070、ガスが人の形になりて
AI作成
荒野は今日も静かだった。
照りつける太陽。乾いた南風。砂と、まばらな草。
だが、その一角だけ空気が淀んでいた。
地面の亀裂から、ゆらりと黒いガスが立ち上っている。
煙のようで、霧のようで、だがどちらとも違う。重く、粘るような黒。
周囲の草は枯れ、砂は黒ずみ、生き物の気配が途絶えている。
「……これ、よくないやつね」
ラジリーは少女の姿のまま、少し距離を取る。
本能が告げていた。あれは“触れてはいけない側”。
「地下のガス溜まりかしら。固めた砂で塞げば止まると思うけど」
実用的な判断だった。危険は処理する。それが自然だ。
だが、ヘルガイトは動かなかった。
黒いガスを見つめたまま、わずかに首を傾ける。
「……違うな」
「え?」
「これは、ただの毒ではない」
南風が吹き、ガスがゆらめく。
その揺らぎの中に、彼は“ノイズ”を感じ取っていた。
言葉ではない。感情ですらない。
だが確かにそこにある、“形になれない何か”。
散らばっている。
定まっていない。
不安定なまま、ここに滞留している。
ヘルガイトは一歩前に出た。
「おい」
ラジリーが止める間もなかった。
黒い霧が彼の足元から広がる。
闇が、ガスに触れた。
ぶつかるのではない。包み込むように。
黒いガスが揺れる。逃げない。
むしろ引き寄せられるように、ヘルガイトの闇へ混ざっていく。
空気が重くなる。
風が止む。
ガスは渦を巻き、収束し始めた。
ラジリーは目を見開く。
「……まとめてる?」
散らばった現象が、中心を得ていく。
霧が密度を持ち、輪郭が生まれ、形が定まる。
黒い煙の中から、細い腕が伸びた。
続いて肩、首、顔。
髪は霧のように揺れ、瞳は淡い灰色。
透明感のある少女の輪郭が、そこに立っていた。
足元はまだ霧のまま、かすかに地面に触れている。
少女はゆっくりと目を瞬いた。
「……ここ……」
声は小さい。空気が擦れるような音。
彼女は自分の手を見る。
指を閉じる。開く。
「……散らばって……ない」
初めて“形”を認識した声だった。
ヘルガイトはその姿を見下ろす。
「そうだ。お前はもう、ただの流れではない」
少女は顔を上げる。
その視線はまっすぐで、曇りがない。
「あなた……暗い」
「闇だからな」
「でも……こわくない」
ラジリーが小さく息を呑む。
敵意がない。害意もない。ただ、存在しているだけ。
だが不安定さはまだ残っていた。
少女の輪郭が時折揺れ、足元の霧がほどけかける。
ヘルガイトは手を差し出した。
「名を持て」
少女は首を傾げる。
「な……まえ?」
「存在の形だ。世界が、お前を認識するための枠だ」
彼の声は低く、だが穏やかだった。
「お前は――ピーゼンだ」
その瞬間、空気が変わった。
少女の体が一度霧に崩れ、次の瞬間、再び安定した形で現れる。
今度は輪郭が揺れない。
ピーゼンは自分の胸に手を当てる。
「……ピー……ゼン」
言葉をなぞるように、ゆっくりと。
「わたし……ピーゼン」
南風が戻る。
だが黒いガスはもう荒れ狂わない。
ピーゼンの足元で、霧が静かに揺れているだけだった。
ラジリーがそっと近づく。
「……あなた、さっきのガス?」
ピーゼンは頷く。
「ひろがってた。ばらばらだった。
でも今は……ここ」
小さな手で自分の輪郭をなぞる。
ヘルガイトは背を向ける。
「行くぞ」
ラジリーが笑う。
「また仲間増やしてるし」
ピーゼンは少し遅れて、ふわりと浮くように二人の後を追った。
彼女の足元に残った黒霧が、ゆっくりと地面へ染み込み、荒野の空気は少しだけ穏やかになっていた。
荒野に、新しい“個”が生まれた。
毒ガスの擬人化少女、ピーゼンの誕生です。この子をずっと描きたかった。
この子、生まれたてながらその特性上かなり強いキャラです。
核を掴める人じゃないと基本勝てません。




