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新種

 高校の生徒玄関の鍵は空いている。というのも元々占めるということをしないのだ。私立校だけはあってたくさんの金をかけて警備員なども動員していた。

 まさか豚のような人外が現れるとは思っていなかっただろうから警備は完璧だった。

 校内に入った彼らの耳に入った音は、まず銃声だった。警備員の待機部屋には銃が数丁用意されている。警備員のほとんどが警察から送られた者である。警察と私立校の影での関係が強かったため銃刀法に引っかかることはなかった。

 そのようなことを彼らが知るわけもないため彼らはそれを聞いて驚いた。豚を見た時のような恐怖の驚きというよりも非日常的なその世界に驚いた、普通の驚きと大差ないだろう。

 そしてそれを目印に彼らは銃声のする場に向かった。生きている人がいること自体が彼らにとっては希望になる。それでいて武器を持つ者がいる、生き残れる可能性があるのであれば行くのは当然であった。

 二階の三年生の階層に彼らはいた。防弾チョッキのような分厚いなにかを着込んだ彼らは、洋平と光を見るなり近付いていく。

「ここに生存者がいたぞ! 二人人員を割いてくれ。安全地帯に連れていく」

 まだ若い警備員の男はそう声を荒らげた。それによって起き上がる数体のゾンビの頭をおっさん警備員が拳銃を四発撃ち頭を打ち砕いた。それによってゾンビはまるで生命活動を停止したように動かなくなった。

「賢治、大声出すなと言ったはずだ」

「すいません久我さん、ちょっと調子に乗っていたようです」

 賢治は片手に持つ拳銃を構えそう答えた。それを見た久我は「そうだ」と首を縦に振って指でクイクイと進む指示をする。

 それを見て混乱している洋平と光にはなにもわからなかった。それに気付いて無理やり手を取って連れていこうとする賢治の手を振りほどいた光はすぐに洋平と手を繋ぐ。

「私には洋平がいるので」

 光の声にはあっとため息を吐いた賢治は「そうじゃないし俺にも恋人はいる」と反論した。

「付いてこい、生存者が集められている場所があるんだ」

 それでようやく理解した二人は「ああ」と答えて付いていく。前に賢治が後ろに久我が拳銃を構えてガードを固めている。

 上の階に向かっているのか彼らは近づいてくるゾンビを賢治が打ち倒していき、そう時間がかからずに前へ進めた。

「あともうちょっとだ、安心してくれ」

 そう賢治が言った時だった。

「ぐるるぁぁぁぁ」

 人とは思えない鳴き声を上げた二足歩行の、しっかりとした足取りで彼らに向かってくる男がいた。目は左右他の方向を向いており男が正常ではないことを明らかとさせる。

「下がれ! 賢治撃て!」

「あいさー」

 二人の声が銃声と合わさり大きな音を奏でる。そんなカルテットが男に効くといった様子はない。

 銃弾の当たった男は少し不思議そうな顔をして当たった場所を見つめていた。男の体にはダメージはない。

「ろぁるぁるぁ」

 怒りからか先ほどとは比べられない速さで男は彼らに近付いた。シュンという音を上げて目の前まで迫っていた男の口に加えられていたものは、久我の右腕だった。

「ぐぁぁぁ」

「久我さん! ちくしょぉぉぉぉ!」

 賢治は効かないとわかりつつも撃ち続けた。久我の右腕を貪っている男はそれを気にもせずただ貪り続けた。グチャリグチャリと音を立てながら男は久我を見つめた。

「れぁろぁろぁ」

 男はそのまま久我の心臓をひとつきしようとした。だが久我は自分の死を感じ拳銃を賢治に投げつけそのまま男を背負投げをした。

 ズシャリと音を立てて男は倒れじたばたと暴れる。

「逃げろ! 俺はもう長くねえ!」

「久我さんダメだ! みんな一緒に!」

「このバカが! 二人だけならまだしも生存者を逃がせ! それが俺たちの誇りだ!」

 食らいつこうとする男を何度も投げ飛ばす。だがその速度は次第に遅くなる。片手で投げているからかバランスも悪くなってきていた。賢治はそれに気付いていた。

 久我が自分で言っていたように命の灯火がもう消えかけていることも賢治は気付いていた。

「……上司の命令は絶対。あなたから聞いたことです。……すいません」

 拳銃二丁を持ちながら洋平と光に逃げる方向を知らせる。

「うぁぁぁ」

 そんな久我の最後の言葉を賢治は気付いていない振りをしながら洋平と光を逃がす。

 男は食らい終わった久我の骨を吐き出し足ですり潰した。血の匂いを感じ取ったのか数体のゾンビが男に近付くが、その全てが男によって殺され食われた。

 その姿はまるで悪魔に取り憑かれた存在のようだった。後に男のような存在は悪魔憑きと呼ばれることになる。

 久我が逃がした三人は無事生存者のいる音楽室の前に着いた。

「……ここだ。入ってくれ」

 上司の死によって悲しみに沈み込む賢治は力ない声でそう二人に伝えた。

「……俺たちのせいですいません」

 洋平の言葉によってようやく自分のしていたことに気付いた賢治は手を横に振る。

「違うな、俺のせいだ。……すまんな、久我さんがいない今、俺がやらないと」

 彼のその言葉になにも言えない二人。だがその決意に水を刺さないように彼らは静かに首を縦に振った。

 ガチャリと扉を開けた先にいたのは数人の生徒と長部、そして警備員らしき人が二人だ。

「洋平と光、二人とも大丈夫だったか?」

 長部は二人を見つけるとすぐにそう言葉をかけていた。

「はい、なんとか」

 洋平の言えた言葉はその程度だった。それでも長部を安心させるには充分だった。

「なに! 久我が死んだだと!」

「すいません空木さん、俺がいながら」

 「いいや」と首を横に振りながら空木は笑った。

「よくやったよ、あいつの最後に託したものを連れてこれたのだから。今度は俺たちで守らないといけねえ」

 空木はそうみんなに聞こえるように言った。賢治はまだ悲しみから抜けきってはいなかったがそれでも無理やり納得することにした。

「それで本命の食料は?」

「葛城さん、それはなんとか」

 リュックサックの中に入っていたカンパンなどの日持ちのするものを賢治は取り出した。それを見て満足げに首を縦に振る葛城だがすぐに口を開いた。

「それでもジリ貧だな。ここから出る手立てを考えておかねえと」

 葛城の言葉が防音の音楽室に響いた。

なんか賢治の主人公感が凄い……。主人公は洋平ですからね!


これからもよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。

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