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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
32/74

三番目の坂/プリクエル

読者の皆さん、

お話は少しばかりさかのぼりますゾ。


はてさて・・いかにして、

(三番目の坂)

さか(・・) の状況になったのか?


━〇━

七尾ななおマネージャーは、

スーツのポケットから

スマートフォンを引っぱり出し“SOS”を発信した。

・・タイムラグ二秒以内で、

2□□2号室のモニターフォンが鳴った。


げきオコのしおり は、

きょを突かれたように、来客を、モニター確認。


訪問者(visitor)は・・

聖林ひいらぎプロの左近さこん係長であった。

久々(ひさびさ)の再会である。


飛んで火にる・・なんとやら・・

売れっ子タレントは片眉かたまゆり上げ、

係長に矛先ほこさきを変え ━━ 怒りを飛び火させる。

「<延焼えんしょうさせて、山火事にしてやる!>」

DJアイドルは、どす黒い炎に、特大のまきべた。


王座(プライド)をかけて、

メーン・イベントのゴングが鳴り響いた。

元マネへ抗議こうぎの猛ラッシュを開始。


いわく ・・

「秋からの新番組(プライム)は絶対NO!」(ハードパンチ)

侮辱ぶじょくにも ほどがある」(L字ガード)

「たよりないマネージャーを即時そくじ解任要求」(サミング)

「契約満了後は事務所移籍の可能性大」(ブラフ)

「全力投球できる舞台の仕事がしたい」(アッパーカット) 

「新CMの二本も断固だんこ保留ほりゅう!」(ボディーブロー)                    


ビジネスバッグを持ったまま、

玄関口にて直立不動の左近。

タレントの言い分を一語一句、

強く深くうなずきながら、

真摯しんしに受け止めていく。


ななちゃんは、

リビングの床に女の子座りでフリーズしている。

担当たんとうタレントは、

外見からは想像もつかない、

激しいパッションの持ち主であることを知った。

「熟知している」は・・大いなる錯覚さっかくだった!


しおりのアグレッシブな物言ものいいは、

小一時間ほど、強弱&緩急かんきゅうをつけながら、

よどみなく続いた。

さすがはDJアイドル・・

少しもむことなく

流麗りゅうれいに言葉をつなぎ切った。

ただし、大事な声(商売道具)がかすれてきた。


抗議こうぎ一旦いったん停止。


間髪かんぱつ入れずバッグを開く左近。

相手の心をくすぐるニュアンスをタレ目に込め、

ミネラルウォーター&のどアメ

(ともに汐の好きな銘柄(めいがら)

阿吽(あうん)献上。

マネージャー時代に取った杵柄きねづか

それは ・完璧なタイミング・であった。

モメント・逡巡しゅんじゅんする・汐。

しかし、タイミングの妖気をぐと、

ネコにまたたび(・・・・)化してしまう。

<彼女自身 演技の基盤(ベース)は 驚異のタイミング>

ハッと来ると ━ グッと受けてしまう。

本能のなせるワザよ。ごうかもしれない。

瞬間・・

売れなかった二人三脚時代が、

ほのかなノスタルジー込みで、

脳内に追懐ついかいインサートされた。


わだかまりを抱えたまま、

キャップを開き、

水をコプコプ飲み、

キャップを閉じ、

アメ玉を口に放り込む。


やおら、挑戦的な視線をまし、

再びファイティングポーズを取る、

スリムな18歳ファイター。


試合再開のゴングが鳴らされる!


ノーガードだった左近は、

満を持して、

絶妙なカウンターを放った。


「新番組を受けてくれたら、

 あなたのために・・

 『ラジオ百歳プロジェクト』の仕事を取ってきます(必ず)。

 神様ならぬ《あのお方》にかけて誓いましょう。

 ご要望の・・

 舞台劇もしくはミュージカルについては、

 実現には困難こんなんともなうので、即答はできかねる。

 優れた脚本・演出家・スタッフ・キャストをそろえるのは、

 よほど腰をえてかからないとね。

 ひるがえり、あなたのスキルの問題も見逃せない。

 映像や音声に特化した(編集によるお化粧ありきの)演技を、

 舞台向きへとシフトさせなければならない。

 受験勉強でも国立向けと私大集約型があるように、

 別種の修練しゅうれんを積む必要アリです。

 極論、

 カット割りなしで、

 二時間の芝居を持続させるのが舞台なのでね」

 

┃ 強気な汐の表情にキレツが生じた ┃


左近係長は、吊り上げた目じりをタレ目に復元させた。

「 ・・その前に ・・

 まずはラジオです。

 <ギャラクシー賞>にケリをつけるべき。

 そろそろ、無冠むかん返上へんじょうしましょうよ。

 ドキュメンタリー仕様じようでね。

 『インターが聴こえない』みたいな番組をやりたいと

 残念会の席で、

 乙骨おっこつさんやスタッフに提案したらしいじゃないですか?

 だったら、人任ひとまかせにしないで、

 あなた自身がプロデュースすればいい。

 資金面のバックアップはしみませんから」


まったくの意表をつく角度からの提案(カウンター)に、

しばしスリップダウンする汐。


「・・いわゆるスクープ・・

 ・・特ダネ・・

 調査報道ちょうさほうどうのイーグル・ショットを

 どうやって見つけ出せばいいワケ?

 わたし・・まったく、見当もつかない」


左近は大笑いでもって応じた。


「笹森 汐 ━ 18歳。

あなた、選挙権もある大人でしょう?

デビュー時の<マイセルフ>の精神は

どこへ置き忘れてきたんです?

他人のお膳立ぜんだて待ちでなく、

自分でつかみ取ってみせるガッツを燃やさにゃ。

そもそも、『ラジオ哉カナ』の仕事だって、

あなたの純粋進言(しんげん)から始まった。

名もなき(いち)タレントから発せられた、

ありったけの言葉には、

ヒトを突き動かすたましいが宿っていた!

運命を切り開くイマジネーションがまっていた!

未来への け橋 を信じさせてくれた!


地べたをいつくばる強靭きょうじんなマインド、

ヴァイタリティーがないかぎり、

『未解決事件』のスクープなんて取れやしません。

こたつ記事だってあやしいものだ。

もちろん()や人脈も必要不可欠。

招運にいたるには、

つまるところ、

人事じんじくすしか手はない。

今の地位を守りながらも

攻める姿勢を忘れないでほしいのです!」


言い終えた係長はせきばらいをして、

さりげなーくネクタイに手をやり

(汐からプレゼントされた高級品)

・・あるヒントを示唆しさした。


とたん・・

・・ヘコんでいた汐の表情に光が射した。

━〇━


かくして・・

左近係長の提示してきた、

魅力的なニンジンにはあらがえず、

『ラジオ百歳プロジェクト』収録後に、

汐の追加要望をいくつか承認しょうにんさせる形で、

交換条件を受け入れた。


いよいよ、

プライムタイムに放送される、

新番組のスタートである。








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