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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
54/74

ディレクション|全開

イエローレンジャー/笹森ささもり しおりへの、

空砲ぶっぱなしは、単なる序曲じょきょくに過ぎなかった。


◆レンジャー’Sリーダー/レッドのケース◆

悪の結社ダークマターから、

ビリー・マイヤー少年を救おうと孤軍こぐん奮闘ふんとう

しかし、判断をあやまって、

少年に大ケガをわせてしまう。

その場にうずくまり、

後悔こうかいの涙を流す場面で・・19テイク連続NGを出した。

涙を一雫ひとしずくも流すことができない(とつ)レッドの焦燥しょうそう

現場におもくるしい緊張が走る。

監督は真実の涙(・・・・)を絶対要求したため、

助監督が用意していた目薬や催涙さいるい剤の使用は、

却下(きゃっか)された。


セッティングを整え、次テイク20へ。

南禅寺は撮影スタートをかける前に、

レッドのそばへ、つかつか歩み寄り、

かがみ姿勢をとり、

耳元でこうたずねた。

「ディレクターである私を信じていますか?」


うずくまったレッドは監督の視線をとらえ、

じゅん眼差まなざしを向け、うなずいた。


「では演技の準備をしなさい。

 さあ、懊悩おうのうイメージを喚起かんきさせ、

 涙腺るいせんに意識を集中・・」

催眠さいみんモードでささやくと、

監督は抜く手も見せず、

渾身こんしんのビンタで、打ちえ、

Shoot(シュート)!」と叫び、

素早い身のこなしで、

カメラ画角からサッと離れた。


予期せぬ、

しかも強烈ビンタを(人前で)喰らったレッドは、

痛みと羞恥心しゅうちしん困惑こんわくからなる

負のエナジーを(意志と心臓力で)拡散させずに踏みとどまり、

集中方向へ強誘導、

ぶるぶる顔を震わせ、真実の涙を・・流した。


南禅寺はタブレットで撮済(さつず)み動画を確認。

「よーし、OKだ!

 レッド君よ、

 いまの涙を再現できるように訓練するコト。

 それが俳優というものです。お疲れさん」


◆新兵器開発担当/(とつ)ブルーのケース◆

ダークマターの下部組織MJ(マジェスティック) イレブンに狙われ、

衝撃波しょうげきはびせられる場面。


(ディレクターズ)・チェアに腰かけた南禅寺は、

撮影前にブルーを呼びつけた。

「私は自信過剰(かじょう)なタイプである。

しかし、

間違いを認める度量どりょうは持ち合わせているつもりだ。

ブルー役にキミをキャスティングしたのは、

どうやら失敗だったようだ。

これから撮るシーンで最終決断を下す。

違約金は支払われるから心配無用だよ」


フライ級サイズのブルー役は、

顔をこわばらせ、

冷や汗で背中に大きなシミを作り、

直立不動で聴いていた。

・・故郷の両親や妹、

・・それに学友たちに、

テレビ出演の自慢じまん話をした。

両親は喜び、

中三の妹、大学の友人からは、

ひどくうらやましがられた。

(生まれてこのかた、

 どんな喜びとも比較できないくらいの

 ハッピー気分を味わった)

