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第89話 港町の記録係

北欧世界。


沿岸の港町。


昼。


最近、新しい役割が生まれていた。


“記録係”。


戦士でもない。


司祭でもない。


ただ。


小さな異変を書き残す者。


港倉庫の隅。


若い神兵が記録板を広げている。


『東側波濁り 小』


『鳥型侵食個体 二度確認』


『漁師夢報告 三件』


全部、小さい。


だが。


誰も笑わない。


最近では、それが港を守っていた。


その時。


老漁師が腰を下ろす。


「今日も書いとるか」


神兵が苦笑する。


「最近、増えまして」


老漁師が海を見る。


黒い。


だが。


今日は静かだった。


「昔は剣だけで良かった」


小さい声。


「今は違うな」


風。


魚箱を運ぶ音。


港は動いている。


止まってはいない。


その時。


海側上空。


黒い鳥が高く旋回する。


沈黙。


神兵が記録板へ追記する。


『鳥型確認』


『接近なし』


鳥は少しだけ旋回し。


静かに海へ戻った。


港町は昼を続けていた。


(次話へ)


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