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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
72/90

緞帳下りる

するすると上昇していく深紅しんく緞帳どんちょう


現出げんしゅつしたのは 漆黒しっこくの舞台。


発作ほっさ的に、

まばゆいスポット照明が、

バツン!バツン!

右へ 左へ

二本にほん同時にし込まれた。


舞台に、

敷居しきいはなく、

センターから½ずつ、

空間分割ぶんかつ処理されていた。


下手しもてには※・・

プール水面に浮き上がっている若い男性の死体。


上手かみてには・・

高所に設置されている、

遠近をデフォルメした

ゴシック風尖塔せんとうアーチ窓越しから、

(黒味の濃い)サングラスをかけた、

無声映画(サイレント)期の大女優<ローナ・D>が、

こちら|客席|をジッとろしている、

なんとも不気味な


観客の好奇心をトラップした幕明けから、

ローナ・Dのボイスオーバー(回想独白)に接続された。


┃主演女優の蓬莱ほうらいゆず┃は、

カムバックを狙う無声期の大スターを、

台詞セリフに頼れない当時の表現様式(パフォーマンス)を採用)

優雅かつおおきな所作しょさで誇張再現してみせた。

声優兼N(ナレーター)ならではの明瞭な発声にしゃがれをブレンドさせ、

ff()/pp()自在な伸縮アクトをあやつり、

持ち前の<強さ>をグイグイ押し出し、

いを断固拒絶する激情げきじょうへと連絡させていった。

シバリングという薄気味悪い動作を隠し味に取り入れ、

過去の栄光にとらわれた老嬢の、酸鼻さんびを突くさまを造形した。 

 

女優が発する電気は、

またたに、

観客の心身を金縛かなしばりにした。

キャパ500というのは、

ゆずのワンダーが隅々(すみずみ)まで届く

理想的な箱だった。

優れた音響設備も絶大な効果を生んだ。


二時間半あまりをノンストップ ━

 若いツバメ(愛人)を殺害する

 クライマックスへ なだれ込んでいき

━ 発狂にいたるラストまで、

|長所(ぜん)()し|

如何いかんなく実力をたたきつけ、

るぎないアクトでもって、

元大スター ローナ・D を奈落ならく堕天だてんさせ、

『ハリウッド大通り』は閉幕した。


カルト人気を博していた

蓬莱ほうらいゆずがついにヴェールを脱いだのである。

19歳になって三日目のことだった。



気が付けば・・

親方は・・

ふくらんだリュックを足もとに置き、

かくちの、質素なカウンター前に陣取じんどって居た。

七尾ななおマネと別れ、

スカイ劇場から戻って来たプロセスは、

記憶から ふっつり消し飛んでしまっている。

ふだんは、

規則正しいしのぎ(・・・)を続けるため

自重じちょうしている

大好きな日本酒のコップ杯を重ねていた。

あまじょっぱいツナピコをさかなに、

あおえのトロっとした旨味うまみを味わっていると、

ふわっと酔いに包まれ、日頃のストレスから解放される。

身をゆだねるに、これ以上の快楽があろうか?

不規則周期でやってくる、

人生のエアポケットたる日常の苦痛を、

軽減けいげんさせてくれる妙薬みょうやくだ。

とはいえ・・

今夕こんせきいわい酒である。

還暦かんれき過ぎの老骨をあざやかにブッ飛ばしてくれた、

ゆず季嬢の演技にカンパイだ!

ケタはずれのエネルギーと表現力に圧倒され、

(異様な衝動の突き上げをらい)

あやうく客席から大声を上げそうになった。

隣席のマネージャーは、

豊かな身体をガクンガクン震わせていたな。

実演(ライブ)の凄さを改めて思い知らされた、

生身なまみから打ち込まれてくるパワーたるや、映像とはダン違い。

┃というより、お嬢の好敵手が凄すぎた┃

くらべてはイカンけど、

どーしても比較してみたくなるのが人情。

しおりお嬢の芝居は達者きわまりない

とても鮮やかで、ときに無限領域へ突き抜ける。

それをまえて・・冷静に、ひいき目なしに、

見積みつもるならば・・中量級演技者であろう。

背格好は同じぐらいだが・・好敵手のほうまごうことなきヘビー級。

現時点で/実現はありえないが\共演してはいかんヤツだ。

バッサリ切られてしまいそう!

そんな危惧きぐいだかせる。

さわらぬなんとか(・・・・)たたりなし。



たましいを抜かれたような表情の親方を、

「私も、まったく同じ、心持ちです」とばかり

深い共感を持ってお見送りした七尾は、

急いでタクシーを飛ばし撮影スタジオに戻った。


タレント控室である、

キャンピングカーのドアを、

「七尾、戻りました」とノック。

ー 応答なし ー

繰り返し叩き続けると、

しおりはニャムニャム声でリターン。

これは集中していたか、午睡ごすいもどりの返答である。

ドアをオープンスライドさせた。


クッションを枕にして長椅子に寝そべっていた汐は、

Wクリップ止めの<る未解決事件>に関する詳細書類から、

磁力じりょくを切るよう目を離すと、

小さな顔に好奇心をキラめかせて。

「おかえり。

親方は楽しんでくれた模様?

ねぇ、どんな外見の人だった?」


「ええ。

とっても感銘かんめいを受けていました。

姿勢よし、スタイルよし、れてない方ですね」

スカイ劇場内にて、

汐が贈呈ぞうていした舞台見舞い花の前で撮った、

含羞がんしゅうにじむ親方の画像を、

マネージャーとタレントは、

スマホ同士でAir(エア) Drop(ドロップ)させた。

スーヴェニア(進呈品)もちゃんと渡しておきましたよ。

・・くれぐれもお嬢によろしくとのコトでした」


「それで、

 <肝心かんじんかなめ

 ゆずの初舞台は どうだった?」


「う ━ ん、ぶっちゃけ、まあまあの出来でしたネ。

しおりさんのヒラメき芝居とは異質な、

作り込んだ・・重っ苦しい感じの・・ハズまない・・

もう一回見に行けと言われても断るたぐいかな、はい。

親方さんも退屈タイクツはしなかったみたいで、

まあメデタシでしょう ハハハ」




※舞台の・・

 下手しもては、客席から向かって左側。

 上手かみては、右側でありますゾ!

※角打ちとは・・

 酒屋で購入した酒を、

 その場(店内カウンターや店先)で立ち飲みするシステム。

 古くから営業している個人経営の店に見られる、

 コンビニ前でたむろ(・・・)する感覚に、

 風情を加えた、昭和寄りの文化である。

 てっとり早く安く酔っぱらえる利点を持つ。

 

 


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