三人の冒険第2話 変化
「これにて葬式は終わりとなります。勇者様が1人亡くなられた事は本当に悲しい出来事だと思っております。勇者隆介は最後まで諦めず、そして私達を逃す為に自ら囮となり、私達を逃してくれました。この判断は本当に正しかったのか?1人を犠牲にするのではなく、皆んな生きて帰ってこの先を進んだ方が良いのか?それは私達にも分かりません。ですが今私達がいるのも全て勇者隆介のお陰です。あの方がいなければ私達はあのままドラゴンに殺されて全滅してたでしょう。ですのでこの命、大事にしていきましょう。そして勇者隆介が安らかに天国に行けるよう皆様で祝福をしましょう。勇者隆介に祝福を!」
「「「「「「「勇者隆介に祝福!」」」」」」」
ここ、教会にて召喚された勇者達…生徒達とウルド王国の王、そして兵士達、貴族、更には勇者を崇める平民達が集まっていた。生徒、貴族、平民達は涙を流し、ウルド王、兵士達は真剣な顔をしてアクマの言葉を聞いていた。そしてショックだったのかウルド王国の姫、ルルカは顔が青ざめ、気分が悪くなったのか途中抜け出してしまう。
「いや〜やはり隆介君は勇敢な友だったよ!素晴らしい!私達の為に命を捨て犠牲になってくれた事に感謝しなくては!」
「そうですね豪華さん!」「ふ、ふふふふ」「感謝しないとな!」「よ…あ〜悲しい!」「僕ちん悲しい!」
終わった後は各自自由行動となった。
「行くわよ春香君」
「…うん」
2人は豪華の言葉を無視して真っ先に教会の近くに立っている他のお墓より、大きめのお墓の前に歩いて行く。墓石には[天草隆介ここ眠る」と書いてあり、鈴菜と春香は目を閉じてお参りをする。
隆介…どうして…。
「鈴菜…さん?」
春香は横でずっと手を合わせてお参りをしている鈴菜の顔を覗き込むと、目からスゥ〜と涙が流れるのが見えた。
「何でもないわ。早く戻って美菜の所に行きましょう」
「ま、待って鈴菜さん!」
何もなかったかのように立ち上がり、春香に背を向けてお城の方に早足で歩いて行く。
その後を慌てて春香は追いかける。
「ねぇ鈴菜さん。僕がいるからって我慢しなくてもいいんだよ?それに我慢してるともっと辛くなっちゃうよ?」
「春香君。私には言っている意味が分からないわ」
「えっとね…我慢しずに思いっきり泣く時は泣いてスッキリした方がいいかなって」
「……私は大丈夫よ。我慢なんてしてないわ」
「そっか…余り無理しちゃダメだよ?」
「ええ」
その後会話も無くなり、無言のまま隆介が使っていた部屋に眠っている美菜の様子を見に行く。
美菜さん起きてるかな?
ガチャ。
「あっ!鈴菜とはるるんどこ行ってたの!ずっと待ってたのに誰も来ないから心配したよ!」
「あら起きてたのね。おはよう美菜。ちょと町に用事があったから出かけてたのよ」
「そ、そうだね!町に行ってたんだ!自由行動の時間だからね!」
「もー!それなら僕も誘ってよ!僕も楽しみにしてたんだからね!」
「悪かったわ。後で一緒に行きましょう」
「そうだね!後で一緒に行こ!」
扉を開けるとそこには目を覚ました美菜が、ベッドの上でプンスカしながら待っていた。ほっぺたがリスのように膨れ上がっており、怖いというより可愛いと言った方がいいだろう。
「あっ!そうだ!隆介いないの?」
「「……」」
「ねぇねぇ!隆介何処にいるの?早くギュッと…じゃなかった!助けてくれたお礼を言わないとね!ふ〜ふふ〜ん。隆介〜隆介〜」
2人は美菜が隆介の名前を出した瞬間絶対に言ってはならないとそう確信した。それは何故か、美菜は隆介の事が大好きすぎて依存症みたいになっているからでる。常に隆介の側に居たい、絶対に隆介を他の女子に譲らないという思いが強い。その為隆介が他の女子と話すだけでもすぐ嫉妬してしまうほどの隆介大好き人間なのである。そんな美菜にもし隆介が亡くなったと言ったらどうだろうか?それは鈴菜でさえ分からない。何年もずっと一緒にいるのにどうなるのかは鈴菜でさえ予想がつかない。それほどまでなのである。
「美菜、隆介は今大事な用事があるからちょと遠くに行っているわ」
「そ、そうだよ美菜さん。今ね、各自自由に行動が出来るようになったから隆介君は今豪華君と一緒に行動をしてるの」
嘘は言っていない。鈴菜が言った遠くに行ったは天国に行ったと言う意味で、春香が言った豪華と一緒には、豪華が隆介が持っていた、使っていたナイフを持っているからである。勿論そのナイフはお墓に置く為に持っている。ナイフは隆介が使っていたと言ったが、隆介が使っていたナイフと同じ物を用意した物である。なので実際に隆介が使ったものではないがよしとした。
し、信じてくれたかな?
