本質
いわゆる ∥冬クール∥ ドラマ。
年明け 一月〈January〉より、
プライムタイム枠で放送される特撮番組
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』は、
ON TV!まで一ヶ月を切り、秒読み段階を迎えていた。
制作上の都合により、
|一話完結ストーリー|から
|連続もの|へと
大きく舵を切った成果は、
いまのところ、まだ出ていない。
セリフを一言も発しないナチュラル女優・笹森と、
様式美の鬼・南禅寺マロ監督では反りの合うはずもなく、
水面下では無言の闘争を繰り広げており、
撮影現場は、
強い磁力を持つ二人のせいで、心持ち、歪みが生じていた。
・・装いは互いに異りながらも、
両内磁極の
間接的な激突が引き起こす
反発ケミカルは劇薬指定。
TV局の P はお手上げ状態だった。
局Pは一計を案じ、
╏パブリシティーに協力することは
笹森の契約条項に盛り込まれていたので╏
女優と監督二人きりで、
TVインタビューに応じる場を強行セッティングした。
・・ある意味ショック療法だ。
━〇━
「お二方、本番いきまーす!」
撮影隊のリーダー〈仕切り役〉から合図がかかった。
親密さを画にする意図を持つ、
弧を描くよう配置された、肘掛け椅子二脚。
その両隣に腰掛け、
心持ち向き合う形でTVカメラを前にした監督と女優は、
穏やかな表情に笑みを浮かべ、
まるで十年の知己のような雰囲気を醸し出し、
(建前 全開で)インタビュー応じた。
━ 曰く~ 撮影は順調です(汐)
━ 曰く~ レンジャー’Sのアンサンブルは非常に素晴らしい(マロ)
━ 曰く~ 監督・脚本・共演者すべてが最高です(汐)
━ 曰く~ 笹森汐こそ、ヘレンケラー役にふさわしい女優である(マロ)
━ 曰く~ 南禅寺さんは役者の意見を取り入れてくれる、
とてもフレキシブルな監督です(汐)
内情を知らない第三者が収録画面(だけ)を見たら、
撮影現場は、すこぶる順調と映ったに相違ない。
ただし、
SNS界隈においては、
マロの「ヘレンケラー発言」を巡り、憶測かまびすしく、
<監督からの止むに止まれぬ内部告発に違いない>
<監督発言の際、女優の表情が一瞬・・強張った>
<汐坊 がセリフを言わない噂はコレで裏取りできた>
さらに(女優・監督)二人の顔つきや発言を顕微鏡的に分析して、
<いかにもな汐坊の表情は演技だと推測される。
普段に比べ、虹彩の加減が微妙に不自然>
<アイコンタクトを巧妙に避けている二人>
<監督の目には嗜虐性が宿っていた>
<南禅寺は悪党だと思う(知らんけど)>
ネット上では ━ 不仲証明&レスバトルが飛び交っていた。
スレやハッシュタグ名は ━ 『逆・相思相愛』。
「終了、お疲れ様です!」
カメラ・ストップした途端、両者は瞬速でそっぽを向いた。
汐は、早足一直線・・
ドアに向かい〈バタン!開閉して〉消え去り。
うで組みしたマロは・・
しばし時間調整したのち、
組んだ腕をほどいて立ち上がり、無言で退室していった。
━ インタビュアーの女性はフリーズし、撮影隊はザワついた。
むろん、局Pから、
緘口令が出されたことは言うまでもない。
・・ 逆療法は失敗に終わった
(不仕合わせナムナム)。
━〇━
║視点を移動して║
凸レンジャーを撮影しているスタジオに目を向ければ、
サブ監督の猪熊が中和剤となり、
現場は、かろうじてバランスを保っていた。
マロ監督にとっては腹立たしいことに、
凸イエローにエンジンがかかると、
他の3レンジャー’Sも生き生きしてくる事実。
やはり、キャストの推進力は・・汐なのである。
18歳は・・
マロ組の時には地蔵女優に徹し、
猪熊組のときは
演技指導まで買って出る張り切りようであった。
汐の演じた通りに、
凸(レッド・ブルー・ピンク)が準りアクトすると、
まるで誂えたように画面にピタッと嵌り、映えるのだ!
妥協を殆ど知らぬ先輩監督のおかげで
遅れているスケジュールを、
サクサク進行できるのは、たいへん有難かった。
一方で、
映像表現〈様式美〉よりも、
演技そのものに重きを置く
クマ監督にとっては痛し痒し。
まだ基礎の固まっていない新人たちの、
成長機会を奪う危惧は拭えなかった。
╂ これでは 笹森 汐 の操り人形ではないか? ╂
たとえ・・
3レンジャー’Sが俳優志望でないとしても、
演技する(生みの)喜怒哀楽を、
そして熱を、
そのあとに残るなにかを知ってもらいたかった。
━ 今後の人生に、幾許かではあるが、役立つはずである。
しかるに・・心配は杞憂に終わった。
二十代の若き生命力は、
それぞれに発育を始め、
物まね演技に、
セルフアレンジを加えるようになっていったのである。
┃アドバイザー汐は そのことに驚き・・
(3レンジャー’Sより年下なのにも関わらず)
・・姉喜びした┃
アレンジされた主観演技は、
(概ね誤ることのない直感を持つ?誰かさんと違い)
いささか怪しげなところも少なくなく、
当該箇所を自覚させるため、
猪熊は魂の籠ったディスカッションを行い、
¦気付き¦を促し、
軌道修正をほどこしていった。
ときおり監督VS新人三人(全員大学生)との間で
交わされる演技論は、
白熱を帯び、
身振り手振りは、
激しさを 増し増し していく。
「スタニスラフスキー・システムのメソッド演技がー」
とか
「アドラー手法がー」
とか
「マイズナーの本能アプローチこそがー」などと、
口角泡を飛ばし、
自己の 青い主張 こそが正義であるとばかり
若者三名は、
人間力芝居を「根本/MUST」理念に据えるクマ監督と、
舌戦を繰り広げた。
/あるとき/
レンジャー’Sは、
対監督との議論を、
ニコニコしながら遠目に眺めているプロ女優に、
彼女自身の「演技論」開陳を求めたことがある。
・・しばし考えこむ汐。
果たして、
売れっ子女優から、
いかなる┃芝居への独自アプローチ┃が聴けるのか?
3レンジャー’Sに加え、
猪熊監督までもが、
興味津々の体で、
笹森ランゲージを待っていた。




