ミゼット再発進!③「逆因果律の巻」
彼は悩んでいた。
とても悩んでいた。
ひじょうに悩んでいた。
ローマの街をとめどなく歩き、
与えられた設問を解こうと、
頭を巡らせていた。
英国の脚本家である彼は、
リライトのために、
ローマ・ロケによる、
ハリウッド映画製作中のP社に雇われていた。
〈90テイクス〉と呼ばれる監督は、
脚本に対する要求もキビしく、
それは容赦のないモノだった。
そのくせ、
無名の/ 雄鶏なんとか /とかいう
けったいな名前の主演女優には、変にやさしいのだ。
(おかしな話さ・・気があるのかもしれん?)
彼女の深い感受性から紡がれる演技力は認めよう!
気品や愛嬌にくわえ、
ペップも備えている。
スタッフには親切だし、ユーモアもある、
でも、背が高いのがねぇ・・
竹馬に乗らなけりゃキスも出来んよ!
ダメ押しすれば・・
胸のない女優はハリウッドでは、成功できない。
賭けたっていいさ!
モンローを見ればわかるだろう。
あれこそ観客を虜にするアイコンであり、
スリーサイズ<B・W・H>から、
匂い立つセックスアピールは、
世界を熱狂させ、ドルや外貨を稼ぎ出す。
M・Mに・・
同性は憧れをいだき、
男性はリビドーを攪拌される。
真のスターのなせるワザ。そう、女神なのだよ。
演技力などは、しょせん二の次さ。
スターとはオーラなり!
映画の都では同義語なのだ。
翻り、
現在撮影中である映画の彼女、
(ベルギー産だったけか?)
あんな 痩せっポチ 、どこに魅力がある?
さっぱりわからんよ!
スターになる要素を欠いている。
かわいそうに・・
すぐに消え去るだろうってことは、
予言の才など なくても断言できるさ。
┃毎週、午前5時に眠い目をこすり、
読んでくれている、
約10万人の読者各位だって、同じ意見だろう?┃
(ちょいと混線ぎみデスな)
でも・・
まあ・・
仕事は仕事だし、
監督の依頼は職務として、
果たさねばならない。
巨匠はこう命じたのだ。
「王女の気品と、
同時に
いたずら心(=)茶目っ気を、
ワンカットで表現したい。
ふさわしい場面を設定してほしい」
━ どうすればいいのか?
━ 皆目見当がつかんよ。
━ こちとら出前持ちじゃねーぞ!
〇タバコを喫わせてみるのはどうだろう?
ちょいと、違うよーな。
〇スクーターを無免許運転させるのはイケるか?
〇┃真実の口┃を使うのは巧い手じゃないかな?
たがいにウソをついているダブルミーニングで。
〇ダンスパーティー会場で乱闘騒ぎになり、
そこで王女を暴れさせるのは、やり過ぎだろうか?
ギターかなんか持たせてさ・・
歩きつかれた彼は、
オープンカフェの席に腰を落ち着け、
コール・コーヒーをウエイターに注文し、
タバコに火を点ける。
すると・・
すこし離れた席に・・
変テコな送風機を持った、
ファニーフェイスの痩せっポチな女の子が腰かけた。
日本人だろうか?
ちょっと洗練されている。
服の着こなしは悪くないし、
物腰もスマートだ。
モデルかな?女優かも?
極東では、名の知れた存在なのかもしれん。
ハリウッドでは端役がせいぜいだろうな。
演技も下手そうだし・・
売れ線とはいえない。
モンローとは ほど遠い容姿だ。
親を恨むがよい。
セックスアピールこそ至高という時代なのだ、いまは。
彼は、日本のファニーフェイスへ、
軽蔑の視線を向けた。
やっぱり田舎もんだ。
「シャンペン」を頼んだあと
「ストロー Please!」だとさ。
けげんな顔のウエイターに、
もう一度「ストロー プリーズ」と念押し。
ワハハハハハ
どこの世界に、
シャンペンをストローで飲む やつ がいる?
ワハハハハハ
やっぱり極東の田舎もんだ。
奇想天外すぎる。
脚本家でも思いつかない展開じゃないか。
頭がオカシくなりそうだ。
誰か助けてくれ。
痩せっポチは、
注文のシャンペンが運ばれると、
ニッコリとして、
添えられたストローをつまみ上げた。
汐は、
ウレしさにじませing
ストローをつまみ上げると、
端っこを丁寧に切り取り、
少しだけストロー先を露出させ、
口にくわえるや、
《あのお方》の真似をし、
いたずらっ子満開・・
フッと息を吹き込んで、
ストロー袋をフライトさせた。
ファンタスティックに宙を舞う細長いストロー紙♪
「WOW!」
「splendid!」
脚本家はインスパイアの雷に打たれた。
「監督の出した設問に対する満点解答!
王女の気品と茶目っ気(=)いたずら心を
同時に表現できるワンカット設定。
極東のお嬢さんよ、ありがとう!」
彼はタバコの包装紙を破いて裏返し、
素早くメモを取ると、
ウェイターに伝言を告げ、
支払いを済ませ、その場を立ち去った。
汐はシャンペン酔いを心から楽しんでいた。
まさしくハイネス気分。
そんな彼女のテーブルへ、
高級シャンペンひと瓶と、
多彩なオードブルが、
ウェイターによって届けられた。
「スィニョリーナ。
先ほどお帰りになられたSignoreから、
ささやかなお礼だそうです。
どーぞ、召し上がれ!」