「……」
「だからね美菜。隆介は今ここには帰ってこれないの」
「隆介君が帰ってきたら報告するね!」
「…嘘だよね?何で2人とも僕から目を晒して話すの?隆介の事について僕に何か隠してる?そんなわけないよね?」
「「……」」
美菜の言葉に部屋の中は冷たい空気が流れ込む。更にはいつもみたいに元気があり、可愛らしい美菜は何処にもなく、目のハイランドが消えて、2人が嘘をついた事に対して物凄く怒っている顔になっていた。特に隆介絡みとなると物凄く怖い。
「何で2人とも黙ってるの?本当は何処にいるのか知っているよね?ねぇ!何とか言ってよ!」
「ごめんなさい美菜。私からは何も言えないわ」
「ごめんね…」
「そっか…隆介が何処にいるのか知ってるのに教えてくれないんだ…。もう知らない!2人とも出てって!」
部屋は防音になっており外には聞こえないが、その声は物凄く大きく、キーンとなる程の大きさだった。
2人は美菜に追い出されてしまう。
「ごめんなさいね春香君」
「あ、謝らないで鈴菜さん!」
「そんなわけにはいかないわ。私は美菜が怒る事は分かってたの。でもそれに春香君を巻き込んでしまった」
「巻き込んだなんて…そんなこと言わないで!僕達は友達でしょ!」
「…そうね、ごめんなさい。春香君も大事な友達よね。ならありがとう。美菜に本当の事を言わないでくれて」
いつもクールな鈴菜の顔がぐしゃぐしゃになっており、目からは沢山の涙が溢れ出ていた。そんな鈴菜を春香は慰めるように抱きしめ、背中をさする。
やっぱり我慢してたんだね…。
それから数分間泣き続けた鈴菜はスッキリしたのかいつものクールな表情に戻ったが、顔は真っ赤なままだった。
「ありがとう春香君。おかげでスッキリしたわ」
「うん。それならよかったよ」
「…その春香君。このままの状態だとちょと恥ずかしいわ」
「ごごごごめんね!今離れるよ!」
鈴菜に言われて気づいた春香は慌てて抱きしめていた手を離し、少し距離を離れる。
「その…ごめんね?迷惑だった?」
「そんな事ないわ。春香君は『朝からお疲れ様です勇者鈴菜様、勇者春香様。お食事の用意ができましたので宜しければどうぞ』
ええ、ありがとうメイドさん。私と春香君は一緒に食べるから私の部屋に2人分お願いします。美菜は…何でもないわ」
「かしこまりました。ではお食事を持ってきますので部屋で待機していただけたらと」
「分かったわ。行きましょう春香君」
「う、うん!」
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鈴菜と春香を追い出し、1人になった美菜は物凄く不機嫌な状態でベットでゴロゴロしていた。
なんでなんでなんで!なんで僕に隠してるの!隆介が何処にいるか聞いただけなのに!もしかして2人とも隆介を独り占めしようとしてるんじゃ!それなら絶対に許さないよ!もう!
プンプンとしながらゴロゴロゴロゴロとしていると、ある事を思いついた。
「それなら先に僕が隆介を見つけて独り占めするからいいもん!そして…えへへ。よし!そうと決めれば即行動だよ!あ、でもその前にもう行ったかな?」
扉のまで歩いて行き、2人が行ったか確認する為に耳を扉につけて確認する。
うんうん、いない!よし!早速探すぞ!
