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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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収穫 


里見所長とサユリ助手は、

名古屋までの往路おうろは~のぞみ号自由席。

収穫 WINした復路ふくろは、

依頼主のはからいでグリーン車におさまっていた。

\快適・ゴージャス・気分良し/

画竜がりょう点睛てんせいを欠かない三拍子凱旋がいせんである。


=͟͟͞͞ 最速新幹線発進 =͟͟͞͞ =

と同時に、買い求めたばかりの

プレミアムモルツ缶を合わせる二人。

「カンパイ!」

車窓は素晴らしい勢いで流れてゆく。

冷えた飲料も両名のノドごしを快通していった。


里見から鼻歌がれる♪

依頼主にツインズ♂二匹を生体せいたいで引き渡した場合、

成果報酬=ボーナスは、

カー〈車〉ローンを

一括いっかつ返済するくらい雑作ぞうさもないほど

破格はかくの額だったからだ。

(かりに亡骸なきがらであっても

 対価比20%は約束されていた)

事態は痛いほど絶望的な状況だったのである。

依頼主の老未亡人は、

「某国の工作員に拉致らちされたのでは⁉」

などのとんちんかんを言い出す始末。

いわゆるペット版/コールドケースだった。


スマホ集中を解き、顔を上げた助手は、

「里見さん、

聖林ひいらぎプロの株価ですけど、

笹森ささもり しおりのラジオデビュー三か月後位を境に、上伸じょうしんを開始。

映画『小さな太陽』の大ヒットをきっかけにCM出演数も伸ばし、

収益を元にした、

不動産やベンチャー企業へのインベストメントもえ、

株価は飛躍ひやくげました。

短期間下落げらくしたものの、再び値を戻し、

現在は安定価格で推移を続けています。

 新番組<スーパー戦団>の成果次第では、

 さらなる上乗せも現実射程(しゃてい)内。

 いわんや、映画が大ヒットなんかしたら、もう・・

松岡師の投資額は不明デス、

四年前の株価と比較すれば、

相当な蓄財ちくざいを果たしたのは自明じめいかと。

あーあ、私にも霊感があったらなァ・・」


「ふむ、

(けん)あらたかなりか。

あの占いなら説得力()り。ただし条件付きで。

(カン)なるものを ━

洞察どうさつ力を含む、投資(がん)博才ばくさいと置きえての話だ」


里見の圧迫視線をそれとなく かわしたサユリは、

足元に置かれた、

ペット用キャリーにかぶせた布をやさしくめくり上げる。

三毛幼猫(ようびょう)ツインズ♂は、

すみっこにフォーメーション(位置取り)して、

息をひそめるよう、寄り添い団子だんごしていた。


丁寧ていねいぬのを下ろし、

里見に再び視線を向けた彼女は、

瞳をウルませ、

「松岡師とネコちゃんたちとの別れはツラかったですね。

ツインズは彼女の胸に顔をうずめ、

人間の幼子おさなごみたいに激しくないて(CRY)離れようとしない!

ネコがあんな声を出すなんて驚きでした。

ひしと抱きしめた占いの顔も ぐしゃぐしゃで・・

思わず、もらいなみだしちゃいましたよ。

『砂の器(’74)』の (いち)場面とシンクロしました」


里見もしんみり口調で、

「感情の問題はね・・

<10÷3式>

・・理屈では割り切れない」


終点 ━ 東京駅着。

冷凍ミカン(最後の一房ひとふさ)を食べ終えた里見は、

()けしたペット用キャリーケースを慎重に持ち上げ、

アプリで呼んだタクシーへサユリと共に乗りこんだ。


出張で東京支社を訪れた

くすのき 南平なんぺいは、

社用を終えたのち、なつかしさうれしさ半々で、

せまりくる秋へ、夏の最後の抵抗を肌感し、探偵事務所へ向かっていた。

 里見とサユリが帰京ききょうするであろう

 時刻を見計みはからい、

 地元ではあまり見かけないマーメイドカフェに寄り、

 ノッポサイズのブレンドを味わい☕

 上野の森や不忍池しのばずのいけまわりを散策、

 群生ぐんせいするハスの葉生命力をしこたま吸い込み、

 時間調整したのちのことだった。

二人は一体、どんな用件で名古屋まで出張でばったのか?

fromサユリLineでは一言も触れられていなかった。


里見探偵事務所に到着。

おや!?

┃Entry/Exit┃

出入り口の鉄扉てっぴ前を・・

かわグツの音をコツコツと響かせ、

左足を引きずり気味に、行ったり来たりしている、

(かわ)製のショルダーバッグを肩掛けした、シニア男性が視界に入った。

すきの無いスーツ姿、60代前半?とおぼしき小柄な老紳士は、

ささくれち、イライラ波をき散らしていた。


南平の顔を見るなり、

事務所関係者と思い込み、口角こうかく泡を飛ばし始めた。

しからんじゃないか、きみ!

