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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
52/75

夏のスペシャルウイーク/その3

乙骨おっこつプロデュサーは、首をかしげた。

友人のために、DJ汐は、

なぜ、ああまで献身けんしん的になれるのだ?


たしかに・・

生ラジオドラマ『めんちゃも屋』をきっかけに、

(ユッP砥石(といし)研磨けんまされ)

汐坊の演技は良い意味で変化し、安定を獲得かくとくした。


それにしても・・と思わざるをえない。


人間関係の基本はギブ&テイク・・これは道理だ。

とはいえ、おのずと一線は引かれるべきで、

今晩のは、

ブッキングしたしおりのリサーチミスというよりも、ゲスト側にある。

事前に、

本番トークになんりを伝えておくのがエチケットだ。

ゲストコーナーはライブ・オンエアを建前たてまえとしている、

とはいえ・・

録音をまじえてのブレンド放送など、いかようにもアレンジはきく。


ユッPは信じられないほど力強い演技を示すのに、

素顔に返るや、

想定外の不様ぶざまをさらけだすナゾ

才能ってやつは、

人格や一般常識とはクロスしない、

脳の一部の異常発達なんだろうか?

非才なオレには、理解できんブラックBOX。

・・DJはできる限りの手を尽くした。

貸し借りなしのおあいこ(・・・・)である。

ほどよく まとめてフィニッシュさせりゃあ いいものを、

その先を求めていくのは、どういう了見なんだ?

プロファイリング(心理分析)できかねる。


才溢さいおう娘、汐は・・

時として・・

常軌じょうきいっした・・

思料しりょうと感情の φ(ファイ) 円をえがきだすのだ。


放送事故のリスクをってまで、

敢行かんこうする意義があるのか?

いささかバランスをしっしている。

スタッフ(給料生活者)たちを、

巻き込むことへの配慮はないのか?ヒョッ子め!


汐坊のやろうとしていることは、

┃過去放送を紐解ひもといても┃

┃たった一例(・・)記録されているのみ┃

是非ぜひは正直わからん。通常ならば非である。

若い才能に、ブレーキをかけるのは、

(プロデューサー)としてのモットーに反する。

DJは、功名心こうみょうしんナシの純粋シグナルでせまってきた。

こういう時の汐はハードルを越える。

(ユッPの所属事務所が弱小なのが、せめてもの救い)

けてみるしかあるまい。始末書覚悟で!


このチャレンジ・・

面白いことは滅法めっぽう面白い。

ただし、上手くいけば・・だ。

しっかし・・ヤバい薄氷橋だぜ。


乙骨Pは、

声を匍匐ほふくさせ、キュー出しGO!

同時にある操作そうさを行った。


DJは、

ミネラルウォータで口内を湿しめらせ、

のどスプレーをひときすると、

慎重しんちょうにカフを上げた。

新作舞台『ハリウッド大通り』のあらすじを紹介したあと、

ゲストへの質問を開始した。


汐「翻案ほんあんした舞台劇の見どころを

  主演女優である蓬莱ほうらいゆず季さんから

  紹介してもらいましょう」


━ ゆず季は重い口を開く、

  しかし彼女のマイクはオフ(・・)になっていた。


DJ汐は、

メモに沿って的確に、

ユッPそっくりの声とイントネーションで、

話してみせた。


━ 当の、ゆず季は目ン玉飛び出しそうな表情だ。


汐「そもそも、

  名作映画の翻案劇を上演するというのは

  誰の発想なのかしら?」


 「うちの発想なんです。

  大好きな映画で、繰り返し見ていて、

  いつかは演じてみたいと強く願っていました。

  念ずればかなう・・

  9月の上演にぎつけられた。感無量です」

  (ゆず季になりきった汐ヴォイス)


汐「私と同い年、18歳のユッPが、

  五十代の隠遁いんとんした大女優を演じるに当たって、

  どのような役作り設計をしているのかな?

  同業者として、興味津々(しんしん)なんだけど」


 「大女優を遺伝子レベルまで掘り下げ、

  趣味・嗜好しこう仕種しぐさはもとより

  サイレント時代のハリウッドの研究成果なんかも含め、

  パラレルな、あったかもしれない彼女の人生も加味かみし、

  構築こうちくしている最中さいちゅうです。

  それと医学の専門家に

  老化の仕組みを教示きょうじしてもらったりしてます。

  朝ドラで汐坊の演じた、け役は、とても参考になった。

  表情の作り方、

  特に、アラフィフの発声はさすが(・・・)の一語だったワ。

  お世辞せじぬきで」

  (メモどおり一語一句(たが)わず、

   ユッP声で答える、汐)

 

 「いただきました!

  どうもありがとう」

 (一人二役の変わり身DJ)


ここからは汐が引き取る形をよそおい、

単独トークに入った。

『ハリウッド大通り』の舞台と映画との差異さいや、

スタッフ・共演者のプロフィール、

上演劇場や問い合わせ先、

入場料などをスマートDIGして紹介した。


━ ゆず季は、目をまるくして、

  「そう、その通り」と、

  親ゆびGoo(グー)!でうなずいてくれた。


乙骨Pは身体をフルわせ、

つぶやいた・・

┃古川ロッパの再来さいらいだ!┃


《CM入り》


汐は合掌がっしょうポーズで、ゆず季にびる。

ユッPは首を左右に強く振り、

「サンキュー汐坊。

熱い友情受け止めたぜよ!

完璧なプロモートだった。

大きなりが出来たねェ」


スタッフ一同、盛大な拍手を送る。

中には 涙ぐんでいる者もいた。


ホッとした汐は、

ぐったりと椅子に寄りかかる。

いつもの軽く倍以上のエネルギーを消費した・・

カラータイマーは消滅寸前。


《CM明け》


わずかに残ったチカラふるこす。

ゲストコーナーの感想と

『ラジオドラマ/後編』の紹介トークに入るため、

カフを上げる・・けれども、

はげしく・・咳込せきこんでしまう。

あわててカフを下ろすDJ汐。

\副調整室\

 \乙骨Pよりブリッジ♪挿入指令!\

  \スイッチに手を伸ばすディレクター\

その刹那せつな

ユッPは、予備よびカフを押し上げ、

副調に向かって、とっさの合図を送った。

\ディレクターは閃光伝心をキャッチ \ 音声マイクON \


笹森 汐の仮面を装着そうちゃくしたゆず季は、

ワンダーを発動させた!

DJアイドルをした声とイントネーションで、

(表情まで近似きんじさせ)

進行台本に記されていたトークを読み上げ、

マスしゃけアドリブもまじえ、番組をつないで見せた。


対面といめんにいるしおりは、

ライバルから反射洗礼をびて、茫然ぼうぜん自失じしつ

せきなど、かなたへ消し飛んでしまった。

同時に、かつてない感情にとらわれた。

・・畏怖いふの念である。


スタジオ内外は・・

しばしのあいだ・・フリーズ状態・・



乙骨Pのサングラスは・・

  二人目の┃古川ロッパ┃出現による衝撃で、

・・ズリ落ち、床に当たって、ヒビ割れた。








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