扉を開け、廊下に出ると遠くにメイドが歩いていたので早速聞いてみる事にして。
「あのー!ちょといいですか!」
「これは勇者美菜様。どうかなされましたか?」
「あのね!今隆介を探しての!何処にいるか分かる?」
「勇者隆介様の事でしょうか?それでしてら教会の『教会だね!ありがとうメイドさん!』」
メイドが教会と行った瞬間、話を最後まで聞かずに美菜は廊下を走り、教会の場所えと移動する。
確か教会ってあのお墓とか沢山あった所だよね!そこに隆介が!もう!何で2人とも僕に黙ってたの!教会にいるならいるって行ってくれればよかったのに!でも僕が一番乗りだからね!
足に雷魔法を纏わせ、スピードを上げる。勿論それは外に出た時にやった事で中ではやっていない。
「とうちゃーく!隆介ーー!何処にいるのー!」
教会に到着して美菜は大声で隆介の名前を呼ぶが数分経っても返事もなく、出てこないので不思議に思っていると、教会の扉が開き、中から黒い修道服を着た老婆が出てきた。
「あっ!すみませーん!ここに隆介来てなかったですかー!」
「えっと…貴方は?」
「僕?僕は柏原美菜!隆介の妻です!えへへ!」
「こ、これは失礼しました。勇者美菜様でしたか。勇者隆介様でしたらこちらに」
「本当!」
シスターの言われて後を嬉しそうに着いていく。
早くお礼を言いたいな〜。それに隆介の匂いを…僕ったらダメだよ!我慢我慢!今はシスターさんがいるから帰ってからじゃないと!あ〜でもでも!
両手をほっぺに付けていやいやとして、アホ毛をぶんぶんしながら嬉しそうにしていると、着いたようでシスターが止まる。
「こちらになります。本当に災難でしたね…勇者美菜様と言う可愛らしい奥さんを残し亡くなられて…」
「……えっ?何言ってるの?隆介は何処にいるの?」
シスターが言った言葉に整理が追いつかず、周りをキョロキョロした後、シスターの顔を見て少し怖い口調でもう一度問いかける。
「勇者美菜様。旦那様である勇者隆介様が亡くなられてこれから先辛い事が沢山あるかもしれません。ですが他の勇者様、仲間達と言う存在も忘れてはいけません。そして貴方には大事な友達もいると思います。助け合い協力をしてどうか魔王討伐に挑んでほしいです。勇者隆介様はきっと天から貴方を見てくれています。そして守ってくれます」
「……何で亡くなったとか言うの?隆介は生きてるんだよね?それとこれは何!何で隆介のお墓があるの!ねぇ!何で!何でデタラメなこと言うの!何でシスターさんもそんな嘘つくの!おかしいよ!『おかしくはありませんよ美菜さん』…うるさい!僕の話に入ってこないで!今はシスターさんと話してるの!豪華君は関係ないでしょ!」
シスターに怒っていると、後ろから豪華とその取り巻き達がゾロゾロとやってきた。勿論他の生徒達もいる。
「いえいえ関係ない事はないですよ?シスターさんが言っていることは全て真実なのですから」
「嘘だ!豪華君も僕を騙そうとしてるの!」
「騙そうだなんてしてはいませんよ?あ、それでしたら他の生徒にも聞いてみましょうか?勿論男子が信用できないのでしたら女子でもいいのですよ?」
美菜は豪華の言った通りに男子ではなく女子の方に顔を向けて聞こうとすると、女子達はとても悲しそうな顔をして美菜に答える。
「あのね美菜さん…金谷君が言っていることは本当なの…」「私達を逃すために自ら命を…グスゥ…」「一番美菜さんが天草君の事を想っているのは私達知ってるの…でも今回は…今回だけは…本当に…」「私達には何もできなかったの…天草君がいなかったら私達は全滅してたって…」「天草君のおかげで皆んな助かったの」
豪華は本当かどうかを信じさせるために男子ではなく、女子に答えさせる。
そして数人の女子が言った後すばらく沈黙が続く。
「ほら?言ったでしょう?シスターさんと皆んなが言った通り、隆介君は私達のために戦い亡くなったのですよ。1人の命と引き換えに私達は救われたのですよ?悲しいことではありますがこの先犠牲が付き物だと思うとここで落ち込んでいてはいけません。ほら、私達と組めば魔王なんて簡単に倒せますよ?元の世界に帰れるのですよ?隆介君の事は忘れて私達と来ませんか?」
「……もう黙って…」
「うん?」
「もう黙ってよ!皆んな隆介が亡くなった亡くなったって!隆介は死んでないのに!何で皆んなそんな嘘をつくの!もう虐めだよ!皆んなもう知らない!」
両手の拳をギュッとして、唇を強く噛みしめた後その場から走って部屋に帰って行く。唇を強く噛みしめたせいか口が切れて血が出てきていた。
バタン!
