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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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意見交換

監督秘書の光速アレンジにより・・


売れっ子脚本家(ライター)氏と南禅寺なんぜんじ監督は、

酒をわすという、

古来こらいから伝わるコミュ二ケーション方法をもちい、

はらを割り、

忌憚きたんなき意見を戦わせるため、

某居酒屋の個室で(プロデューサー)などの他者をまじえず、

二人きり(サシ)で顔合わせをした。


バリアを固く張り、

儀礼ぎれい的に、渋々(しぶしぶ)と、

サイン入りの誓約せいやく書を

ライターに手渡したマロ南禅寺は、

「今後、なるべく脚本に沿った

演出をこころけるから、

変わらず協力して欲しい。

きみの力量りきりょうを私はほっしているのだ」

やや上から目線で、

年長者を〈きみ〉呼ばわりしてもどき(・・・)を入れた。


ビールで乾杯カンパイすると、

マロは身を乗り出すようにして、

「ひとつ、われわれでチカラを合わせ、

CG特撮番組と、

その映画化に革命かくめいを起こそうじゃないか。

きみも同意見だろうが、

(とつ)レンジャー/THE MOVIE』は、

オールスター(敵 味方)そろみといった、

いかにもな、

ワチャワチャした中身のうすい、

特番もどきにとすコトだけは〈絶対に〉けたいのだ。

必然ベースをき、有機的な展開に持っていきたい。

近頃とくと(・・・)痛感つうかんするのは、

CG技術の飛躍的な発展と引きえに、

ポリコレハリウッド、日本映画、諸外国の

脚本・脚色スキルは弱体じゃくたい化してしまった、

凋落ちょうらくといっても過言かごんではない。

映像派を自負じふする私が言うのも変な話だが・・

|数パーセントの例外をのぞき|

すぐれた物語(ストーリー)(=脚本ホン)なくして、

本当に優れた作品は生まれないと断言だんげんしたい。

映画とは ━

イベントの側面は否定しないが

━ 作品であるべきなのだ!」


せつごもっとも、

同じベースラインを持つライターに異論いろんはなかった。

そもそも引く手数多(あまた)の彼が、

なぜ『チャンバラ戦団/(とつ)レンジャー』に参加したのか?

もちろん高額ギャラの鼻薬はなぐすりにはあらがいがたい。

それとは別ライン、制作会議において、

《スーパー戦団モノに笹森ささもり しおりを起用する》

ユニークな企画プレゼンを聖林プロ左近係長から聴き、

コレはけてみる価値かち有りと直観ちょっかんを得た☆

ただし、

決定打となったのは、

会議のとき、参考上映された

二十分程度の小品に可能性を覚えたよし

 メイン監督に抜擢ばってきされた、

 26歳の南禅寺助麿(すけまろ)という業界無名(びと)が、

 大学時代に撮った卒業制作だった。

短編映画は・・

不条理劇の体裁ていさいを持ち、

客気きゃっき さかん、

おのれの映像をぶちま( Warm )けて( jets )やる!>

そんな意欲、生命力にあふれていた。

┃若き日のポランスキーを想起そうきさせる

 シャープな画面感覚とカッティングセンス。 

 ハッ!とさせる鏡の使い方なんかは映画小僧(こぞう)そのもの。

 S・キューブリックの初期作をまるパクリした(であろう)

 移動撮影は、本家にせまるマジックタッチ。

 シュールな展開を次々繰り出してくる手並みも素人シロウト離れしていた。

 反面・・セリフはこなれておらず、演技指導の腹筋も弱く、

 ストーリーは川の流れを形成できていない。

 意外だったのは、平凡ルックスの素人女優から、

 濡れ(・・)♡を引き出してみせた手腕・・終値おわりねは四円高┃


「悪くないぞ、

 ポテンシャルを感じる!」

 ・・けてみる気になったのだ。


ライターは、

間接的にではあるけれど、南禅寺なんぜんじと接してみた結果、

監督の現場処理能力には疑問符をけざるをえなかった。

この際だから、その点も、

アルコールの力を借り、言葉をにごさずに指摘した。

笹森ささもり しおり問題をどう解決するつもりか?

②彼女と和解できる余地よちはあるのか?

(ナレーション)や説明ゼリフを(とつ)イエロー以外の誰にになわせるのか?

伏線ふくせん部分のセリフは改変かいへんするべからずと積言。

⑤この先、山頂さんちょう目指し、現場を指揮統括とうかつしていけるのか?


南禅寺は最後の設問二つには肯定的な答えを明確に返した。

③についてはモモをきたえて代替だいたいする腹案を示し、

そのため、セリフ量を半分以下に減らしてもらいたいと願い出た。

他の問いに関しては曖昧あいまいなレトリックでケムに巻いた。


バーボンを勢いよく飲み、

グラスを置いた脚本家は、今後の対策および解決案を進言する。

「プロデューサーはすでに了承りょうしょうずみです、

なぜなら ほかに手立てだては ないから。

 現時点で撮影は第三話まで完了、

 脚本ホンは五話まで上がっている。

以降(第4話から)笹森の積極的な協力を望めない以上、

各話完結の数珠じゅずつなぎ構成は困難こんなんゆえ、

第六話から連続ドラマ形式へ リニューアル させます。

新手をったシチュエーションを週ごとに提供しなくていいぶん

情報量は削減さくげんされ、必然、説明ゼリフも縮小される。

(とつ)レン』は特待とくたいあつかいで、

予算に余裕があるとはいえ、

週ローテで印象的な敵キャラを生み出し続けるのは、

こちらとしてもホネが折れるし、

美術・造形部に加えて、

監督が直接指揮するCGチーム〈あか組〉の負担ふたんも大きい。

残り五話を連続展開させるのは、いわば、苦肉くにくの策です。

いちゲンさんをオミットしてしまう危険なけだ!

