分岐と融合の果て
番組制作の準備段階では、
脚本家とADが手分けして、
書籍などの活字資料は言うに及ばず、
出来うる限りの音源を、
局のレコード室・通販サイト・動画サイトから、
かき集めた。
ネットオークションを使い海賊盤 まで入手。
それらの素材を土台に脚本家チームは、
<クランベリー 苺 >という、
ナッシング・イズ・リアルな曲の誕生を、
時系列を無視して自在に構築していった。
汐 (Dr笹森)は、
狂言回し でありながら、
ときに、
曲作りの中心人物の内面へ大胆にも立ち入り、
主観と客観をまじえ、
多声的にナビゲートしていく役どころである。
彼女は、いつもとは別種の真剣さで、
マイクに向かっていた。
アドリブは極力控えた、
否・・控えざるをえなかった。
テイクワンの鼻歌っぽい魅惑的なマテリアルから、
漸次 形を成し、
美しい曲として生まれ出た<クランベリー 苺>。
通常のソングライティングならば、
めでたし、めでたしという結末だ。
しかし、誕生した美形の赤ん坊は、
ここから実に数奇な運命をたどることになる。
ワインディングロードの始まりだ。
バラード調の美しい曲を
グループの有能パートナーと手を加えているうちに、
自然かつ異様な成長を遂げ、
ヘヴィーでサイケデリック調な曲に、
変貌していく。
この段階で、
まだゴールテープは見えて来ない。
原曲は、
二つの曲に分岐がなされ。
あろうことか、同じDNAを持つ、
双子のナンバーが生れ出てしまった。
ソフトなA曲とハードなZ曲 。
A ━ スロー調ノスタルジック
(詩を具現化した秀逸なメロトロンの響き+他etc)。
Z ━ 狂騒的サイケデリック
(81秒からの音色+逆回転ハイハット他etc)。
聴き比べてみると、どちらも素晴らしい。
甲乙 つけがたいのだ。
レコードに採用されるのは[一曲]のみ。
決定権はソングライターに一任されている。
プロデューサーは、
「Aにするかい、Zもいいね。どうする?」
こんなことは、
グループの歴史上初めてのことだった。
ソングライターは考えた。
/思索の森を彷徨い
革新的な閃きを得た/
「よし!
双子を一人の人物にしてしまおう」
すなわちゲノム操作(編集)である。
1966年末の時点で、この発想が出た☆
ただし具体策は、まったくない。
ソングライターは、
いつものようにプロデューサーに ゴリ押し した。
「AとZを繋げて┃ひとつの曲┃にして欲しい」と。
「それぞれ キー も テンポ も違うから不可能」困惑のP。
「あなたなら出来るさ」丸投げ。
プロデューサーはアーティストの要求を、
頭ごなしに却下する傲慢さは持たない。
のちにSirの栄誉称号を受ける、
人柄・能力ともに折り紙付きの人物である。
凄腕エンジニアと連携してゲノム操作に着手する。
4トラックレコーダーを使用。
トライ&エラーの末、
可変速度コントロールを実行。
電気信号を操作して、
音のスピードを慎重に操ってゆく。
スローなAの速度をUP↑
狂騒Zの速度をダウン↓させ、
繊細な調整を行い、
キーとテンポに補正を加えてゆく。
すると、2コーラス目でミラクルが起こった。
AとZ=双子が融合され、
一人のアメージングな存在として転生したのだ。
マスターピースの完成である。
ゲノム操作により、
前代未聞 ━ 音のミュータントが降誕した。
満足した表情でミゼットに乗り込み、
ロンドンのスタジオを去っていく、
笹森ヴァン・ドーゼン博士。
ドラマのエンディングで、
<クランベリー 苺>の、
完成版が、フルオンエアされる。
『<クランベリー 苺>1966のミラクル』
━ THE END ━