依頼主への対応がられておらんぞ。

電話連絡はつかんし、転送対応もなし。

<里見というのはできる男だ>

という本部長の話を信じて、

やって来たのに、なんというザマだ!

さきの先の先まで考えて行動できないヤツに成功は見込めない。

こやつは本当に名刑事だったのか?うん?」

事務所の表札を指さし、える客人シニア。

やがて、

深刻な表情に沈み・・付言ふげんした。

「ワシは命の危機にさらされておるのだ。

緊急事態だからこそ 約束時間を前(だお)しして やって来た。

病院だって救急対応しておるぞ。

直近〈いまにも〉奇妙な何か(・・)が、

せまりくるのを明確に感じる。

しかも複数だ・・それらは危険信号を発しておる!

断じて虚言きょげんなんかではない。

ワシは不可思議な能力の持主なのだ」

心痛〈NRS10(最大)レベル〉を呻吟しんぎんに転化させた。

ゾッとするほどしんに迫っているので、

シニア氏の滞留圏たいりゅうけんに引き込まれそうになる南平。

どことなく|故・弓削ゆげさん|を想起させるも、

天秤てんびんけすれば、リアリティーが段違いであった。

故人女性は境界線上の存在。シニア氏は現実そのもの。


探偵と助手は、事務所へ通じるT字路で、タクシーを降りた。

そそくさと道端みちばたに移動する二人。

サユリは、

里見がつかんでいるペットキャリーの正面にしゃがみ込んで、

ぬのめくり上げ、内覧ないらん開始。

・・貴重種二体のバイタル確認(チェック)である。

次の瞬間、

助手は奇怪きっかいな声を上げ、尻もちをついた。

「あれま、里見さん。

 ツインズくんの様子が、変!」

すみやかに、

探偵はケースを地面に置き、

バッとぬのを払い、

かがみ姿勢を取り、キャリー内をのぞき込んだ。

二匹の三毛みけ♂はあお向けになり、

相似そうじ形で、

前脚・後脚の計四本を天井てんじょうへ伸ばし、

(きざ)みに振顫しんせんさせていた。

━ 殺虫剤を直撃ちょくげき噴射ふんしゃされたゴキブリみたいに。


「こいつはイカン!

 乗り物酔いかもしれんぞ。

 生体取引がおじゃん(・・・・)になる」

ペット用キャリーの入り口を全開させ、

二匹の小さな身体へ(検温のため)手を伸ばしていく。

入口が開いた瞬間、

幼猫ようびょうツインズは見事な呼吸で動作を一致させ、

クルっと起き上がり、

ヒュン速!で娑婆しゃばへ脱出。

あっという間に、T字路奥へ、駆けていった。

「ギャーっ!」

ガラスをあらケズるようなサユリの悲鳴。


彼女の声を中近距離に聞きつけた南平は、

脱兎だっとのごとく階段を降り、ビルの外へ出た。

グングン駆けてくる脱猫だつびょう二匹が

どーゆーわけか?南平の胸へジャンプしてきた。

ナイスキャッチ!

・・もつか

鬼の形相ぎょうそうで声を張り上げ、

T字路入口から駆けてくる助手と探偵に気を取られた刹那せつな

|両腕の力がユルまり|

ツインズはヒュン逃げ!してしまう。


興奮したサユリの伝達(ごえ)は高音∞過ぎて、

南平には意味をみ取れなかった。

なぜ白昼堂々、

仔猫こねこを追いかけているのかサッパリわからん。


叫声きょうせいオクターブを上げ、

疾走しっそう近接してくるサユリ嬢。並走へいそうする探偵。

二人はゼーゼー息を切らせて、南平の前で立ち止まった、

・・失望をぬぐえない表情の付録フロク付きで。

「あと一歩だったのにィ。

せっかくの努力も水のあわじゃん」

彼氏を軽く非難ひなんするようになげくサユリ。


理由を聞くまで・・

里見がペット探しにまであきないを広げているなんて、

南平は知るよしもなかった。

 鈴木サユリという個性は・・

 たとえ気を許した相手であっても

 洗いざらい打ち明けるタイプではないのをさとった彼氏カレシは、

 少々複雑な感情をいだき、

 センシティブな葛藤かっとう余儀よぎなくされた。

━ さざ波は瞬時に起こり、おりのように沈んでいった。


南平の意識はスイと現実に戻った。

目の前には、

両ひざに手を突き荒呼吸を整えている探偵と助手の姿。


「?!」

なにやら・・後方に気配を感じる。

サッときびすを返す南平。

背後から、

依頼に訪れた老紳士が近づいてきた。

せんだってのイラつきは消失している。


南平の視線をとらえ、

「〈直近せまりくる奇妙な何か〉の正体が判明したよ。

先ほどの、恥ずかしい言動を、お許しくだされ」

小柄こがらな老人は少々照れくさそうな表情で言った。


依頼人は、三毛みけツインズ♂を、つつきしており、

好々爺(こうこうや)のような、とても温かいまなしで、

チビねこ二匹をらしていた。

ツインズも安心して身をゆだねているよう、南平の目には映った。







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