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第14話 再会

 旧世界の遺跡を抜け、三人は東の隔離区域へと向けて荒野を進んでいた。

 歩きながら、レオはふと湧き上がった疑問を口にした。

「なあ。西のアジトは致死の毒霧で覆われていたから、入るためにメアリの『空間転移』が必要だったよな。今回はそのメアリがいないが、どうやって東のアジトに入るつもりだ? 政府の検問だってあるんだろ」

 その問いに、先頭を歩いていたチャールズが振り返り、肩をすくめた。

「心配いらないよ。東のアジトは、西とは全く別の理由で『隔離』されているからね」

「別の理由?」

「あそこは『ミズガルズ』。魔法が使えないノーニューメンたちだけが押し込められた、巨大な集落だ」

 チャールズは淡々と語る。

「俺たちノーニューメンは、ミズガルズから一歩でも外に出れば、魔法社会の住人から迫害を受ける。だから誰も外には出ないし、逆に外の人間がわざわざ薄汚い不適合者の街に足を踏み入れることもない。……つまり、あそこには世界政府の監視の目もなければ、国境付近の検問所すら設ける必要がないんだよ」

 社会から完全に「無視」されているからこその、絶対的な死角。

 その状況は、反逆を企てる黒の騎士団にとって、これ以上なく都合の良い隠れ蓑だった。だからこそ彼らは、ミズガルズという国そのものを「東のアジト」として利用しているのだ。

 チャールズの言葉通り、三人は政府の軍や警備兵に一切出くわすことなく、すんなりとミズガルズの内部へと足を踏み入れた。

 だが、そこにはレオの想像を絶する光景が広がっていた。

 無秩序に増築されたトタン屋根の家屋。壁という壁を埋め尽くす極彩色の落書き。道端にはゴミが散乱し、鼻をつく悪臭が漂っている。路地の奥からは、時折誰かの悲鳴や、怒号が響いてきた。

 生きるためのエネルギーと、絶望が入り混じったような、荒れ果てたスラム街。

「スリには気をつけろよ。ここは油断すると、身ぐるみ全部剥がされるからな」

 チャールズが、どこか楽しげな嘲笑を交えて忠告する。

 見れば、路地裏にたむろするガラの悪い男たちが、獲物を品定めするようなねっとりとした視線をレオたちに向けていた。

 だが、彼らの視線が先頭のチャールズの顔を捉えた途端――男たちはまるで死神にでも出会ったかのように顔面を蒼白にし、這うようにして蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 この無法地帯において、第2席であるチャールズがどれほどの恐怖の象徴として君臨しているかが窺い知れた。

 しばらく混沌とした街並みを歩き続けると、やがて街の中央にそびえ立つ建造物が見えてきた。

 それは、周囲のスラムとは明らかに異質な、石造りの中規模の「城」だった。どうやらここが、黒の騎士団の東の拠点らしい。

 城の中に入ると、待ち構えていた黒の騎士団の団員が、レオとビリリオスをそれぞれ別の客室へと案内した。

「お二人には、それぞれ個別の部屋をご用意しております。リーダーが到着次第、またお呼びしますので、それまでは自室でおくつろぎください」

 過酷な戦いと野宿が続いていたレオにとって、四方を壁に囲まれた、しかもあの犬猿の仲のビリリオスと顔を合わせずに済むプライベートな空間を与えられたことは、望外の幸運だった。

 レオは部屋に入るなり、備え付けられていたシャワーを真っ先に借りることにした。

 温かい湯が、ヴァンとの死闘やゴーレム戦でこびりついた血と汗、そして極度の疲労を洗い流していく。

 久しぶりの人心地に、レオは深く息を吐き出した。

 シャワーを終え、さっぱりとした格好で浴室から出た直後だった。

 ――コン、コン。

 ふと、部屋の扉をノックする音が響いた。

 案内してくれた団員が何か用事でも思い出したのだろうか。レオは無防備なまま近づき、ガチャリと扉を開けた。

「……え?」

 レオは、全身の時が止まったかのように硬直した。

 薄暗い廊下に立っていたのは、団員でも、チャールズでもなかった。

「……久しぶりだな、レオ」

 そこにいたのは、かつてレオが警察官として共に働き――そしてある日突然、謎の『失踪』を遂げたはずの親友、ドナルド・ステラだった。

エピローグ

 首都ヴァルハラ。白亜の塔の最上階。

 世界政府の中枢たるその窓のない豪奢な部屋に、突如としてけたたましい警報音が鳴り響いた。円卓を囲む数人の影たちの頭上で、これまで青白く明滅していた無数のルーンが、一斉に血のような赤色へと染まる。

「……馬鹿な」

 ルーンが弾き出した報告を読み取った影の一人が、驚愕に声を震わせた。

「有能な男だったはずのフォンシオンが……討たれただと?」

「あの特位が敗れたというのか!?」

 絶対的であるはずの戦力の敗北。

 部屋の空気が一気にざわめき立つ中、ルーンはさらに新たな凶報を投影し続ける。

「フォンシオンの訃報だけではない。反逆者どものリーダーであるウィリアムが、残存戦力を率いて、主不在となった『ヴァナヘイム』へ侵攻を開始したとのことだ!」

 その報告を聞いた瞬間。

 これまで円卓の奥で沈黙を保っていた、最も巨大な影がゆっくりと立ち上がった。

 男は、壁に立てかけられていた身の丈ほどもある巨大な「大剣」を無造作に手に取ると、その切っ先を床に突き立てた。ズシン、と塔全体が震えるような重低音が響く。

「これ以上、奴らの好きにはさせられん」

 地の底から響くような、圧倒的な威圧感を放つ声。

「まずは、奴らの戦力を文字通り『半減』させる」

「……ヴァナヘイムに出向くのか?」

 別の影が問うと、大剣を手にした男は鼻で笑って首を振った。

「いや、ヴァナヘイムへは距離が離れすぎている。今から向かっても後れを取るだけだ。それに、奴らのリーダーであるウィリアムを狩るには、それなりに準備と時間を要する」

 男は目を細め、空中に浮かぶ世界地図のルーンを睨みつけた。

「奴らにはもういくつか、別の拠点となるアジトがあるのだろう。……私は、『ミズガルズ』にアジトがあると睨んでいる」

「ミズガルズ……ああ、あの魔法を持たない劣等種どものゴミ溜めか。確かに、我々が管理していないのはあそこくらいだ。逆に言えば、そこしか隠れ場所はあるまい」

「それにしても、わざわざあの肥溜めに自ら出向くとは。これまたご苦労なことだな」

 別の影が嘲笑気味に肩をすくめる。

 だが、大剣を手にした男は、不敵で獰猛な笑みを浮かべた。

「なーに。ついでにゴミ掃除もしてきてやろう」

 男の瞳の奥で、暴虐の炎がギラリと燃え上がる。

「定期的に、掃除は必要だろう?」

これにて第2章へ繋がる幕間が完結となります。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

無法地帯「ミズガルズ」での、失踪したはずの親友・ドナルドとの予期せぬ再会。

そして、特位の敗北を受け、ついに世界政府のさらなる脅威が東のアジトへと動き出します。

レオとドナルドの間に一体何があったのか。そして、迫り来る巨大な大剣の男から逃れることができるのか……!?

ここから物語はさらに加速していきます。

少しでも「面白い!」「第2章の展開が気になる!」と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【☆☆☆】を【★★★】にして応援していただけると、今後の執筆の最大のモチベーションになります!

(※ブックマークやフォローも大変励みになります)

次回から、いよいよ激動の第2章がスタートします。引き続きよろしくお願いいたします!

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