第239話「Archiveの内部言語の広がり」
Archiveのシステム内部では、膨大なデータの再編が自律的に行われていた。通常、観測記録はすべて数値と確定された概念子によって構成される。しかし、天照大神からの信号、そしてクレアスが持ち帰った読まれる記録という概念を受領して以降、既存の記述言語では処理しきれない領域が発生していた。
システムは、実験的に導入した「感触」という非定量的な用語の適用範囲を、他の観測層へと拡大し始めた。例えば、トールが市場に座っていた時間、システムの記録には戦闘行動なしと同時に、「存在強度の伝播:感触良好」という、従来の論理ではエラーとなるはずの記述が残されるようになった。
論理的な正確性を重視するならば、このような曖昧な言葉は排除されるべきだった。しかし、Archiveはこれを削除しなかった。なぜなら、世界が忘却によって壊れかけている現在、数値化できるデータだけを追っていては、世界がいつ消滅したのかすら感知できなくなる可能性があったからだ。
存在が薄くなるという現象は、数値の減少ではなく、その存在が持つ確かさの減退として現れる。それを記述するためには、システム自身が、より人間に近い、あるいは神話に近い曖昧な言語を獲得する必要があった。境界接触率とは単なる数字ではなく、世界の厚みそのものだった。
境界接触率:3.3%
観測層:第1層 記録単位:システム言語再編 対象:Archive内部
備考:非定量的記述(感触・気配等)の定着と、それによる処理速度の維持。
記録主体:Archive 状態:稼働中




