■ 第53話 「ケルト側の森」
ケルト世界。
深い森。
霧が濃かった。
探索隊がゆっくり進んでいる。
目的は単純。
最近、人類側掲示板で増え始めた“森の夢”。
その発生源調査。
先頭を歩くのは、狩猟神ケルヌンノス。
後方には神兵数名。
全員、静かだった。
以前のような緊張感ではない。
今は。
“何が起きるか分からない警戒”。
そんな空気。
神兵の一人が小声で呟く。
「最近、本当に海じゃなくなってきましたね」
ケルヌンノスは森を見る。
木々は普通に見える。
だが。
時折、影の位置がおかしい。
「侵食が広がってるんだろう」
神兵が神名確認を行う。
最近では、探索前の日課になっていた。
「ケルヌンノス様」
「ブリギッド様」
「ルー様」
確認。
固定。
忘れないため。
その時。
霧の奥で、小さな音がした。
全員が止まる。
沈黙。
だが。
何も出てこない。
ケルヌンノスが前へ進む。
ゆっくり。
森の奥。
そこには、小さな湖があった。
黒い。
以前の海と同じ色。
だが。
規模は小さい。
神兵が息を呑む。
「森の中に……」
湖面が揺れる。
その瞬間。
“鹿”が現れた。
沈黙。
黒い。
輪郭が曖昧。
目がない。
それでも。
普通に森を歩いている。
ケルヌンノスは武器を構えない。
観察する。
“鹿”はこちらを見る。
数秒。
そして。
静かに森の奥へ消えた。
神兵が小声で呟く。
「……攻撃してこない」
ケルヌンノスは湖を見る。
「最近は、ああいうのが増えた」
侵食存在。
だが。
以前ほど aggressive ではない。
観察。
徘徊。
接触確認。
そんな行動が増えている。
神兵の一人が記録板へ書き込む。
『森型侵食個体確認』
『敵対行動なし』
静かな調査。
それだけで終わる。
だが。
確実に世界は変化していた。
――観測記録
観測層:第3層
対象:ケルト世界
状態:局地探索段階
更新:
森型侵食反応を確認
変化:
侵食個体の行動傾向変化
評価:
探索型接触増加中
補足:
侵食領域が海以外へ拡散傾向
追加記録:
小規模黒湖を確認
結論:
侵食環境 多様化段階へ移行
(次話へ)