 学友からは嫉妬しっとまじりに、

「チクショウ、本物の汐坊と会えるのかよ。

 うまいことやりやがって、この野郎!」


「お兄ちゃん、

 汐坊のサインもらってきてよ。

 クラスメートの分も入れて・・10枚以上ネ。

 絶対だよ!」と、色紙のたばを渡された。


「大学の新聞でお前の特集組むからさ、

 ヨロシクたのむよ」と新聞部長。


 両親は、JAの職場仲間に、

「息子がテレビに出るのを嬉しそうに吹聴ふいちょうしていた」と、

 妹からLINEで知らされた。


二度目となる記者会見のあと、

笹森汐と同じテーブルを囲み、

上気じょうきしながら食事をしたのは忘れられない。

彼女は気さくに

ツーショット画像を撮らせてくれた。

小さな顔、どんぴしゃのショート・カット、

同じ人間かと・・

目を疑うようなあふれんばかりの生気せいき

そして、思わず聞き惚れてしまう、

(物まねを含んだ)小粋こいきな座談は、

身近に接した者にしか わからないだろう。


他のレンジャー二名も、

顔見知りの間柄あいだがらではあったが、

あらためて話してみると、ナイスな男女〈赤と桃〉だった。

有名人を含む、レンジャー’Sと三か月過ごせるのは、

ラッキー以外の何物なにものでもない。

ギャラだってもらえる。

その上、映画出演まで約束されていた。

人生の特権とっけんをつかみ取った気分だった。

それが・・空中楼閣(ろうかく)と化し、

いままさに、くずれ落ちようとしている。

ここは、なんとしても、しがみつかなければならない。

物心ものごころついて以来()といっても過言ではない・・

本物の執着心(しゅうちゃくしん)き立った。


難易度なんいどの高いアクション撮影の段取り説明を受ける(とつ)ブルー。

衝撃波をまともに受け、カベに叩きつけられる場面の準備だ。

ワイヤーを仕込んだ、

(クッション付き)ハーネスを着用したブルーは、

アクション担当チーフの指示で、段取りを逐次ちくじマスターしていく。


監督の合図にしたがい、

衝撃波を受けたブルーのワイヤーを、

スタッフ数人がかり、阿吽あうんの呼吸で引っぱる。

ブルーの後方ジャンプと、

ワイヤーを引っぱるタイミングがピタリと合えば、

被写体ひしゃたいは、

糸を引くみたいにカベ(・・)衝突しょうとつし、

息をむような(映像ならではの()え)迫真性はくしんせい獲得かくとくする。

三回のリハをこなし。

いざ、本番突入。


Shoot(シュート)!」

 はらの底から声を出す南禅寺。


衝撃波を受けたブルー。


ガケっぷちモードの彼は、

死力を内燃ないねんさせ、

両脚りょうあしのバネに脳信号を爆進ばくしんさせた。

筋肉とケンを絶妙伸縮させ、

二度と出来ないような、

非の打ちどころの無い、後方こうほうジャンプを敢行かんこう

ジャストタイミングでチカラ自慢のスタッフたちが、

┃南禅寺監督の密命みつめいにしたがい┃

リハとはケタ違いのチカラをバーストさせ、

ワイヤーを引きしぼった。

予測をはるかに上回る速度で引っ張られたブルーは、

(目を白黒させ)

背中から、まともにカベに激突!

頑丈がんじょうに組まれていた壁材を破壊はかいして、

向こう側へ 突き抜けて いった。

昏倒こんとうしたブルーは、すぐさま救急搬送された。


「よっしゃ!

最高の場面を切り取った。

労災で休業補償はされるはずだ。

ブルー君には代役をあてがうとしよう。

早速、候補Aに連絡しなさい」

と監督は秘書に命じた。


ブルーは腰を亀裂きれつ骨折。

全治一か月の診断を下された。


・・ところが・・

・・なんと・・

・・翌日・・

ブルーはケガを押して、スタジオまでやって来たのだ。


南禅寺のもとへあいさつにおもむき、

「監督さん、

ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

自分は、この通り、大丈夫だいじょうぶであります」

といい、

痛みを圧殺あっさつし、バック転をして見せた。

死ぬほど痛いバック転であったが、

みじんも表情には出さなかった。


「うむ、よろしい。

ブルー君の心意気を買おうじゃないか!

代役は立てないことにする」


「ありがとうございます」

頭を角度90にして下げる。

・・とんでもない激痛が走った。


南禅寺監督の発令した、

過酷かこくなミッション(というより無茶ムチャぶり)を、

ブルーは、

予想外のガッツで乗り越えてみせた。

ドロくさい執着心により、

プロ・レベルという軌道きどうに乗ったのだ。



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