「ハァハァ…何で皆んなして…ううん…本当は僕だって分かってる。隆介はもうこの世にはいないって…。皆んな辛い顔をしてた…。でもやっぱり信じることなんてできないよ!隆介と約束したもん!僕に好きな人、彼氏ができるまでずっと守ってくれるって!…えっ?でも何で?何で思い出せないの?こんなにも大事な約束をしたのにいつしたの?約束本当にしたの?」
よろよろとベットまで歩いて行き、ボフッと顔からダイブするような形で倒れ込む。
モヤモヤする…。記憶には隆介が僕の事を大事に想ってくれてると分かってる。なのに何でこんなにも大事な約束をしたのに覚えていないの?…ツゥ!?
倒れ込んでいた美菜は急にスゥと起き上がり、体が震えている事に気づく。
「体が勝手に震えて…怖い…何でこんなにも怖いの?あ…思い…だした…。あの時に…いやだ…いやだ…いやだよ!もうやめて!隆介!隆介何処にいるの!助けて!」
全てを思い出した美菜の顔は真っ青になり、隆介に助けを求めるが突然そこにはいるはずもなく、自分の体を抱きしめてブルブルと体を震わせる。
「お願い…僕に酷いことしないで…。もうやめてよ…。そんなことしないで…」
『美菜』
「隆介…隆介なの…?」
『ああ、隆介だ。だけどごめん美菜。美菜を守る役目は終わったみたいだ』
顔色が真っ青になり、ブルブルと震えていると、突如美菜の目の前に隆介が立っていた。だが少し様子が変である。
「隆介何を言って…?」
『うん?聞こえなかったかな?もう一度言うよ?…もう終わりだって言ってるんだよ!次からはこの俺が守ってやるからな!勿論幸せにもしてやるよ』
目の前にいた突如現れた隆介が美菜の頭に手を置き、笑顔で答えたが次の瞬間、突如隆介がグニャグニャと歪み、美菜を襲った男子に変わる。
『ほらほら逃げないで?一緒に幸せになろうよ?一つになろうよ!』
「ヒィッ!?や、やだ!来ないで!僕の全ては隆介の物なんだから!触らないで!」
『へへへ、そう言うなって?ほらほら』
「来ないで…来ないでー!」
ビリビリ…ドゴーン!!!
男子が美菜に近づこうとした瞬間、いきなり美菜の体から膨大な魔力が溢れ出し、暴走を始めたため部屋の中がめちゃくちゃになり、衝撃で扉がやガラス粉々に砕け散った。
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ドゴーン!!!
「うぐぅ!?ん〜!!ゴホゴホ…今の音何!?」
「春香君大丈夫?今すごい音が廊下から聞こえたわね」
「春香様お水をどうぞ。見てきましょうか?」
朝ご飯を食べていた2人は廊下から聞こえる物凄い音にビックリし、春香はご飯を喉に詰まらせ咳き込んでしまう。
「いいわ。私達が行くわ」
「ふぅ〜…ありがとうメイドさん。僕も着いて行くよ」
「かしこまりました。ですがもし賊でしてら私が全力でお守りいたします」
メイドを先頭に恐る恐る扉を開けて廊下に出ると、左の部屋の扉が廊下に出ており、壊れていた。
ここ美菜の部屋よね!一体何があったの!
