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第4話 包囲網

 ここは西の隔離区域から最も近い防衛都市『ヴァナヘイム』。

 その中心にそびえる議事堂の最上階。ステンドグラスから差し込む光の中、一人の男が巨大な円卓の前に立っていた。

 特位聖騎士(エクセルシオネスアーサー)にして、この都市の国長を務める男、ヴァン・フォンシオン。

 豪奢な白銀の甲冑を纏う彼の前に、空間を歪めて「通信」のホログラムが浮かび上がる。それは、世界政府――保安省からの直接の通達だった。

『――西の隔離区域に、反逆者「黒の騎士団」が潜伏している兆候あり。さらに、システム外の未知の力を持つイレギュラーが同区域に逃げ込んだ可能性が高い』

「……忌まわしき『毒』の満ちる遺跡にですか。ネズミどもめ、這い入る穴はそこしかなかったと見える」

『特位である貴官に、直接の制圧命令を下す。目標は黒の騎士団の完全殲滅、およびイレギュラーの捕縛、あるいは抹殺。我が国の完璧な秩序に、たった一つの例外も許してはならない』

 ヴァンは冷徹な声で応えた。

「御意に。このヴァンの名にかけて、神の剣を以て浄化いたしましょう」

 通信が途切れると同時に、ヴァンは背後に控える副官へ鋭い視線を向けた。

「聞いたな。全軍に第一級の戦闘態勢を命じろ」

「はっ! しかしヴァン様。あの隔離区域には、我々の魔法を蝕む精霊の毒が――」

「案ずるな。我々には世界政府より与えられた『神の加護』がある。包囲網を敷き、外堀から一匹残らず燻り出すのだ」

 ヴァンの号令の数時間後。

 ヴァナヘイムから進軍した数千の聖騎士団が、西の荒野を白銀に染め上げていた。

 絶対的な武力による、隔離区域の完全包囲。逃げ場のない死の檻が、レオたちのいる遺跡を取り囲もうとしていた。


 西の隔離区域を取り囲む荒野には、音もなく白銀の幕(野営地)が引かれていた。

 ヴァナヘイムから進軍した数千の聖騎士団は、決していかにもな陣形は組まない。岩陰や枯れ木に身を潜め、完全に気配を絶って「その時」を待っていた。

 隔離区域の中は、魔法を蝕む精霊の毒が充満している。いかに特位聖騎士(エクセルシオネスアーサー)率いる精鋭であっても、足を踏み入れれば数十分と持たずに死に至る。

 だが、ヴァン・フォンシオンは焦っていなかった。反乱軍として活動する以上、彼らはいずれ必ず外界へ物資の調達や工作に出なければならない。一生引きこもっていれば、それはもはや反乱軍ではなくただの遭難者だ。

 包囲を敷いてから数日が経過したある夜。

 偵察部隊から、ヴァンの元へ報告が入った。

「ヴァン様。隔離区域の境界付近にて、空間の歪みを確認。男女二名が虚空から現れ、そのまま境界の内側へと消失しました。……おそらく、空間転移の異能かと」

「空間転移だと?」

 ヴァンは眉をひそめた。世界政府の管理下にないイレギュラーな力の存在。彼は即座に暗号通信で政府へ報告を上げ、包囲網の監視レベルをさらに引き上げた。

 そして、その「網」が獲物を捉えたのは、さらに数日後のことだった。

 深夜の荒野。再び空間が歪み、波紋の中から数人の影が吐き出された。

 物資調達に出ようとした黒の騎士団の部隊だ。先頭に立つのは、空間転移の能力を持つ女性、メアリ・ストリート。

「よし、出られたわね。急いで西の街区へ――」

 メアリが指示を出そうとした、その瞬間だった。

 月明かりが、突如として頭上から降ってきた強烈な閃光に掻き消された。

「なっ――!?」

 回避する暇などなかった。

 巨大な質量を持った白銀の雷光が、メアリたちを取り囲むように地面に突き刺さる。爆風が吹き荒れ、同行していた黒の騎士団のメンバーたちは為す術もなく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 砂煙が晴れた後、そこに立っていたのは、豪奢な白銀の甲冑を纏った一人の男。

 特位聖騎士(エクセルシオネスアーサー)、ヴァン・フォンシオン。

「空間を渡るネズミども。這い出てくるのを待っていたぞ」

 圧倒的な魔力の重圧。二位聖騎士とは次元が違う、まさに「災害」そのもののような暴力的なオーラがメアリたちを押し潰す。立ち上がろうとした団員たちは、ヴァンの視線を浴びただけで呼吸すらままならず、次々と意識を刈り取られていった。

「くそっ……!」

 メアリは歯を食いしばり、懐の短剣を抜いた。だが、ヴァンは表情一つ変えずに歩み寄り、冷たく見下ろす。

「無駄な抵抗はよせ。俺たちを中に連れて行け。さもなければ、ここで全員死ぬことになる」

「……誰がそんなことをするものか。我々は大義のため、いつでも死ぬ覚悟はできている!」

 メアリは鋭く睨み返した。アジトへの道を売るくらいなら、ここで自害することも辞さない覚悟だ。

 だが、ヴァンは血の通わない冷笑を浮かべた。

「確かにお前たちを殺すのは簡単だ。だが、そうしたらどうなる? 唯一の出入り口である『お前』を失えば、中でおとなしく待っている仲間たちは隔離区域から永遠に出られず、いずれ餓死することになる」

 その言葉に、メアリの肩がビクッと震えた。

「誇り高く死ぬのは勝手だが、その方が結果的にお前たちの大義を果たせなくなるぞ。それとも、中の仲間を見殺しにするのがお前たちの正義か?」

 ヴァンの冷酷な事実の突きつけに、メアリは奥歯を強く噛み締めた。

(ここで私が死ねば、ウィリアムも、団の皆も、隔離区域という巨大な棺桶に閉じ込められることになる……!)

 しかし、もしこの化け物を中に引き入れたら?

 アジトは壊滅するかもしれない。だが、中には歴戦の猛者たちと、リーダーのウィリアムがいる。そして何より――二位聖騎士を単独で打ち破った謎の青年、レオがいる。

(……この男を一人で相手にするより、中に引き込んで全戦力で迎え撃つ方が、まだ生存の目がある!)

 メアリは一瞬で戦況を計算し、短剣を地面に投げ捨てた。

「……わかったわ。案内する。その代わり、私の仲間たちの命は保証しなさい」

「賢明な判断だ。案内しろ、反逆者」

 ヴァンが部下たちに合図を送る。

 メアリの空間転移の異能が発動し、世界政府の最恐の刃が、ついに絶対の聖域へと足を踏み入れようとしていた。

※世界観の補足:聖騎士アーサーの階級について

今回登場したヴァンを含め、体制側の武力である聖騎士は4つの階級に分けられています。

特位エクセルシオネス

総隊長クラス。1つの国に1人しか存在しない、文字通りの「最高戦力」。(今回登場したヴァン・フォンシオン)

一位プルミール

隊長クラス。1つの街に1人配置され、その地域の全権を握る実力者。

二位ドゥージェム

部隊長クラス。強力な魔法を操り、一般の部隊を束ねる。(第2話でレオが辛くも撃破したジョージアがこの階級)

三位トワジェム

見習いクラス。それでも一般の警察官を凌駕する力を持つ。

「特位相手にどうやって切り抜けるんだ…?」と少しでも続きが気になった方は、

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