あらためて言うまでもなく・・

本来ほんらいあるべき姿は、

単発話を積み重ねていくうちに、

送り手と視聴者間で未知の⌇グルーヴ⌇うねり⌇が発生、

加速度がついてきて、

異常な熱気に押される形で連続ドラマへの移行を果たし、

ついには巨大な渦巻うずまき状へとメタモルフォーゼ、

怒涛どとうの最終回((とつ)レンの場合は映画化)を迎える形が理想だ。

例を引けば『スケバン刑事Ⅱ(’85~’86)』ですな。

 連続モノへ徐々(じょじょ)疾走しっそうしていき、

 見る者を面白さの嵐に引きずり込んで、

 (物語腹筋を一部たるませながら)

 西洋式 ヨロイ 甲冑かっちゅう姿の難敵なんてきまで投入し、

 宝探しのクライマックスへと駆け抜けていく。

連ドラの醍醐味だいごみココに有りみたいな、

とてつもない感動をTV版はもたらした」


ブランデーをグイ飲みした南禅寺は、

お代わりをオーダーした。

「言わんとする内容はよくわかる

が・・連続話に持っていくとなると、

そうとう強力 もしくは 魅力あるヴィランを必要とする、

極論きょくろんすれば〈ダースベイダー〉とか〈ジョーカー〉みたいな。

高いハードルをクリアできるのかね?」


意味(シン)表情を返したライターは、

スマホを操作して㊙画面を呼び出し提示する。

「かくかくしかじか・ホニャララ・云々(うんぬん)

以上のようなコンセプトで、

連続ドラマに相応ふさわしいステイタスをそなえた、

強敵キャラ=ヴィランを考案してみました。

オリジナリティー搭載とうさいのアッと言わせるやつをね!」

サティスファクション・フェイスで句点くてんを打つ。


ライターとっておき、

リーサルウェポン(アイディア)を聞かされた南禅寺は、

吃驚きっきょうした。

「その手があったか!?」

 声をしぼり出し、

 何度もうなずいた。

「う ━ む、

 こいつはエクセレントだ!」


マロ氏のバリアにけ目がしょうじた。

そこを狙い定め、

「監督ねぇ、

こんな機会は今後ないだろうから、

ハッキリ言わせてもらう。

()自信家である

あなたの欠落点けつらくてんはね ー

実績がないコトに起因きいんする、

自信(●●)だと思う!」

ライターのチェックメイト(王手)に、

南禅寺はげなかった。

図星ずぼしかもしれない●


うえから(口調)になるが・・

バツグンの映像感覚を持つ南禅寺さんには、

持てる剛腕を披露ひろうしつつ、

現場ノリ(・・・・)にも心(くだ)いて欲しい!

ストーリーは私が責任をもって、

融通ゆうずうの幅をきかせ)構築こうちくしてみせる。

核心かくしん事項は・・

(とつ)レンのディレクターである、あなたが、

一貫いっかんした精神を持ち、

キャスト・脚本・演出・音楽の各セクターを

ザルれさせないでまとめ上げ、

全部門の総和そうわげる事なのだ。

そうすれば、おのずと、

超えた(・・・)作品はまれ出る。

━ こいつは歴史が証明している。

左近さこんさんのコーディネートで不足のないメンツがそろった。

監督は、

めぐまれた立場を自覚して欲しいのだ。

そして、

妥協だきょうしない範囲で、エゴをおさえてのぞんで欲しい」


南禅寺は相手の直球(ストレート)をしっかりキャッチ。

二歳年長の脚本家を真っすぐ見()えると、

()世間の仮面(バリア)を捨て、

年相応の若者顔になって胸襟きょうきんを開いた。

心地よくグラスをかさね、

自身の経歴や生い立ちにいたるまで話したあと、

実は・・と切り出した。

「私自身も

<のるか、そるか> の

アイディアを持っていたのだ。

過去形なのは、笹森汐ありきの話だからさ。

その内容というのは・・」


監督発<のる、そる>アイディアに、

売れっ子ライターはバーボンを気管きかんに入れ、

ひどくせてしまった。

「ゲホ ゲホッ、

 そんなことが出来るんですか、

 いまのCG技術で?」


「いや、CGだけではムリだ。

 汐坊(しおりぼう)の持つ

 レべチな演技スキルと霊性を必要とする。

 彼女は私の顔を見るのもNGだろうから、

 机上きじょう空論くうろんでジ・エンドだな」


「もし、それ(・・)が、

 本当に実現可能なら、

 しいですなァ。

 かなりの話題になるだろうから・・」

脚本家(ライター)は、

意表を突かれた表情に、

感銘かんめい疑義ぎぎをオーバーラップさせた。













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