「私が先導させていただきます。勇者鈴菜様、勇者春香様の安全第一ですので無理をなさらないようお願いします」
「ええ分かったわ」
「う、うん!」
メイドは恐る恐る警戒しながら部屋に近づき、中を確認する。
するとメイドの表情が一気に強張り、警戒態勢に入る。
「ど、どうしましたか?」
「勇者鈴菜様、勇者春香様。今すぐお逃げになって下さい。私が時間を稼ぐので皆様にも逃げるよう言って下さい」
「…いいえ、そう言う訳にはいかないわ」
「ですが!?」
「私は勇者よ?皆んなに守られてばかりではなく人を守る事もしないと勇者と呼べないじゃないのかしら?だから私も協力するわ」
「ぼ、僕も!支援は任せて!」
何としてでも2人を逃がそうとするメイドに、鈴菜はそれには答えず、自分もここにいると言う。春香も少し震えているが何とか耐えた。
「…分かりました。ですが本当に危険な状態になりましたら直ぐに逃げて下さい。これだけは約束して下さい。大事な勇者様を死なせる訳にはいきませんので」
「危険な状態になったらメイドさんも一緒に逃げる事よ。そうじゃなければ一緒にいるわ。いえ、約束はできないわ」
「そうだよ!メイドさんも一緒に逃げないと!」
「本当にお優しい勇者様です。分かりました。私も危険な状態になったら逃げますね。では、行きましょう」
「ええ…」
「うん…」
3人は恐る恐る部屋の中を除くと、長テーブルの白いソファーが粉々になっており、ダブルベットも焦げた跡がいくつも残っていた。部屋中がズタズタになっている中、2人はベットで体操座りをして、顔を伏せているある人物が目に入る。
「この魔力は桁違いです。危険でなければよろしいのですが、もしこちらに危害を加える者でしたら今の内に倒しておくのが宜しいかと」
「待ってメイドさん。多分敵じゃないわ。いえ確信できる。絶対に敵ではないわ。だから警戒を解いてちょうだい」
「…かしこまりました。もし『大丈夫よ』…かしこまりました」
警戒をしていたメイドに鈴菜は辞めるように言った後その人物の側まで歩いて行く。
すると元から気づいていたのか、顔を伏せた状態で喋りだす。
「ねぇ…何で教えてくれなかったの?」
「美菜なのよね…?ごめんなさい…私からは…」
「…やっぱり教えてくれないんだね…でももう遅いよ。僕はもう知ってるよ。もう一度言うよ…何で教えてくれなかったの?」
顔を伏せているが美菜だとすぐに分かった。だがその声はいつもの元気で明るい美菜の声ではなく、とても美菜の声とは思えない怖い声だった。
「それは…美菜を心配させたくなかったからよ」
「僕を心配させたくなかった…そっか」
すると部屋の中がビリビリ!となり、冷たい空気が走る。その空気に3人は恐怖を抱く。
更に俯いていた顔が起き上がると、その瞳と髪色に目を奪われる。
「そっか…僕を騙そうとしたのか。隆介はもういないのにずっといるように見せかけて僕を安心させようとしたんだよね?そんなの迷惑だよ!」
すっとベットの上に立ち上がり、雷を全身に纏いながら3人の事を見ていた。今の美菜は綺麗な茶色の髪色ではなく、真っ白になった髪色をしていた。更には右の瞳だけ黄緑になっている。
「もうこんな世界なんて知らない!そうだ…この世界が悪いんだ!この世界に来なかったら隆介がいなくならずに済んだんだ!あははは!そうだよね!この世界が悪いからこの世界滅ぼしちゃえば『パチーーン!』……」
怒り狂っておかしくなった美菜は怖い笑顔で笑い、この世界を滅ぼすと言いかけた瞬間、美菜は鈴菜にビンタをさせてしまう。
「いい加減にしなさい!これ以上言ったら許さないわよ!」
「……」
「美菜、言いたい事はよく分かるわ。けど罪もない人まで巻き込んでいいと思ってるの?それにそんな事隆介が望んでいないわよ」
鈴菜のビンタを食い、ベットに倒れ込んだ美菜は下を向き、無言でいた。
「それにね美菜。私も隆介が死んだなんて信じたくないわ。だからね…」
ギュッと美菜を両手を握り、安心させる。たがその手も震えていた。
「隆介を探しにいこ?きっと何処かで生きているわよ。美菜の約束を破っていなくなると本当に思う?それに美菜や私達を置いて何処かに行く?」
