ミゼット発進
レイティング用ラジオドラマ、
拡大枠バージョン。
『<クランベリー 苺>1966のミラクル』
収録本番。
乙骨P「よーい」腕を振り上げ、
「GO!」サッと振りおろす。
(Nはナレーション)
「ワンダフル!エクセレント!マーベラス!
よーやく、完成に漕ぎつけた!」
N つなぎ服の上に白衣を着用した、
笹森ヴァン・ドゥーゼン博士は、
喜びの 雌たけびを上げた。
汐は、
〈リハなし本番をPに要求した(認められた)〉
博士〈ドクター〉という新しい役柄を演じるに当たり、
コミカルとシリアスを
マイスターのように調合。
その上、
リアリティーも、
卒なく注入して・・
ドクター笹森 を創出せしめた。
結果・・役にふさわしい・・
輪郭を持ったサイエンティストが生まれ出たのだ。
乙骨Pのサングラスの奥から放たれる演出光線は、
厳しさから、柔和出力へとチェンジ。
「あいかわらずウマく決めてきやがるぜ。
のっけから掴んでしまう。
その呼吸は、小憎らしいほどだ。
汐坊が、
ここぞという場面でスベったのを見たことがない。
非凡なる安定感だぜ」
(以下・・N略します)
ドクター笹森は五つの博士号を持つお方。
世界の100人に選ばれた、
スーパーな頭脳の持ち主である。
同時にエキセントリック(変人)でもある。
愛車のダイハツ・ミゼットに、
ある装置━ 特許申請中故㊙ ━を組み込み、
驚くべき執念を注力し、
改造と改良を積み重ね、
ついに時空を旅するタイムマシーンを完成した。
過去時間を往き来して(未来には行けない)、
後世に足跡を残した、
革新的な 光景 を、
フィールドワークしたいがために、
ただそれだけの理由で、
途方もない歳月と費用 を研究に費やしたのである。
マシーンを ┃1966年11月24日┃ にセット。
気圧 緩衝用イヤープラグをした博士は、
国際規格のカーラジオを搭載した、
長年の相棒である三輪自動車に、
必需品の入ったリュック入れ、
スリムな身体をすべり込ませた。
膨らんだお財布を改める、
扇 札勘したくなるような、
当時のポンド紙幣がギッシリ。
ハンドルを握る。
路地まで進み、
前・後方確認。
唾液をゴクリとのむ。
R ギアを入れる。
狭い路地をひたすらバックしていくミゼット。
(サスペンス系のBGM)
加速するにつれ、気圧は急上昇。
耳キーン状態。
音高デシベルは増していき。
臨海 突破。
(エッヂの効いたノイズサウンド)
気がつけばロンドン。
北西部セントジョンズ・ウッドの車道に、
ドタンバタンとバウンド着地。
逆走していたので進路を急激に方向転換。
怒号が飛び交う。
クラクションの嵐。
「STUPID!」 「FOOL!」
「DIMWIT!」 「CRAZY!」
平常運転に落ち着いた。
イヤープラグをはずす。
カーラジオから、
新曲<グッドヴァイブレーション♪>が流れ出した。
そのまま直進、
レコードジャケットにもなった、
有名な 横断歩道 を舐めるように走行する。
そして、目的のスタジオにミゼットをパーキング。
警備員 に心づけを渡す(当時はユルかった)。
お腹がすいたので近くのスタンドパブに入り、
キュリオスティコーラとフィッシュ&チップスを注文。
カウンターに置かれた 初物を、
ナイフとフォークで切り分け、
ディップをつけて熱々 を口に入れる。
わりかしイケる(ハフホフ)。
揚げたて白身魚とタルタルソースのハッピーマリッジ♪
日本でいえば、
お寿司とむらさきのような関係だろうか。
ちょっとやそっとじゃ 離婚 しそうにない。
コークがのどにパチパチ 弾ける!
異国の味覚は新鮮だった。
後世、歴史に名を遺すようになるスタジオは、
意外に平凡な外観をしていた。
腹ごしらえを済ませた笹森博士は、スマホで写真撮影。
そこへ、紳士風の通行人が寄ってきた。
興味津々な視線を向け。
スマホを指さし、「ハウマッチ?」とクエスチョン。
「プロトタイプなので NOTプライス」とアンサー。
「いくらなら手放す?」更問い。
博士はスタジオを指さし、
「Fab Fourのレコードセールスと同額なら」
「バットジョーク!」
通行人は〈怒り笑い〉して去っていった。




