる。
風が一瞬だけ止まる。
「終わったことが、存在しなかった理由にはならん」
ピーゼンが息をのむ。
トスクの指先が震える。
闇の中で、何かが“繋がる”。
命ではない。
鼓動でもない。
だが、
“ここに居ていい”という許可 が、与えられる。
ヘルガイトは静かに告げた。
「名をやろう」
闇が形を持つ。
小さな輪郭が浮かぶ。
砂の上に、少女の姿が膝を抱えて現れる。
細い肩。
淡い髪。
そして、少しだけ覗く――小さな八重歯。
「サキだ」
その瞬間。
少女の胸が、かすかに上下した。
瞼が震え、ゆっくり開く。
透き通った瞳が、まず見たのは空だった。
雲ひとつない、乾いた青。
彼女は小さく、息を吸う。
「……あれ……」
声はかすれているのに、柔らかい。
「ここ……波の音が、しない……」
ラジリーが目を丸くする。
ピーゼンは口元に手を当てる。
トスクは静かに微笑んだ。
少女は周囲を見回し、最後にヘルガイトを見る。
不安と、戸惑いと、消えかけの記憶。
「わたし……」
言葉が途切れる。
ヘルガイトはただ答える。
「お前はサキだ。ここに居る者だ」
長い沈黙。
そして彼女は、ぎこちなく、でも確かに笑った。
小さな八重歯がのぞく。
「……はい」
その返事は、まるで
“もう一度、生きることを選んだ音”
だった。
サキは立ち上がろうとして、少しふらつく。
ラジリーが慌てて支える。
「あ、だ、大丈夫!?」
サキは小さく首を振る。
「すみません……あの、皆さん……お怪我、ありませんか?」
全員が一瞬止まる。
ピーゼンが目を瞬く。
トスクが優しく目を細める。
ヘルガイトは、ほんのわずか口元を上げた。
――この子は。
“存在理由”を、もう探し始めている。
荒野の風がまた吹く。
波の音のしない世界で。
一度終わった命が、
そっと、誰かの隣に立った。
なんと、ついに死骸から完全ではないにせよ生命が生まれました! 名は「サキ」。
彼女は一度終わりを迎えており、終わりへの不安や恐怖を誰よりも持っている子です。