約束という言葉を聞いて美菜は口を開く。
「…思わない」
「ふふ、なら探しにいこ。この世界を歩いて情報を集めればきっと出会える。それにこの世界は魔法を使えるのよ?もしもの時は蘇生魔法を探して生き返らせる事ができるかもよ?きっとあるわよ。だってこの世界はそう言う世界だから」
更にギュッと美菜を抱きしめて落ち着かせると、美菜が突如泣き出し、それを優しく受けてめる。
それから数分…泣き止んだ美菜は鈴菜から離れた。が、人が変わったかのようにいつもの美菜ではなく何処か近寄りがたい雰囲気になっていた。
「…僕の全ては隆介のもの。だから僕は隆介と会うまでもう絶対に泣かない。笑わない」
「そ、そうね。だけど別に笑ったっていいのよ?いつもみたいに笑顔が絶えない美菜で私はいて欲しいわ」
「ぼ、僕もだよ!」
「ごめん2人とも。僕は隆介の為に全て取っておく。…こんな僕だけど一緒にいてくれる?」
2人はお互い目を合わせてどうしようと考えていたが、美菜の決意は固く、諦めることにした。
「勿論よ。だって私達家族だから」
「うん勿論だよ!友達を見捨てるなんてことできないよ!」
「ありがとう鈴菜、はるるん」
3人で話していると、廊下からドタドタと足音がたくさん聞こえてきた。
「ど、どうかなされましたか!」「敵は!敵は何処ですか!」
「あの爆発音は何事です!」「だ、大丈夫ですか!」「勇者様大丈夫ですか!」
次々と兵士やメイドが部屋の中に入ってきて辺りをキョロキョロしたり、3人を守るようにして警戒をしていた。他の勇者達は町に出かけており、その場には来ていなかった。
まずいわね…この状況をどう説明しようかしら。
「こ、これは勇者鈴菜様、春香様、そして…どなたでしょうか?」
「失礼ですよ。この方は勇者美菜様。この方は賊と戦ってる最中突然異変が起きて変わってしまわれました。分かりましたか?では解散して下さい」
「ぞ、賊!?その賊は何処に!?」
「窓から逃げて行ったと言っておられました。流石勇者様です。威圧に負けて逃げたのでしょう」
「おー!流石勇者様!勇者美菜様と分からず大変失礼しました。おい!お前達!逃げた賊を追いかけるぞ!」
メイドが3人を庇うように嘘をついて賊が出たと話すと、兵士のリーダーらしき男が驚き何処にいるか聞く。だがもう窓から逃げたと言うとリーダーらしき兵士は、美菜にお辞儀をして謝った後、兵士達を直ぐ動かし追いかける。
「では私も賊を追いかけてきます。失礼しました」
リーダーらしき兵士もその場から立ち去る。
「あの〜ありがとうございます」
「ありがとうメイドさん」
「いえいえ、大丈夫ですよ。私は何も見なかったことにします。それと勇者隆介様を探しに行かれるのでしたら…ほらそこに隠れてないで出てきなさい」
「は、はい!失礼ちましたあ!」
メイドさんが扉の方に顔を向けて呼びかけると、そこには隠れていたシーナは気まずそうに出てきて、噛みながらメイドさんに謝った。
「シーナ。あなたは勇者様のサポートをしてあげて」
「わ、私がですか!?む、無理ですよ!私はまだ入ったばかりです!」
「だからこそよ。勇者様のサポートをして立派なメイドとして帰ってきてね。それまではここで仕事するのは禁止ですよ」
「…ほ、本当に私なんかで宜しいのですか?」
今にも泣きそうな顔をしながらおどおどしているシーナは、チラチラとメイドさんを見る。
「そんな目で見てもダメよ?それにシーナだからこそよ。分かった?」
「う〜…分かりました!勇者鈴菜様、勇者美菜様、勇者春香様!まだまだ見習いメイドですがよろしくお願いします!」
「ええ、シーナさんがいてくれると助かるわ。よろしく」
「うん!シーナさんよろしくね!」
「よろしく」
話は進んでいき、一旦解散することにした。
そう言えば美菜に聞かないといけないことがあったわね。これは重要なことよ。
「美菜、その瞳と髪色はなに?」
「髪?瞳?」
「そうよ、鏡を見て〜…ないわね。移動するわよ」
「分かった」
3人は移動して、お風呂場に行く。お風呂場に着くと、勿論春香は女風呂の方には入らず、外で待機をする。
