フリクション|摩擦
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』は、
細やかな神経操作を要求される、スタジオ撮影を迎えた。
レンジャー’S試練の始まりである。
VFXやCG処理を多用する作品なので、
役者は目線の配り方や、
リアクションには細心の注意を払わねばならない。
どのような形で、いかなる映像が、嵌め込まれるのか?
「コレコレこういう状況なので、
こんな演技をして欲しい」
助監督から事前に絵コンテを見せられ、
ブリーフィング〈要点説明〉を受けはすれど、
本当のところは、
完成した場面を見なければ腑に落ちてこない。
演じている俳優は・・
脚本という設計図はあるにせよ、
グリーンバックという、
殺風景な異空間で、どのように振る舞うべきか?
たよりない気分と絶えず争わなければならないのだ。
完成映像から類推して、
「そうか!
ああいうケースは、
こんな風に立ち回ればいいんだな」的 脳内データの蓄積を経て、
監督の狙うCG効果を予測しながら、
芝居をマッチングさせていく「感覚と知力の融合操作」を行う。
紆余曲折という名の、ゆるやかな漸進あるのみ。
デリケートなジョブ・トレーニングなので、
上達するには、相応の時間を要してしまう。
演者の馴れを待つしかない、我慢のしどころだ。
バーチャル・スキルをものにできるか?できないか?
その遅速差は、
俳優の持つカン ならび センス如何にかかわってくる。
(左脳=理屈から入っていくタイプは、
どうしても遅れを取ってしまう)
右脳の申し子である、
凸イエロー役 / 最年少の汐が必然、
先頭に立って他のレンジャー’Sを引っ張っていく構図となる。
凸 レッド(最年長) ━ オーソドックスなリーダータイプ。
凸 ブルーは開発担当 ━ 007のQを思わせる。
凸 紅二点の片割れ ━ ピンク はユニークな特性の持主。
赤・青・桃・黄からなるチャンバラ戦団カルテット。
ビリング・トップのイエローは置くとして・・
レンジャー’Sは、まずまずのルックス三銃士だ。
贅沢をいえば、いささか華に欠ける。
これは致しかたない、
スター性とは宝くじの一等賞みたいなもの・・
めったに当たらないのよ。
南禅寺監督の戦略により、
汐以外のレンジャー’Sは順撮りを基本方針とした。
つまりシナリオ(台本)のファーストシーンから、
シーンごと|できる限り|順番にしたがって撮影を進めていく。
新人は中抜き撮影をすると、
演技構成が ネジ飛び してしまう。
ましてや、手ごわいCG(予測)演技もあるのだ。
いきなりラストシーンからスタートさせるような、
プロ仕様は混乱をまねく。
段階を踏むに越したことはない。
幸いにして、売れっ子タレント汐は、目先の一本 全力主義。
<戦団もの>に専念するため、
ラジオやCM撮り以外に仕事を入れていない。
撮影順序を人気タレントに振り回される面倒とは、
無縁の恵まれた環境に今作はある。
予算とにらめっこ、スケジュール効率を最優先させ、
前後関係なく細切れで撮っていく映像作品において、
プロ俳優は、
流れとしての演技イメージを明確に持ち、
なおかつカメラの前で表現できなければならない。
汐にとっては朝メシ前だが、新人には相当ムズカしい。
・・順撮りは理に適っていた。
━◇━◇━
スタッフたちや七尾マネが息を殺して見守る中・・
凸イエロー/スタジオ内でのファーストカット撮影。
超常現象を解明すべく、
調査先である古屋敷へ出向いたレンジャー汐。
薄暗い部屋で静寂の中、
フェノメノンの正体を見きわめようと、
骨董椅子に腰かけた彼女が、
不穏な物音で振り返り、
異界生物モルグと遭遇する・・リアクション場面。
カメラポジションや照明も整い、
監督の専断で、リハ無し宣言!
女優の快諾も取りつけ、
本番一発撮影を突貫する。
静かに目を閉じ精神を統一していく汐。
集中力増強 ∞
スタジオ内は、
神秘の生体エナジーに浸覆されていく。
リアクション・イメージ【驚き>を招致する、汐巫女。
靄ったイメージは、
しだいに鮮明化され、
色と形と触感が加わり、
DNAを付与され、
リアルな感情 へと立体化 【受胎>した。
胎児は鼓動を刻み、
羊水にまみれ、
狭い産道をミシミシ突き進み、
体外へ放出される間際、
思念の可動堰を下ろし、強引に遮断した。
・・女優を包む空気が激しい電気を帯びていく・・
準備万端!
いつでも本番【出産>OK!
「よーい、Shoot!」
二心声を鋭く発する南禅寺監督。
可動堰をフル解除・・
会心のリアクション演技を、
凄ざまじい表現力でもって、
\汐が披露しようとした刹那\
\監督はショットガンの空砲をぶっ放した!\
難聴になりそうな、耳をつんざく衝撃音に、
汐は本当にビックリして、
演技のトランス被膜を破壊され、
感覚の粋を尽くした胎児は死産エンド。
汐の回路にバグ発生・・
制御不能となり、立ち上がって絶叫した!
「よし、カット。
最高のリアクションGOT!」
監督は満足そうな表情でショットガンを、
ディレクターズチェアへ立てかけた。
70秒程度でワレに返った汐は、
鬼の形相で猛ダッシュ!
「この、人殺し!」
監督に呪詛を浴びせ、
高級革のクツ先をありったけの力で踏みつけ、
軽蔑のツバをペッ!と吐き棄て、
激昂MAXでスタジオを後にした。
顔面蒼白となった七尾マネージャーは、
慌てふためいて、追いかけていく。
南禅寺は片足ケンケンで、
2メートル円周を無限ループしていた。
「ついに本性を現したな・・
低学歴のヤンキー娘が・・
現場の最高責任者を「人殺し!」呼ばわりしたうえ・・
おまけにツバまで吐きやがった・・
バカバカしい!
空砲で死ぬわけがあるまい・・
追い追い、大人の行儀を叩きこんでやる・・
クソ!イタリア製の靴が台なしだ・・」
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