「鏡を見たら分かるわ」
「うん?…何これ?」
鏡を見た瞬間、美菜は今目の前で写っている自分の髪と瞳の色を見て、目を大きくして驚いていた。
な、何これ…!なんで髪と瞳の色が違うの!?こんなんじゃ…。
「美菜?」
「鈴菜…こんな姿隆介に見られたら嫌われちゃう…よね?」
今の自分の姿を見てショックだったのか鏡を見るのをやめ、アホ毛をしゅんとさせて振り返り、鈴菜の顔をじっと見る。
「はぁ〜…」
「イタッ!?何するの鈴菜!」
「全く…美菜?そんな事で隆介が美菜の事を嫌うと本当に思っているの?」
いきなりおでこにデコピンされた美菜は、アホ毛をピン!とさせ、おでこを押さえながら鈴菜の事をキッと睨む。だがその後の言葉に美菜は睨むのをやめ、おでこをさすりながら顔を上げる。
「ほとんど毎日一番近くにいる美菜が一番分かってるわよね?隆介はそんな事では嫌わないぐらい。私が知ってて美菜が知らない事ないわよね?一番の美菜がね?」
「僕が…一番?」
「ええ、隆介の一番は美菜が一番よ」
「そ、そうかな?えへへ」
隆介と会うまで笑顔にならないと決めていた美菜だが、隆介の一番と聞いて、自然と笑顔になり、アホ毛も物凄い勢いでぶんぶんさせていた。そんな美菜の事を見て鈴菜は…。
「美菜はやっぱり明るくて元気な方がいいわね」
「はぁ!?この笑顔は隆介に取っておかないと!…あ〜でもでも隆介の一番が僕だなんて〜えへへ、そっか〜僕が一番か〜」
「別に無理して我慢しなくてもいいんじゃないのかしら?人間誰しも嬉しい時は自然と笑顔になるものよ?」
「…分かった鈴菜。でも他の人の前ではなるべく見せないようにする!鈴菜とはるるんと隆介の前だけするね!」
いまだニヤケが止まらない美菜は、何度一番一番と繰り返してデレデレしていた。
もう美菜ったら…私はそう言う意味で言ったわけじゃないのに。まーでもいいわ。こんなにも嬉しそうにしている美菜に今何言っても聞かないだろうし出発の準備をして行かないと。
行くよ、と美菜に声をかけて2人はお風呂場から出る。
「お待たせ春香君。あなたも入ったら良かったのに」
「あ、話終わった?ぼ、僕は男子だから女風呂に入ったら犯罪だよ!」
「そうかしら?春香君なら入っても問題ないと思うのだけど?」
「あ、あはは…問題にならない…か…」
「はるるんお待たせ!ごめんね心配かけちゃって!」
「あ、うん!元気になって良かったよ!」
その後美菜が使っていた部屋はダメになり、空いていた部屋に移動して準備を始める。勿論部屋をダメにしたことを王様に言ったら勇者様に怪我がなくて良かったと言っており、怒ってはいなかった。
「旅に必要な物はまだあるわね。ちょうどこの世界のお金を貰ったし町に行って揃えないとね。それに美菜の今の姿は目立つわ。私達が町で服を買ってくるから待っててくれるかしら?」
「えー!僕も行きたい!」
「ダ、ダメだよ美菜さん。他の生徒に見られちゃったら大変だよ?」
「そうよ、余り面倒ごとには巻き込まれたくないのよ。王様にも美菜の姿見せていないんだから。もしかしたら右目の事についても知ってるかもよ?それでもし利用されようなら拘束されてこのまま隆介を探せずに一生を過ごす事になるかもしれない。兵士達は知らないみたいだったから良かったけど嫌でしょ?隆介を探せず過ごすのは?」
「わ、分かったよ鈴菜…。でも余り遅くなるのはダメだからね!僕だって行きたいんだから!」
「ええ分かってるわ」
鈴菜の説得により、怒りながらも納得した美菜はそのままベットに顔を埋める。
さて、この世界に美菜が使ってたキャラの服装みたいなのがあればいいのだけど。隆介もその服装を気に入ってたみたいだし美菜もきっと喜ぶと思うわ。…私もこの世界にあの服装があれば着て、隆介に見せたかったな。なんて、私にはそんな勇気はないわ。
「行ってくるわね美菜」
「行ってきます美菜さん」
「む〜…行ってらっしゃい!」
読んでくださっている方々本当にありがとうございますm(_ _)m
次回・レステリア王国に到着した隆介とミズナに待っている事とは!




